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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅴ ソロモン革命
134/291

6 港区占領作戦 ③

「さ、宰相殿、到着いたしました…」

「そうか…」


 激しく燃え上がる様な怒りは消えたが、それでも未だ超不機嫌のエイジ。軍の者達は、できる限り彼と関わりたがらない様子だ。そんなことは分かりきっているエイジは全く気にせず。仮設基地を建て始めた魔族達を横目に、エイジは自分の仕事を始める。


 魔導書にスクロール、触媒といった魔道具を広げると、陣を描き始める。陣を描き上げると、魔導書を開き起動する。触媒を配置し、補助とする。そして、最後に自身の魔力で魔術陣を始動状態にすると、地脈と接続させる。


 術の起動状況を再三調べ、砦に作ったものと連動するか確認する。問題ないことを確認すると、近くに座り、考え込み始める。既にある程度紋様が青白く光り、有効になったことを示しているが、安定状態になるまでは、もう一時間弱かかる。さらにその後、安全確認のために、生き物ではなく手紙や荷物などのものを転送する作業もある。だから……それまでの間、色々と考える余裕はある。



 まだ腕には違和感が残っている。だが、そんなことはどうでもいい。それより、腕を切り落とした敵への憎悪と、


「この、愚か者…!」


 慢心し油断した不甲斐ない自分への、憤怒と屈辱に苛まれる。油断の代償が大き過ぎた。


「……まさか、メディアのやつ、このこと知って」


 そう考えてみれば、彼女の不可解な行動といい、レイヴンとの会話でもフラグを乱立していた気もする。


「いや、奴等は悪くない……ひとえにオレの」


 今までさまざまな強者と戦い、圧倒あるいは善戦してきた。自信がついたのはいいが、過剰になり、傲慢となった。


「しかし、あの武器…」


 このままだと、また自己嫌悪のスパイラルに嵌りそうなので、当時の分析を始める。


「あの武器は…なんだ」


 漆黒の剣。あれは自分の防御を貫通し、腕を切り落とした。今まで剣による攻撃自体は、ベリアルやテミスといい、受けてきた。しかし前者は威力と当てどころを加減し、後者は肩に直撃したが、その威力はさっきのもの以上にも関わらず、大きなダメージにはならなかった。


「ランクはB、能力は防御の貫通、あるいはどんなものでも切れる、といったところか」


 つまりあのガキの技量ではなく、剣の性能を見くびったためにダメージを受けたのだろう。


「……にしても間が悪い」


 敵の不意打ちの意図に気付いた瞬間、頭痛や耳鳴りのせいで集中が削がれ、初動が遅れた。ラジエルの濫用、その報いなのだろうか。


「それだけじゃねえか…」


 それでも避けようと思えば避けれた。そうできなかったのは、不意打ちの前にどんな手を打てばいいか迷い、すぐに動けなかったことにある。


「狩っていいのは、狩られる覚悟のある奴だけ……圧倒的な力の前に胡座をかき、殺し合いをゲーム感覚で楽しんでいた、か。しかもその力さえ、半分さえ使いこなせず、出力に至っては四分の一などと……加えて感情の自制も出来ない上に、オレにあのような獣性があるなんてな」


 カッとなるとすぐ理性がトんで暴れてしまうのは、昔からの悪癖だ。それ以外にも、自虐しようと思えばいくらでも、まだまだ自分を責められる。


「はぁ……サイッテーだな」

「宰相殿、どうやら転移陣は安定した様ですが」

「……テストは任せる。オレはその辺りにいるから」


 不貞腐れたようにフラフラして、どこか隅っこで落ち込んだ様にしゃがみ込んだのだった。




 起動と動作確認を済ませると、砦を経由して魔王城に帰還し、帰還したあと、玉座の間に向かう。


「おお、戻ったか。その様子だと無事に……ではないようだな。どうしたんだ?」

「……なんでもありません」


 流し目で、投げやりに答えてしまう。


「何があったのか、話してくれ。」


 主君の要求だ。渋々ことの顛末を説明した。



「……そうだったのか…。」


 話を聞いたベリアルは複雑そうな顔をした。実際に顔は動いていないが、気配でわかる。説明して、あの時の痛みと屈辱を思い出し、またイライラしてきた。流石にこの怒りを、仲間に当たるわけにもいかない。


「すみませんが、しばらく一人にしてください。頭を冷やしてきます。一週間以内には帰りますから」

「おっ、おい!」


 そのまま踵を返し、顔も見ずに退出する。大股の早歩きで三階の翼竜の離着陸場に向かい、そこからそのまま飛び立つ。向かった先は南東の山脈の最高峰だ。 




「アアアアア‼︎」


 山頂に到達した後、今まで解放しなかった60%まで封印を解除し、絶叫しながら山を駆け降りつつ、拳を振るい魔力を撃ち出し、周囲に破壊を撒き散らした。環境が変わりそうなほどの攻撃を、遠慮することなく赴くままに八つ当たりしていく。さらに、降りながら少しずつ力を引き上げていく。駆け降りた後、麓で70%の力を解放すると、手当たり次第力の限りに暴れるのだった。




 そんなこんなで、三十分弱。


「はぁ……はぁ………くっ」


 疲れ果てるまで、散々暴れ倒してようやく落ち着けた。そして地面に、仰向けに倒れる。そこでふと我に帰り、もう帰ろうかなとも思った。しかし、一週間城を空けると言ってしまった手前、すぐ帰るのは決まりが悪い。無論、計画のアドバイザーとして、城にはできる限りいた方がいいのだけど。


「さて、どうしたもんかね」


 こんな何もないところで何ができるだろう……


 と考えていたら、ふと気が付いた。誰もいないなら、好きなだけ力を振るえるのではないかと。今までは周囲に被害が出るからと、城内などでは思いきり力を出せなかったが、ここなら誰にも迷惑はかからない。現に今まで扱えないと思っていた六割ほどの力を、やや加減が効かないが、暴れているうちになんとか扱うことができた。迷惑をかける心配のないここでなら、更なる力を解き放ち、力加減を覚える訓練ができる。


「ふっ、我ながら妙案だな」


 起き上がると早速、魔力をはじめとする能力の力加減の練習、戦闘のイメージトレーニング、さらには想像力をフル活用してチート級能力の新たな可能性を模索するなど、一人で、いや、一人の方が都合のいい鍛錬を始めたのだった。

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