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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅴ ソロモン革命
135/291

6 港区占領作戦 ④

 幹部緊急招集


「こんな時間にすまない、緊急の用件だ」


 何が起こったのか、知っている者と知らない者は半々のようだ。


「実はだな、エイジが__」

「大怪我したんでしょ」

「おお、知っていたのか。なら話が早い……いや、知らぬ者もいるか」


 一瞥しただけで、誰が知り、誰が知らないかを察知する。


「ふむ、知っているのはレイヴンと、エイジの嫁達か」

「だから! 嫁じゃない‼︎ ……です」


 娘の必死の否定にも、聞く耳持たずなベリアル。くっつく未来しか見えないし、それなら今からまとめて呼んでしまおう、ということだ。


「事の詳細は?」

「存じません。ですので……呼んできました。入りたまえ」


 こうなることを予測していたレイヴンは、ある者を呼んでいた。


「し、失礼します!」

「彼は、宰相に同行した部隊の隊長です。君、詳細を」

「はっ!」


 かくかくしかじか。


「以上が、今回の作戦の詳細です」

「ご苦労、下がっていいぞ」


 役目が終わると、彼はそそくさと退室していった。国のトップが顔を揃えるこの部屋は、一介の軍人にはプレッシャーが重すぎたらしい。落ち着かなかったのだろう、逃げるように退室していった。



「なるほど…」


 報告を聞き終えた面々は、どうにも名状し難い表情をしていた。


「エイジのやつめ、油断しやがって」

「まさか利き手を落とされるとはの……後遺症がなければ良いのだが」

「エイジ曰く、その者の持っていた剣は魔剣の類らしい。防御を貫通する能力を持っているとの見立てだ」


 本人の口から、主観的な詳細を聞き出していたベリアルが補足する。


「更に、不意打ちの直前に、突然酷い頭痛に襲われたらしい。能力の、代償だろうな」

「エイジサン、ムリジテタガラ」


 己を顧みず、身を削る様な働きをしていたのは誰の目からも明らか。つい最近過労で倒れたばかりだというのに。心配で、哀れで、しかしそれ以上に愚かしい。こちらは皆、心を痛めているというのに、それを考えていないのだろうから。


「ダガ、驚イタ。マサカ、落サレタ腕ヲ、クッツケテ回復デキルトハ」

「これは私の推論ですがね、おそらく多くの種族の力を取り込んだことで生命力が増し、切り口が綺麗で回復を阻害する要因もなかったこと、そしてその魔力による回復魔術の効果が高かったことに由来するでしょう。ともかく、腕が失われなかったのは良かったではないですか」


