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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅵ 宰相の諸国視察記 前編
159/291

3 地下中央闘技場 ②

 場所は移り、剣闘士待機部屋。ガデッサはエントリーすると、そこの隅で縮こまるように自らの出番を待っていた。


「ヤツは……来てねえのか……?」


 出場者一人一人を隈なく確認する。しかし、あの白髪はおろか偽装状態の顔すら見つけることはできない。


「……クソッ」


 一縷の望みに賭けた自分がバカだった。もしあの出会いが無ければ、他の全てを見捨ててでも出場なんかせずに逃げるつもりだったのに。もしここで生き残れるなら、身の回りの者たちは、僅かな間だけでも安寧に過ごすことが出来るのだ。だから、生き残れる希望があるならと出場を選んだというのに。


「……ッ」


 恐れからか、体が震える。体を抱き、収まれと願う。しかし、寧ろ恐怖は増していく一方だった。自分がこれほど怯える羽目になるのは久しぶりで、しかしそれはトラウマを抉り、また彼にそれ程期待していた自分に失望する。


「いままでオレは……全て自力で__」


 その言葉は、部屋中に響いたアナウンスによって遮られる。開始時刻が知らされると同時に、ステージへの門が開いた。参加者だろう者たちは血に飢えた目をしていたり、平静を装っていたり、或いは見るからに怯えていたりと三者三様。


「やるしか、ねえか…」


 今までは頼もしかったが、今となっては貧弱としか思えないような棒を引き抜くと、ガデッサも舞台へ入場して行った。



「小さな背中だ…」


 前見かけた時よりもずっと小さく、今やか弱い乙女にしか見えぬ背を見て、憐れむように独りごちる。


「さーて、気ぃ抜くなよ、オレ」


 エイジはというと、のんびりリラックスしている。なにせ今までずっと激しい戦いを凌いできたのだ、今更こんなことで緊張なんかしない。それでも、今回は護衛対象がいる、気を抜いて怪我を負わせるわけにもいくまい。





 武舞台に入ると、周りから歓声とも罵倒とも取れるような怒号が飛んでくる。周囲の観客席には身なりの良い者が多い。実況も拡声器を手に何かを喚いている。戦士は命懸けだが、観客にとってはただの娯楽のようだ。


「胸糞悪りぃ」


 昔向けられていた視線と同じものを感じて、ガデッサは嫌悪と恐れを感じずにはいられない。


「っと、始まりやがった!」


 全員入場するとゴングが鳴り試合開始だ。型式はバトルロイヤル。円形の舞台の周りに水の満ちた堀がある。これに着水で場外。同時参加人数は百人強だが、それでも幾らかゆとりのある広さだ。予選三回、決勝一回。勝利条件は、予選は十人ずつの勝ち残り、本戦は三十分勝負。複数人優勝もありうるが、観客やスポンサーによって頻繁にルールが変わったり延長したりもするそうだ。つまり結局は、なんでもあり。


「ハァーッ、落ち着けアタシ。戦場を見渡せ、冷静になれ……」


 得物を構え、姿勢を低く、端に陣取り様子を窺う。穏便に済ませるなら自ら場外に落ちれば良さそうなものだが、それこそ臆病者の烙印を押され、咬ませ犬や慰み者として、決してこの施設から出ることは叶わない。負けても奴隷として飼い殺される運命だろう。自らの命を危険に晒してでも、真っ向から戦い生き残らねばならない。


