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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅰ 宰相、始動
15/291

6 魔王城での暮らし(一週間目)①/2

 そして四日目の講義。


「教えるべきことは、もう多くない。そうだな、何かやりたいことの要望はあるか?」


「ふむ……でしたら城の中を案内していただけますか? 少し踏み込んだ知識が欲しいのです」

「分かった。だったら研究室や図書室でも見てくるといい。モルガンとメディア、フォラス、頼むぞ。そちらは彼女らの方が詳しいからな。」

「……いやです。」

「そうか、仕方ない。では二人、頼むぞ」

「はい、お任せ下さい」

「さあ、行きましょう?」



 二人に連れられてまず向かった先は、フォラスの研究室だ。彼の研究室では、多様な魔族がいろんな器具を手に、忙しなく右へ左へと動いている。


「ここが魔導研究室です。そして私が、ここの最高責任者なのですよ」


 さまざまな複雑な設備に器具が備えてあり、さらには高級品である紙を惜しげも無く使っている。まるでここだけ時代や文明が異なるようだ。そんな中、ふとエイジは疑問に駆られる。


「フォラスさん、魔導とはなんでしょうか? 魔術とどう違うのですか?」

「簡単にいえば、魔導とは魔術の研究をする学問分野のことですねえ。魔導士は、魔術の研究をして新たな魔術を開発したり、より簡略化して便利にしたり、魔術の技術を応用して道具を作ったりするのですよ。あとは、魔術を教え広めるのも使命ですね」


 いわば教授のようなものか、そうエイジは結論づける。そしてまたあるものが目に留まる。


「フォラスさん、これは何でできているのですか?」

「それは試験菅というもので、ガラスという素材でできているんです。しかし意外ですね、あなたの世界にもあるものかと」

「いや……ガラスも試験管もないわけじゃないんだ。こちらの世界で見かけるとは思わなかったから確認をですね……」


 目盛りや大きさの画一化などはなかったが、見た目も質感も試験管そのものだ。


「そうだ! 色々みてまわってもいいですか⁉︎」

「構いませんが、触れないでくださいよ? 知識のない者が触れると危険ですからね!」


 彼にしては珍しく鋭い声を出す。それほど扱いには注意が必要なのだろう。


 エイジは研究室の探索を始める。研究員達の邪魔にならないように注意しながら、いろんな設備や道具を珍しげに見て回り、たまにレポートなどを読んだりする。レポートは大半が彼にとって意味不明であったが、一部は今の知識の中でもわかる。その上で、それがいかに高度なことかにも理解が及ぶ。さらには現代程ではないにしても、自然科学の応用も見られる。寿命が長く知能の高い魔族は、研究員に極めて向いているのだろう、そんなことを元大学生という研究者の端くれとしては思わずにはいられない。


 半刻ほど研究室の中を探索した彼は、


「うん、わからないということがわかった。少なくとも、今の知識量では、ね。さてと、次は図書室に行きたいです!」



 次に彼らが訪れたのは図書室。壁一面に整然と書架が立ち並び、それでいて上品で、清潔である。管理人らしき魔族達も品があるように見える。ちなみに図書室の案内はモルガンだけで十分ということで、フォラスはまた研究室に引き篭もるらしい。


「ここが図書室よォ。ここの管理人はメディアちゃんなんだけどォ、彼女、基本屋上の天文観測室に引き籠ってて、なかなか出てこないのよォ。だから幹部の中で一番会わないわねェ。え、その間は誰が管理してるかって?それは、ワ・タ・シよ。ふふっ、意外そうなカオ、してるわねェ。うふふっ、怒らないわよ。案内したげる。ついてきて?」


 エイジは未だ驚きを隠せないながらもモルガンの案内についていく。


「ここが魔導書の類、ここが魔族の種類についてで、この辺りがニンゲンの文明について。ここに自然科学、ここが特に地理でェ、この棚が星について……そんなに驚かれると、ワタシ悲しいわァ」

「モルガンさん……アンタ、意外と真面目なんだな」

「えっ………ふ、ふふっ、あはははは! そんなこと言われたのは初めてよ! どう? ミリョク、感じちゃった?」


 エイジはモルガンが突然笑い出した時、地雷踏んだかと身構えたが、その後モルガンが女の顔をしながら腕に巻きついてきたことで別の意味で身構えることになった。


「モルガンさん、その……」

「やぁねぇ、さんなんてつけなくていいわよォ。……いいえ、つけないで。そっちの方がいいわ」


 声音から今までの軽薄さが消えて、突然真面目なトーンになり、抱きつき方も媚びるようなものから、愛しそうになったことでドキリとしてしまう。


「…………ふふっ、どうしたのよ、固まっちゃって。あ、もしかして女性経験ないのかしらァ?」


 その空気をあえて壊すかのようにエイジを冷やかしながら腕から体を離すモルガン。そして彼の手を引き、


「興味のある本はあるかしら? ワタシが手伝ってアゲル。アナタのことだもの、解説、必要でしょ?」


 本棚に連れて行く。そして彼女らは書物を何冊かとっては一緒に読み始めた。



「これは、___で、___……」

「へえ。あ、ここは?」

「それはね、___で……そういえばエイジクン、時間は大丈夫かしら?」

「えっ? ………あっ‼︎ やっべえ⁉︎ 午後練遅刻する‼︎」

 そしてエイジは昼食を食べ逃したのだった。



 そして四日目の鍛錬は、昨日と同じく素振りをしただけだ。しかし四人とも教え方がなかなか上手い。姿勢や剣筋、握り方が乱れるとすぐ手本を見せ、直してくれる。エイジは、自分はかなり不器用なはずだ、と思っていたのだが、彼ら幹部に教わっているとみるみると上達していくのが分かった。

 そしてその日から、幹部達の彼に対する評価がほとんど確定したらしい。曰く、学習、成長速度が非常に早く、戦闘の才があるそうだ。ただしその成長速度は頭を使っているからで、ある段階までいくと頭を使いすぎると逆に枷になるかもしれないとも。


 歴戦の戦士達のお墨付きによる思った以上の評価はかなり嬉しく、鍛錬に対するモチベーションが向上した。

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