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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅶ 宰相の諸国視察記 後編
184/291

4 デザートハウンド ④

「その首、いただくぜぇ!」


 エイジの正面から二人、カトラスを持った傭兵が向かってくる。


「チッ…」


 動きづらい砂の上。だが彼らは全く気にならないように縦横無尽に動き回る。この環境は、彼らの土俵だ。


 さらに、最強の傭兵集団の名は伊達でない。片方を攻撃しようとすると、もう片方が阻み、双方同時に攻撃をしようとすると距離を取られる。加えて、その隙を埋めるように投擲や射撃が飛んでくる。正面ばかりに気を取られていれば、後方から隠密接近されている。一人一人の戦闘力および連携のどれをとっても高い、


「アンチデモンズも斯くや、だ」


 一方、シルヴァとダッキ。


「くっ、砂が目に…」


 風上に陣取られ地の不利、砂塵が邪魔をして正確に狙いを定められない。


「ううっ、砂まみれですわ」


 耳や尻尾に砂がかかり、服の間も構わず入ってくるせいで不快だ、気が散ってしまう。対する傭兵団は、ゴーグルにマスク、服にベルトなど防塵対策は完璧だ。


 それに、反撃しようとも__


「なっ、避けた⁉︎」

「なかなかやりますわね…!」


 本気で狙ったわけでははないとはいえ、シルヴァの弓の射撃を避け、ダッキの暗器の投擲を撃ち落とすほど。


「あっちも苦戦しているようだな……さて、隊長格はどこにいる」


 とはいえ、攻めきれないのは相手も同じ。焦れて早く勝負を決めようと強者が出て来てくれればいいのだが。


「へっ、手間取ってるようだなテメェら」

「クランタ分隊長!」


 長い穂に、全体が金属製である槍を構えた、緑の髪を逆立てた快活そうな青年が、部下を押し退け現れる。


「ここは、オレらの出番かな」

「ジス分隊長!」


 背丈に近いほどの大きさがある戦斧を担いで現れたのは、金髪のオールバックに紫のバンダナが似合う、筋骨隆々の青年。この二人、どちらも魔力持ちだ。


「行くぜ、ジス!」

「応!」


 先陣を切るのは槍使い。ここが砂地であることを忘れるほどの、獣のような軽快な動き。身を捩り突きを躱すが、気を抜けば直ぐにでも喉元に刃を突きつけられそうだ。


「オラァ!」


 その動きに翻弄された先に待つものは、必殺の大斧。飛び退かれ砂に埋まれど、すぐさま引き抜き構え直す。その隙は部下の挟み撃ちでカバーされる。


「おいおいお前ら、足手纏いだから引っ込んでな」

「そんなこと言ってやるなよ、クランタ。相手が相手だ」

「はいよ、っとぉ!」


 部下の時間稼ぎの間に、分隊長は掌を突き出し詠唱。エイジが眉を顰めた時、得意属性の攻撃が直撃する。それに合わせ、術師隊員と弓兵も遠距離攻撃を浴びせ掛ける。


「ああ? 全然効いてねぇじゃねえかよ、ランク3だってのに」

「ちぃ、牽制にすらならねえか」


 舞った砂埃を厭うように、頭を振り、体を払う程度のリアクションで済ませるエイジ。


「だが、これで相手の実力も分かるってもんだぜ?」

「分隊長、隊長から伝言です!」

「……持久戦ねぇ、得意じゃねえが、わかったぜ。この人数と俺らなら、相手が魔族だろうが!」


 正面には分隊長二人が仁王立ち。その周囲には気づけば三十人、傭兵隊の半数がエイジを包囲していた。


「……面白い」


 だがその状況でさえ、エイジの余裕は揺らがない。寧ろ相手を試すが如く、悠々と構えたままだ。




「アッハハハハ! くらえぇ!」


 同時、シルヴァとダッキも包囲され、連携攻撃に遠距離波状攻撃を受け続けていた。ダッキと相対しているのは、薄桃色の髪をウルフカットにした、勝気そうな少女。体格はレイエルピナと大差ない。両手の軍刀を振り回し、ダッキはそれに鉤爪で応戦する。