「く、来やがったな! オラァ‼︎」


 数人に囲まれるが、その者たちには見覚えが。そうだ、かつて自分がぶちのめした奴らだ。復讐しにでも来たのだろうか。


 だが一度退けたのだ。そして今なお強くなり続けている彼女の敵ではない。武器を弾いて頭を殴り、腕もはたき落として蹴り飛ばす。


「仮にも、オレは地下を牛耳ったガデッサだ、舐めんじゃねえ!」


 自らを鼓舞すべく吼え立てる。しかしそのせいか、やや注目を集めてしまう。


「ケッ、しくじった…」


 強者としてマークされたか、いつの間にか包囲される。


「卑怯……もクソもねえか!」


 前から右から後ろから、四方八方に次々と攻撃が繰り出される。防いでは殴り返し、包囲をすり抜け走って距離を取り、再び少数と応戦する。


「はぁ……はぁ……クソったれが」


 だが、この戦い方は体力を消耗する。繰り返すたびに動きのキレが落ちていく。命のやり取りをする緊張からか、普段より疲れが溜まりやすい。更に彼女にはハンデがあった。


「ぐっ、見えねえ!」


 眼帯をしている、潰れた左目。死角がある以上、そこに回り込まれると一気に不利だ。そして遂に__


「しまった…!」


 得物を取り落としてしまう。自らを守る手立ては、もはや体一つとなってしまった。


「はっ…⁉︎」


 その隙を突かれた。左側からの接近に気付かず接近を許す。そしてその狂刃が、まさにガデッサめがけ振り下ろされようとした時__


「ぐあっ!」


 突如そいつが吹っ飛ばされる。そこには__


「よう、来てやったぞ」


 黒衣を身に纏った、かの男が立っていた。その一言だけを告げると、彼女を囲んでいた者たちは次々と蹴り飛ばされ、倒れ臥した。


「見返りは考えてきただろうな?」

「まさか、本当に来てくれるだなんて……」


「そんなに意外だったか?」


 潤み震える目で、じっと見つめられる。来てよかったと心底思えた瞬間だった。


「悪いな、エントリーがギリギリになっちまってよ。それと、最初に大暴れして変に注目されるのは悪手だぜ?」




 エイジの場合。招待状なしに外部から参戦しようなどというのはよっぽど奇妙であるらしく、正気か? などという目で見られながら開始ギリギリにゲートを通過した。


 試合が始まると、すぐさま攻撃を仕掛けてきた複数人の攻撃を、ポケットに手を突っ込んだままヒラヒラ避けていく。特に前半暴れている者は、血の気が多いというよりは怯えの色が強い。彼らの体には生々しい古傷があり、ここで闘うことを余儀なくされているのがわかる。女性も例外ではない。


__裏で何があるかなんて考えたくもないな__


 格好はいつもの黒マントなので、戦士然としている格好の多い中ではそこそこ目立つが。そんな舐めた格好の奴なんざすぐに消えるとでも思われていたのだろうか、あまりマークされていなかった。


 そんな状態で、試合開始より早くも十分、すでに四割が脱落していた。


__ずいぶん試合展開が速いな__


 そうも思ったが、命のやり取りならそのくらいにはなるだろう。そして、そろそろ強者と弱者の境界が見えてくる頃だ。ちなみに彼はその時点で、まだ一度も攻撃していない。武器も持っていない。なるべく影を薄くして、のらりくらりと正面衝突を避けながら終盤まで残ろうと思っていたのだが。


「ま、そうもいかないらしいのよな」


 そろそろ不審がられる頃合いだろうか、実況に目をつけられるとまずい。注目されないような行動をしてきたが、人が減ると同時にそれも難しくなる。さすがに動こうか。と周りを見ると、ガデッサが囲まれているのを見て、遂に手を出す覚悟をした。




「って感じ」


 そう言いながら、武器を右回し蹴りで弾き、左前蹴り手を打って落とさせると、右回し蹴りを上段に当てて倒し、追撃で踏みつけて動きを封じる。このような感じで、既に十名以上を戦闘不能に追い込んでいた。


「やっぱアンタ、バケモンだな…」

「まあね。ああ、誤解しないで欲しいんだけど、オレまだ本気の一割ほども出してないから」


「はっ……マジかよ」

「ところで、大きな怪我はないかな」


「お陰様で、な」

「おっと、ちょいそこどいて」


 先ほどの救出劇で注目が集まってしまったか、気付けば敵視が向いている。お喋りに興じているところ、ガデッサの後ろから迫っていた奴をドロップキックで退場させ、その体を足場にして元の位置に戻る。そして、彼の後ろから迫ったいた者にも、後ろ蹴りをお見舞いする。


「足技使いか」

「手には武器を持つからね。体術使うとすると自然に足が出る」


「そうかよ。ま、慣れてる様子だったからな。なかなか映えるぜ、ソレ」

「ん、そうかい?」


 ちょって照れた様子を見せるエイジ。だがその蹴りの鋭さは衰えることなく、次々と向かって来る者を返り討ちにしていく。


 そしていつしか、エイジのこの強さを見て不味いと判断したのか、周りの闘士からは手出しされなくなってきていた。積極的に攻撃されるわけじゃないのなら、放置して残りの座を奪い合おうといった感じだろう。


 最後にエイジが近くの数人ダウンさせると、ゴングが打ち鳴らされた。結果、悠々と予選突破だ。


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