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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅰ 宰相、始動
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7 戦闘訓練(2〜3週目)

 この世界に来て一週間が経ったその日。


「どうでしょう、ここまでできるようになりましたよ」


 エイジは体に魔力を漲らせ、指先に魔力を集中しビームを撃つ。あの日以降ちょくちょく魔王様にアドバイスをもらいつつ練習したところ、魔力の制御がかなり上達したようだ。


「おお、素晴らしい! ここまで早く、しかもそれほどのレベルにまで上達するのはかなり稀だ。いやしかし、制御が上達したからと言ってここまで魔力量が伸びる物なのか?」

「いえ、おそらく今まで無意識に抑えていたのでしょう。」


 嘘だ。無意識的では無い。チート級能力のおかげで非常に高かった魔力をいくらか扱えるようになったため、制限を外し、二割ほどにまで出せるようになっただけだ。


「まあいい。では、これから中級魔術の練習と魔術を使用した戦闘訓練を始めよう。モルガン、メディア!」

「ハァイ、どうぞ」

「んっ……」


 二人に抱えられていた魔導書が卓に積み上げられる。


「中級魔術は初級とはほとんど別物と言っていい程に複雑さが違う。見ればすぐにわかるぞ。初級魔術が簡単に習得できたからと言って油断すると挫折する。気を引き締めるんだな」


 そしてベリアルは一冊の魔導書を手に取り、こちらに広げてみせた。


「術式一つを見てみても、このように非常に複雑になっている。ちなみに上級はこれより複雑になるどころかあまり整然としていない、汚い形になる。研究が進んでおらず術式が簡略化されていないのが要因だ」


 魔導書を閉じると後ろに控えている二人に顔を向ける。


「これからは私だけでなく、彼女達にも手伝ってもらう。たまにフォラスやノクトも手が空いたら手伝ってくれるだろう。では教える、がその前に、再び講義の時間だ。今回は魔術の種類について。」


 エイジは魔導書に伸びかけていた手を止め、席に着く。


「一概に魔術と言っても攻撃魔術だけではない。まずは黒魔術と白魔術について。これらは定義が曖昧だが、黒魔術が攻撃や呪い、弱体など敵に害を与えるもので、白魔術に回復など支援する魔術が分類される。しかし死霊術や錬金術などといった簡単に定義できない分野もあり、あまり使われない表現だ。しかしさらに細かくすれば分かりやすく分類できる。攻撃や防御、支援に妨害。回復、召喚、錬金といった風にな。」


 エイジはベリアルの言ったことをモゴモゴと復唱する。


「そしてこの魔術の分類は重大な役割がある。魔術は九つの属性×魔術の分類によって決まる。例えば火属性の攻撃、風属性の支援、闇属性の妨害、水属性の回復、といったようにだ」


 エイジは顎に手を当て考える。今まで扱ってきた魔術を振り返ると、確かにその傾向があった。


 まず最初に学ぶ魔術がどの系統のものなのかを術式から把握することが大事だ。やることが全く違うからな」


「ふんふん、なるほど。よし、じゃあやるか!」


 取り敢えず適当に魔導書を一冊取り、開いて読んでみるが……


「うわぁ……」


 全然分からない。例えるなら算数が数学に変わった感じだ。


「まあ、そうなるだろうな。特にお前は習得が早かったが故にギャップが大きいのだろう。しかし二週間程ゆっくり時間をかけて習得していくから安心しろ。ここからはあまり急ぐ必要はない」


 エイジは本を閉じ、目をつぶって背もたれに体重を預け天井を仰ぐ。なんかめんどくさくなった。__まあ、必要なことだからちゃんとやるけど__


「ああ、そうだ。そこまで魔力の制御ができるなら、応用編を始めよう」


 __うへぇ、また高等なことを学ぶのか……__


「これは午後の戦闘訓練にも役立つことだ。いいか、魔力を身体に意識して流せると身体能力が向上する。強化したい部分に魔力を集中することで力や防御力が上がる。無論身体強化魔術の方が有効だが、いちいち魔術を使わずに強化でき、重ねがけもできるから便利なんだ。さらに、手に持つ武器に魔力を流すと丈夫さや威力の向上が望める。中級魔術は明日からにして、今から今日一日中魔力制御の訓練だ!」



 2週間目からは、訓練の段階が上がる。今までのように素振りや打ち込みだけでなく、相手側からも攻撃が来るのだ。無論、相手となる幹部たちは手を抜いているが、それでも彼らは想像を絶するほど強い。身体能力だけでなく、技の冴えや気迫といったものが段違いなのである。だが、そんな彼らを相手にすると言うことは、並々ならぬ経験値を積めることでもある。


 さらに、これは実戦形式である。戦闘に使うのは武器だけではない。戦闘訓練に魔術や魔力を使っていくのだ。午前に学んだ中級魔術や魔力制御を、午後の戦闘で実践する。


 エイジの訓練進捗は、最初の方は魔術を扱うのはかなり辛かった。魔力制御も、相手の動きに囚われ乱れがちだった。だが3週間目の中頃に入る頃には、中級魔術の一部を戦闘に軽く織り交ぜながら戦えるようになった。


 実際、近接戦闘をしながら魔術を使うのは、相当難しい。魔術を発動するには魔法陣や詠唱を覚えなければならないし、さらに敵の動きに集中しながら素早く展開したり、噛まずに早口で唱えたりで余裕がないのだ。慣れれば漫然と使ったり、手順を省略したりできるのだが、そこに至るまでがかなり難しい。エイジは相当できる部類である。彼曰く師が良いから、だそうだが。


 そして魔術を発動直前で維持して好きなタイミングで展開する『ストックキャスト』などといった細やかな魔術技もある。これをうまく使えば、戦闘中に悠長に展開できないような高位の魔術を不意打ちに使うこともできる。結局三週間のうちに、彼がこの手の技を使いこなすことはできなかったが。


 しかし彼の戦う術は、これだけではない。このハードな鍛錬の間にも、特殊能力の扱いを練習していた。着々と、誰にも気取られぬまま……

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