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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅵ 宰相の諸国視察記 前編
150/291

プロローグ:異国の地

 大陸の中央に位置する帝国と王国の国境、その東の沖合を、船が三隻進んでいた。全長五十メートル前後の帆船、いわゆるガレオン船などと呼ばれるものに類似している。


 がしかし、その船は特殊だった。今風向きは南東寄りで、その船は帆を畳んでいるにもかかわらず、真っ直ぐ南へ、流されることなく一定の速度で進んでいく。


 其の船は、魔王国の船団。南へ活動範囲を広げるべく建造された、魔導エンジン、すなわち世界初の動力搭載型の船である。型番『Fn-30』。



 そのうち、先頭を進む船は、他と比べて一回り大きい。帝国から正規ルートで手に入れた帆船を改造したもので、フレーム強度は一番強固であり、装飾も施されている。その船は旗艦、魔王や幹部たち主要人物が搭乗している。その甲板で


「おえぇぇぇ……」


 身を乗り出し、顔を青ざめさせているのは、宰相エイジ。


「大丈夫ですか…?」


 彼の秘書であるシルヴァとダッキは、そばについて背中をさすってあげている。


「なっさけないわねぇ」


 呆れ、そしてどことなく心配そうなレイエルピナ。


「風が気持ちいい…」


 自分の出る幕はなさそうだと判断したテミスは、先頭で景色を眺めていた。


「おい……いつになったら着くんだよ……」


 結局戻すものなど腹になかったエイジは、端っこで座り込んで項垂れている。


「おーい、いつになったら着くんだい?」

「そうですね……この地図で言いますと、今ちょうど右間あたりですから……あと三時間ほどかと思われます」


「だってさ〜。折り返しあと三時間、がんばろ〜」

「むり……無理です……自分で飛んで行きたい……」


 絶望的なお知らせに、横になってしまった。


「ならばエイジよ、マストにでも登って景色を眺め、風に当たるとよかろう。少しは気も紛れるのではないか」

「嫌です。高所恐怖症ですから……テミスのとこ行こ…」


 海は別に荒れていると言うほどでもないのだが。完全にグロッキーなエイジは、ベリアルの見守る前で這いずるように動き始めた。


「アンタさ……一つ訊きたいんだけど。アンタって空をビュンビュン飛び回ったりしてるじゃない。なのになんで、高所恐怖症だったり乗り物酔いしたりするわけ?」


「一つ…良いことを……教えてやろう………自分で運転したりするのと乗り物に…乗る……のとで…は、勝手がちg__」


 力尽きた。


「そう……よくわかんない感覚ね」

「だが、アレを見ろよ……オレだけじゃない、アイツも証拠だ」


 震える手で指差した先。そこには、くたばっているレイヴンがいた。その側で、メディアもまた完全にダメになっていた。


「そ。ま、せいぜいあと数時間頑張りなさいよ」


 そう言うと、レイエルピナは彼の足を引き摺り先頭へ連れていく。雑ながらも、どこか優しい人なのだった。




 その三時間後…


「目印が見えました! 目的地です!」

「はぁ……ようやく着いたのか……ふぁ…」


 欠伸をしながらエイジは船室から出てくる。酔いに耐えられなくなって中で寝転がっていたが、いつの間にか寝てしまっていたようだ。


 先日の準備期間のうち、先行隊がこちらを視察、停泊に適した湾を見つけていたようで。王国領東側の、人気のないひらけた海岸だ。灯台もどきに旗、簡易的な桟橋等が見受けられる。船は速度を落とし、ゆっくりと進入。埠頭に係留、錨を下ろしエンジンを停止し着岸。


「よーし、到着! 揺れない地面っていいねえ」


 作業が完了するかどうかといったところで、エイジは船から飛び降りる。


「これが大陸の南側……うん、暗い」


 季節は中秋。十八時ともなれば、結構暗い。夜目の効く魔族にはそれほど関係ないと思うだろうが、特に何も無いという意味なのである。


「ですが、明らかに暖かいですね」

「うぅ、体がベタベタしますわ…」


 元変温動物(?)のシルヴァは敏感に気温を察知し、珍しくエイジにくっつかず、ずっと甲板で過ごしたダッキは、不快感に毛を震わす。さらに海沿い、湿気も酷い。


「皆様方、我々はこれから建設作業に入ります。翌朝までは、船室でお寛ぎ下さいませ」


 飛び出して行きたい気持ちは山々。しかし、活動には向かぬ夜であり、都市に向かうには遅過ぎる。それに、ベリアルや幹部たちがいるとはいえ、立場的にも着いてすぐに離れるわけにはいかない。


「じゃ、オレは手伝うわ」

「閣下ともあろうお方のお手を煩わせるわけには…!」


「昼寝しちまったしヒマ。ま、少し落ち着いたらこの辺りを飛び回ってみるさ。地理の把握は肝要だからね。エレンさんに頼んで地図でも描いてもらおうか」


 エイジは伸びをしながら、後続の船に向かっていくのだった。

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