「そういえば、彼の口ぶりからして、エイジくんはあまり戦闘を求めていなかった様に見えたようだけど……きっと違うよね〜」

「ふっ、本心では戦いにうずうずしつつも、それを悟られぬような指示と言動ができるとは。エイジも人を騙すのが上手くなったな」

「その成長…果たして…喜ぶべきなの……」


 ベリアルは腹心の部下達と話しながら、チラリと見やる。先程から押し黙っているのは彼女たち……その心中を察し、刺激しないでやる。


「しかしあの狂乱した戦い様……彼奴にもそのような性質があったとは」

「だが、その後思い出したかの様に気持ち悪くなって、自制できなかったことと油断したことに落ち込むとは……」

「ふふっ、ほんとエイジクンらしいや」


 やはりどんなことがあろうと、自分たちの知っている彼だと分かり、ホッとして和む。


「で、その彼は今何をしているんですか」

「おお、そうだったな。では、会議の本題に入ろう」


 沈んだ様子の彼女らも、顔を上げる。


「アイツは今……八つ当たりに暴れ散らかしていると思われる。どうだお前達、感じたか? ここより南東、アストラス山脈最高プロメウスより、大きな魔力が発せられたのが」

「なっ、あの魔力、エイジのだったのか⁉︎」


「ベリアル様がやけに落ち着いているのは、そういうことでしたか」

「しかし、あの魔力の性質は……」


 何か引っ掛かった様子のノクト。その感覚は正しい。


「ああ。あの魔力は、◾️のものだ。今この度、はっきりと感じ、断定するに至った」


 ◾️。あり得ない、しかし薄々感じていたその真相。その存在をよく知るベリアルが肯定したというなら、間違いはないだろう。


「だとしたら、あの特殊能力にも納得がいきますな。しかしその場合、彼を信用できるものか……」

「僕は信じるよ。彼の僕達に対する態度は、裏表のないものだ。いくつか隠しているものはあるようだけど、それはエイジクンの生い立ち上、仕方ないことだと思うし」


「ベリアル様は?」

「私は言うに及ばずだと思っていたが? それに、彼自身がその真相に気づいていない可能性が高い。推測はしても、確証に至ってはいないだろう。」


「そもそも…彼は…私たちを裏切ることが…あると思う?」

「「「ないな!」」」


 満場一致。形式上懸念を示しこそするが、彼が害を及ぼす様な存在には思えない。


「まあともかく、今我々が考えるべきは、エイジが戻ってくるまでの一週間、アイツのいない穴をどう埋めるかだ」

「一週間、ですか」


「ああ、一週間以内には帰ってくると言った。大方、修行でもするのだろうな。八つ当たりにしては期間が長過ぎる」

「なるほどお。今回の失敗を反省して、鍛えるってことか。それなら、僕達を頼ってくれてもいいのに」

「エイジのことだ、まだ隠している能力を明かしたくはないのだろうて」


 エイジが思いつく様なことは、とっくに察せられたらしい。そして、その内心でさえも。その上で、慮って問い詰めたりはしてやらないのが優しさというもの。


「全く、やれやれです。私達に特命を課しておきながら、自分だけ姿をくらますとは。まだ聞きたいことは山ほどあるというのに」

「む、フォラス、特命というのは?」


「言えませんねえ。口外は禁止されています。例え魔王様といえど、あまりにしつこく食い下がらない限りは喋りません。もし口を割れば、もう私に情報が降りてくることは無くなってしまうでしょうから」

「分かった。そこまで言うなら深掘りはせんよ」


 研究のためなら、この男は何処までも頑なだ。口を割るのは難しかろう。忠誠心が無いわけではないので、詰め寄れば言うだろうけど。


「さて、ではエイジがいない間、私たちはどうするべきなのか__」

「決まっています。今課せられていることを継続するのみだ」

「レイヴン?」


 苛立った様な、そして毅然とした強い語気。この男が、しかも食い気味に、自らの問いに答えたことに、ベリアルは少し驚いた様だ。


「森を切り木材を集め、鉱山を掘り進め鉱石を製錬する。かつてアイツは言っていた、資源さえあればいつでもすぐに動けると。そしてそれを加工し、工業製品を作り出す。目下の最重要任務は鉄道だったはず。今の進行状況を調べていたが、見たところ佳境だった。ならば、アイツが帰ってくるまでに完成させるくらいの気概で進めるべきではないか?」


 柄にもなく、作業の基礎理論や進行状況などのまとめれた紙を読んでいたのは、きっとこのためなのだろう。どこか、こうなることを感じていたのかもしれない。


「そこの。いつまで落ち込んでいるつもりだ! アイツは結局怪我は治ったようだったし、過ぎたことはいつまで思い悩んでいても仕方あるまい。嫁、などとまとめて呼んではいるが、まだ嫁面するには早い。恋人ですらないのだろう?」

「そんなこと__」


「ほー、だったら告白したのかよぉ⁉︎ まだしてないんだろ⁉︎ ヤるならとっととするんだ!」

「レイヴン、落ち着いて。話がズレてる。そして、こういうのは段階が大事なんだよ」


「んんっ、すまん。ともかくアレは、きっとああいう男だ。過労の件で少しは慣れただろう。とにかく今は、仕事をこなせ。帰ってきたら、こっぴどく叱ってやれ。アイツは馬鹿で、鈍感だ。自分がどれほど思われているかを知らんらしいからな。思い知らせてやることだ」


 そして、ある人をじっと見つめる。今回の件で、最も心痛め、情けなく思っているであろう者に。その者は視線に気付くと、顔つきが変わる。


「フッ、持ち直したか。では、これからは俺も本気を出すとしよう。まあ最初から全力だが、見栄というやつだ。奴の代わりにはなり切れんかもしれんが、いままで活躍が少なかった分は取り戻して見せよう」