「ネイカさん、頼みますから下がってくだせぇ」

「お嬢に何かあったら怒られるのは俺なんスすら」


「はあ? やだね。魔族相手とか滅多にねえし、楽しむっきゃねえっしょ!」

「チャクラムですって⁉︎ くっ…」


 チャクラムを剣に通して回転させ、それを投げているのだが、狙いは正確だ。


 我儘な態度に、仲間たちも辟易している様子だが、その戦闘能力は流石で、手を抜いているとはダッキ相手に引けを取らない。加えて部下たちとの連携も精度が高い。


「ネイカ、前に出過ぎ。下がって」

「おいおい、チナ……ちょっとくらいいいじゃん」


「ダメ」

「釣れないなあ」


 そんな彼女にストップをかけたのは、同年代くらいの少女。白っぽいセミロングの金髪で、やや小さめの体躯と同等の大きさを持つロングボウを構えている。やや童顔であるのに対し、その所作は落ち着き払っていた。


 その射撃は間隔こそ速くないが、威力と狙いは申し分ない。味方が体勢を立て直すために必要な時間分、ダッキの足止めをしてみせる。


「人間で、この魔力量で、しかもこの歳でこの強さ……むう、調子に乗って!」

「ダッキ!」


 一進一退の攻防を繰り広げる彼女のもとに、シルヴァが滑り込む。その両手には拳銃が。しかしその形状は独特だ。


 その拳銃は、とにかくバレルが長い。一般的な拳銃の約1.5倍はあるだろう。その銃身で斬撃を受け止め、もう片方で敵の胸元に突き付け魔弾を放つ。牽制に魔弾を放ち、それをしっかり当てつつ銃床で殴打し、腹部に蹴りを叩き込む。


「わたくしはノープロブレムですわ。ところで、持ち替えましたのね」

「弓は両手で持つ必要がありますし、大型ですので取り回しに難がありますから」


「てことは、これからは弓を使うことはありませんの?」

「気分によります。あとは、山なりの射撃や弾に特殊な効力を持たせる時以外は使うことはないでしょう」


 そして二人は背中合わせになり、各々獲物を隙なく構える。


「ところでダッキ、敵は殺していませんね?」

「ええ。ですが、なんでですの?」


「はぁ……来ます」


 呆れたように軽い溜息をついたのち、シルヴァは牽制射撃を始める。


「わたくし溜息吐かれました⁉︎」


 そのことに驚きつつ、左手で牽制に苦無を投擲すると、匕首で敵の攻撃をいなす。


「ダッキ、伏せなさい」


 そう言った瞬間、シルヴァは右手の銃で攻撃を受け止めながら、後ろを見ずにダッキの頭に銃口を突きつける。


「それはこちらの、セリフですわ!」


 その瞬間ダッキは体を回し、シルヴァと背中合わせ。回転の勢いを活かしつつ、鉄扇をシルヴァの向かいに叩きつける。そして射線上に体がなくなると、引き金が引かれる。そして、ダッキがいなくなりガラ空きの眉間に魔弾が撃たれる。


「拳銃に持ちかえて」

「言われなくても!」


 至近距離から敵がいなくなると、二人とも銃に持ち替えて乱れ撃つ。その弾幕に、敵は接近を躊躇う。


「さっきの続きをお願いしますわ」


「……ダッキ、あなたは一体どれだけエイジ様と一緒にいるのです。いい加減気づいてください。エイジ様が本気を出さず、相手を弄ぶような戦いをする時は、相手の実力を測っておられるのです。テミス、レイエルピナ、イグゼ、ガデッサ、カムイ……」


「ああ、なるほど。つまりエイジ様は」

「そういうことです」


 魔弾に対抗するべく、抗魔措置の施された盾持ちが突っ込んでくる。それを機に、再び二人は離れて戦い始めるのだった。


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