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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅴ ソロモン革命
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5 過渡期 ④

「さて、と……」


 エイジは右手を上げると、指を鳴らす。すると部屋の壁に薄い膜が貼られる。


「もう一丁」


 指を鳴らす。発動したのは魔力スキャン。魔術の痕跡がないか走査する魔術である。


「うん、これでよし」

「そんな入念にする必要があるほどの用って、一体なんなのよ…」


 レイエルピナからは、強い疑念を向けられる。ベリアルやレイヴンなど、信用できるはずのトップ幹部にさえ伝えられない内容とは、如何なるものであるのかと……。


「レイエルピナ」

「…はい」

「君に頼みがある」

「…何よ」


 エイジは下げた右手に何かを握る。その手を真横に、水平に挙げると……パンッ! という乾いた破裂音が響く。慣れぬ音に、その場のほぼ全員が驚いた様子を見せる。


「何⁉︎ ……それ」

「これは、銃、という」


 安全装置をかけると、卓に置く。そのオートマチック拳銃を、物珍しそうに覗き込む面々。そしてエイジは、床に落ちた空薬莢を拾い、壁にめり込んだ弾丸を取って、銃のすぐそばに置く。そして銃をもう一度取ると、マガジンを取り出し、銃弾を一つ抜き取る。


「まずは、メカニズムについて説明しよう。これが銃弾。銃の、弾だ。先端についているのが弾頭で、素材は芯が鉛、それを銅合金で覆ったもの。後ろの筒が薬莢。そして尻にあるのが、雷管という。これを銃に込める。そして、引き金を引くと銃の後方にあるハンマーが倒れ、雷管を叩く。その衝撃で雷管は発火、薬莢の中に込められている火薬に着火し、破裂。その爆発の衝撃で弾が飛んでいく、という仕組みだ。どうだ、案外簡単だろう?」


 別にエイジはミリタリーオタクでも、サバイバルゲーマーでもない。ましてや警官や自衛隊などでもない。しかし、ゲームをやっていた時にふと興味を持ち、色々と調べていた時期がある。そして、一部の知識は能力で補完。まさかこのような知識が役に立つ日が来るとは、と感慨深げ。


「で、わたしへの頼みっていうのは……」

「そう、これを研究し、作って欲しい。見ての通り、これは兵器だ。どうだい、興味湧いてきた? こういうの好きそうだと思ってさ」

「まあ、そうだけどさ……」


 いかにもウズウズしている様子だが、どこか引っ掛かっている様子でもある。


「ああそうか。うん、分かってるよ。何で君たちだけに教えるかというと、信用しているからだ」

「アンタの主君であるお父様以上に?」


 解せない顔つきだ。敬愛し、心酔する、エイジにとっても絶対的であるような存在、養父ベリアル。この筒一つの扱いについては、ベリアルすら信用することができないような代物なのであろうか。


「へえ、秘書達はお父様以上なのね」

「その中に私がいるのは、不思議な感覚ですね」

「開発したとして、誰が製造するのだろう? そして、秘書はオレの護衛でもあるからな、持たせるつもりなんだ」


 まだどこか不服そうなレイエルピナ。秘書達が贔屓され過ぎているような気がしているから。


「順を追って説明するから、少し待ってね。この銃という武器のメリットだが、何といってもその手軽さだ」


 ハンドガンに再びマガジンを挿し込むと、両手で構え、何発も撃つ。


「引き金を引くだけで、致命傷を与えうるだけの威力の攻撃ができる。弓みたく番えて引いて離すなんて煩雑な動作はいらない。さらにサイズもコンパクトで、取り回しやすく携帯性に優れる。しかも、遠距離攻撃だ。五メートルでも十メートルでも、敵から離れた位置で攻撃できるから、剣や槍なんかの近接引きと比べても精神的余裕ができやすい。さらに、今までの武具と違って、鍛錬をしなくてもすぐに誰でも扱える。もちろん練習は必要だけど、この銃なら戦闘訓練を受けたことのない民間人でもすぐに使える。ナイフや農工具よりずっと確実だし。それに、狙いに自信がなくても…」