「レイヴン…!」


 久々に熱意ある様子の彼に、感激した様子のベリアル。エイジが来る前は、彼が魔王国のナンバー2だった。その活躍が、今この場で少しでも戻ることが喜ばしいのだ。


「では、アイツの真似事でもしてみよう。レイ嬢、フォラス。機関車の開発進行状況はどうか」


 エイジほど多くの知識を持つでもなく、彼ほど各部署の細かい情報を知るわけでもないし、改善の提案などできようはずもない。そんなことは自分でもよく分かっているが、司会くらいならできるはずだ。


「基礎理論は組み立ち、設計図も完成いたしました」

「あとはプロトタイプを組み立てて、実験するだけね」


「そうか。第一号機が走るのも、それほど遠くはないのだな。テミス姫とノクト、そちらはどうか。住宅の建設と、レールやパーツの加工だ」


「そうですね、一人につき一部屋と考えると三割分ですが……家族や相部屋で考えれば、七割ほどは。誰がどの部屋であるかは、モルガンさんが記録しているはずです。パーツの製造は、オーダーの八割は達成しました」

「レールの製造はフルで回してるよー。足りてるのか全然わからないけどね!」


「メディア、この状況は把握しているか」

「把握しては…いない……けど…データが、どこにあるかは…覚えてる」


「都度調べれば分かるということか。ならばよし。エレン、地図は作れているか」

「距離ト地形ヲ正確ニシタモノダナ。ソレナラバ、アル程度デキテイル」


「ある程度というのは? それを元に、レールを敷くつもりなのだろう」

「ソレナラバ不足ハナイ」


「そうか。俺が見て回ったところ、作業に対して人員増加が上回り、人手が余っているように感じる。その人員を使って、レールを敷設しよう。その指揮は、勉強してからにはなるが俺が執る。他の者は離れられないだろうからな。ではモルガン、作業員たちの名簿の作成はどうなっている」

「もう少しで終わるわァ」


「ならば、終わり次第、人員を製造の方へ回してくれ。少しでも多い方が良いだろうからな」

「少しは休暇が欲しいところなんだけどォ…」


「鉄は熱いうちに打つのさ。まだやる気や体力が残っているうちに、ある程度軌道に乗せなければ墜落してしまう。さて、エイジの秘書ダッキよ、一つ頼みがある」

「なんでございましょ?」


「秘書権限で予算を捻出し、諜報部隊を用いて、船を調達するんだ」

「あらあら、それはどうしてですの?」


「エイジがなぜ突っ走って半島に向かったか。それは、少しでも早く王国に向かいたいからであろう。ならば、そのために船も並行して建設していく必要がある。あとは港だが、それも帝国のものを調べておくんだ。俺たちが知らないと、またエイジが能力を酷使して頭をやっちまうだろうからな」

「なるほどぉ……了解ですわ!」


「さて、ベリアル様とエリゴスの管轄する鉱山だが、こちらは俺も出向いているからな、事故や産出量などについては頭に入っている。改善に向かっているし、特に言うべきことはないだろう…………さて、意見がなければ会議はこれで終いだが……俺は上手くやれていたか?」


 質問を促すが、レイヴンは怪訝そうな顔をする。というのも、何名かが驚いた様な顔で固まっていたからだ。


「出来ていたかも何も、完璧ではないか?」

「うむ。エイジには悪いが、レイヴン殿の方が上手のようにも感じる」

「ふ、それは年の功というものだ。それに、これは俺自身のやり方ではなく、アイツの真似に過ぎないし、アイツが司会の方が嬉しそうな奴も多いからな」


 皆の顔を見渡せば、彼がいる時に比べて、やはり元気が無い。今やエイジは居なくてはならない存在。皆が帰りを待ち望んでいるが、それまで何もしないわけにはいかぬ。やりきった上で、迎えてやるのが彼らのやり方。


「ありがとう、レイヴン。それでは、エイジが帰って来た時に驚かせられるくらい、仕事を進めてやろうではないか。皆の者、より一層職務に励もう!」

「「「了解!!!」」」


レイヴンの熱を引き継いだベリアルが激励する。時刻は深夜、しかしこの時間帯は、魔族が最も活発になる頃だ。決意新たに、魔王国は再点火する。


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