また何かを取り出して、銃の下部に取り付ける。


「このレーザーサイトがあれば、狙いがつけやすい。どうだ、とても便利だろう?」

「確かにそうね」


「では、これが世に出たらどうなるだろうか? ずばり、戦場が変わる。剣や鎧、弓などは銃によって淘汰され、火器が戦場を支配する。これは、オレの世界の歴史がそうだった。この世界には魔術があるが、それでも呪文を唱え、陣を敷くという手順は煩雑。魔術は応用が効くとしても、敵に損害を与えるだけなら銃の方がよっぽど簡単だ。このくらいは、簡単に理解できるね?」


 ここまで聞いた皆は、思い悩む暗い表情。銃弾飛び交う戦場がどのようなものか、想像できてしまったのだろう。


「さて、ここでようやく理由を言える。ベリアルやレイヴン、エリゴス達を追い出したのは、彼らが軍関係者だからだ。銃の利点を知れば、きっと銃の配備を渇望するだろうからね。オレ的には、銃の配備は時期尚早だと考えている」

「そう。その理由なら、納得はできないけど理解できるわ。でも、お父様大好きなわたしが言いふらす可能性は考えなかったわけ?」

「言ったろ、信じてるって」


 真っ直ぐ返された言葉に、照れ臭そうに顔を背ける。


「銃の導入は早すぎるって言ったわよね。なら、なんででわたしたちに作れって言うわけ? 自分だけの秘密にしておけばよかったじゃない」


 その感情を隠すように、正論を繰り出す。


「ふむ、確かにそうだ。けどね、いつ何が起こるかなんて分からないじゃないか。もし、何かの危機が迫ったとして、誰でも戦えるように銃が必要になったとしたら? すぐに大量生産なんてできっこない。でも、研究して開発して、製造ノウハウを確立したらどうだ? 作り方は分かっているから、材料さえあればいつでも作れるようになる」


「いざという時のための秘密兵器、ってことね」

「そーゆーこと。頼んだよ」


 脳裏にこびり付くあの光景。いつ起こるかなんて分からない。できる限りの準備をしなければ。その策の一つが銃だ。


「わかったわ……やるわよ。この銃を解析して、複製すればいいのよね?」

「いや、ちょっと待ってくれ。それ以外にも案がある」

「シルヴァ……さん、紙貸してくれませんか?」


 無言で差し出された用紙を受け取ると、慣れた手つきで、レイエルピナはペンを召喚する。


「まず、案1。これはそのまま、薬莢式の銃だ。そして二つ目、魔力弾を撃ち出す銃だ。方式も案は二つあって、使用者から魔力を吸い取るものでもいいし、マガジンを魔晶石にするも良しだ」

「なるほど、フォラスがここにいるのはそのためだったのね」


 ようやく合点がいったように、今まで空気だったノクトとフォラスを見る。


「案3。魔力で弾丸を錬金術的に作ってしまう方式。ま、ざっとこんなもん?」

「へえ、こんな案をずっと考えてたんだ」


「いや、さっき考えた」

「ッ! 流石の想像力ね」


 感心を通り越して、呆れたような顔だ。


「まあ、案三は難しいだろうから、案の優先度的には二の魔銃、次に一の薬莢式でお願いするよ。」

「へえ、魔弾の方なんだ。てっきり普通のやつかと思ったわ」

「ブローバックとかの概念は難しいからね。研究するより、実物あるから摸造しちまえばいい。それに、銃の種類はそれだけじゃない」


 そう言うと、エイジは自分の周囲に何梃もの銃を展開する。


「まずこれはリボルバー。撃つたびにシリンダーが回転するタイプでね、装填数やリロードに関しては不便だが、オートマチック式よりも構造が単純で信頼性が高い。そしてこれはライフル。バラしてみればわかると思うが、銃身の中に螺旋状の溝が掘られていてね。銃弾が通る時、溝によって回転がかかる。するとジャイロ効果によって、弾道が安定する。これにより命中精度が向上、正確な狙撃が可能となるわけだ。まあこの機構は、さっきのハンドガンとか、いろんな銃に取り入れられているわけだけど……きっと、シルヴァはライフルを気に入ると思うな。ハンドガンじゃ物足りないって、思ってたでしょ?」


 急に名前を出されて驚いた様子のシルヴァ。狙撃手である彼女がスナイパーライフルを構えたら、きっと様になるだろう。


「ライフルの射程距離は三百から五百くらい。弾薬次第だが、シルヴァの腕なら一キロ先からも狙撃できるかもしれないね。さて、ライフルにはセミオート方式と、手動のボルトアクション方式がある。当然手動の方が信頼性は高い。まあ、魔力式はセミオートだろうけどね。魔力方式でも狙撃能力を高めたいなら、魔力圧縮率を上げたり、当然回転運動を与えるのもいい」


 手動と自動、二種のライフルも机に置く。


「さて、あとは散弾銃だな。ポンプアクション式ショットガン。この銃は、撃つと一度に大量の小さな弾丸をばら撒くタイプで、近距離に強い。そして後は、サブマシンガンとアサルトライフルだが……」


 サブマシンガンを構えると、ワンマガジン分全弾発射する。


「こんな感じの超連射式ね」


 圧倒的な制圧射撃能力に、唖然とする。これほどの攻撃頻度を持つ武器は、この世界には存在しなかったことだろう。


「後はガトリングガンに、無反動砲とグレネードランチャー、そしてロケットランチャー。まあロケランは無理だろうけども……無反動砲っていうのは、砲弾発射時に後方にも噴射して、発射反動を打ち消すもの。見ればわかると思うよ、耳塞いでね」


 壁と人の周りに防御を張ると、エイジは遠慮なくぶっ放す! その威力を間近で体験した彼女たちは、またしても呆けた様子だ。


「これはきっと、レイエルピナが気に入ると思うよ。大火力、お好みでしょう?」

「……むう」


 好みを見透かされているみたいなのが、どうにも気に食わないらしい。素直に肯定したりなんてしない。


「さてと。これで一通りは終わりだよ。ちなみに、開発優先度は紹介順ね。ハンドガン、スナイパーライフル、ショットガン、サブマシンガン、アサルトライフル、無反動砲に、ランチャー。で! はいこれ。各銃の設計図〜」

「……ねえ、まさかとは思うけど。頭痛が悪化したのって、この設計図を入手したからだったりする?」

「お、よく分かったね。正解だ」


 ドヤ顔で銃の設計図を突き出す。しかし、返ってきた反応は


「バカなの」 「バカなのですか」 「バカなんですか」 「バカなんですの」

「グハッ…」


 四人に揃ってバカ呼ばわりされて、グサっときた。心配から出ている言葉だと分かってはいるが。


「あ…あとこれは…大砲の設計図です。仕組みも書いた。ああ、この大砲については公開していいよ」

「銃はダメなのに砲はいいの?」


「言っただろう? 手軽さが問題なんだよ。大砲はデカくて取り回しが悪いし、一人では使えない。一発撃つにも時間がかかる。防衛用に城中に配備するとかならいいと思うんだ」

「……分かったわ。この設計図は、アンタの形見だとでも思って厳重に扱うわ」


「レイエルピナ様、それは不謹慎が過ぎますわよ」

「…ごめんなさい、今のはなかったことにして」


 ダッキの珍しく強い語気の諫言に、レイエルピナもすぐに撤回する。


「ま、ともかく任せたよ。人の口に戸は立てられぬ、研究に参加する人数は少ないに越したことはない。作る時も、テミスの権力でこっそり作ってくれると嬉しい。君たちも手伝ってやってくれ。分からないところがあったら、訊いてくれれば教えるよ。さて、ノクトとフォラスさん」


「おー、やっと僕らの出番だ」

「完全に忘れ去られたかと思っていましたよ」


 いつの間にか端でつまらなそうにしていたフォラスと、エイジと彼女らのやりとりを面白そうに眺めていたノクト。ようやく出番かとばかりに、椅子から立ち上がる。

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