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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅴ ソロモン革命
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5 過渡期 ①

 ベリアルの演説より、約一週間が過ぎた頃……。


 高炉第一基は無事竣工し、数日前より操業を開始していた。高炉により製錬された銑鉄は、パイプを通じて転炉に流し込まれる。銑鉄はコークスによって還元されたために炭素を多く含んでいるが、そのままでは質が落ちてしまうので脱炭する必要がある。その転炉に(数日かけて分量と圧が調整された)高圧の酸素を送り込み、炭素やリンと酸化反応させて取り除く。こうして純度を上げ、鋼へとなると、ワイヤーで転炉を引っ張り傾けて、金型へ通じる管へと流れる。錬金術による鋼の生産は未だされているが、この高炉と転炉を用いての製造量は、実に九割を占めている。


 そして、この管から流れ出た溶鋼は、枝分かれして様々な部署へと行く。大半はレールである。金属を削り造られた金型は少しずつ生産されているが、現在の主流は砂型鋳造。試作し、最も良い形状のレールを模型として使用している。砂型は初期費用が安く、制作期間が短いために採用された。寸法制度や冷却スピードは劣り、高価なランニングコストがかかるが、速度を最重要視する魔王国は、今後しばらく砂型鋳造に頼ることとなるだろう。


 さらに、レールとトロッコにより、鉱石運搬の単位時間量が増加。更に多くの鉱石や魔晶石が発掘されている。航路などへの運搬の時間が大幅に短縮されていく。


 また、この高炉の稼働により、釘など工具も大量生産が進む。このおかげで、仮設集合住宅の建設速度も、加速度的に速くなっている。建設が終わっているのは、労働者の一割分にも満たないが、二週間後には半分以上を賄える想定。一部屋に二人以上入れるのならば、その時点で全員収容可能なようだ。


 その労働人口だが……魔王国全体の人口が不明なために予測による概算となるが、現在で二十万前後、人口の過半数が働いているようだ。しかもさらに増加する予想。というのも、女子供さえ働くことを志願したためだ。無論、希望や能力に合った割り当てをしてはいるが。



 とはいえやはり、未だに労働環境は良くない。魔力制御に精通したものはともかく、食事を必要とする者全員を賄うには量が足りない。エイジの手配で今でもある程度は集まったといえど、交渉をする者は百人もいないうえに、換金元となる資源の運搬も足りていない。仕方なく人材を一部食料補給に回して、なんとか賄っている。


 また、過酷な労働環境で服がダメになったり、素材が粗悪ゆえに本来ならしなくてよかった傷を負ってしまう者まで。さらに先述の通り、仮設住宅は足りない。衣食住、ここに来る前の方が満ち足りていたと思う者は多い。


 また、自分の仕事が何の役に立つのかと、疑問を持ち始める者たちはすでに現れている。追加労働者の増加率も落ち着き、皆が仕事を覚え始めたところで安定したところと、不満によって士気の乱れが起こるなど、労働者当たりの効率というのは、初期稼働時と大差がない。


 そんななか、進行を懸念したベリアルが、最前線に現れる。そしてあろうことか肉体労働、特に重労働とされている作業を率先してこなすようになる。この姿に感銘を受けた魔族たちの士気は大きく向上。幹部も全員余すことなく現場に赴き指揮を執る。体調を崩した者達へのフォローを最優先にしながら。


 しかしエイジは、そこにはいない。なにせ、ラジエルの酷使により頭がやられ、頭痛に喘いでいたためである。呆れながらも看病する秘書達を遮り、仕事をするようにと伝えて寝込んでいた。



 更にそこから数日の時が過ぎる。人事部による勤怠管理は強化され、ボーナスなどの話が出始めた頃だ。


 フォラスとレイエルピナによる鉄道の開発も佳境を迎え、機関車の部品が製造され始める。その作られた部品がどうなるのか、知らないものが多数ではあったが。


 大量生産された工具で木を切り、木材はトロッコで運ぶ。これを釘で打ち付け、金具で固定し、支柱を立て壁を張り床を敷く。最も人員の割かれている建築の方は極めて順調。エイジが大暴れして切り倒したおかげで、木材だけは有り余っているのだ。


 高炉は、二基目がもうすぐ完成する。錬金術師達の必要性は薄れ、余った人員は採掘の方に回される。その採掘も、坑内にレールが張り巡らされ、何階層にも掘り進められてはリフトで運ばれ。爆薬で砕いてはトロッコに載せ、平らな道を押していくだけのものになる。事故防止の為の魔導具の動力も、すぐ近くで魔晶石がいくらでも手に入るため問題にはならない。


 力仕事の苦手な者達は、現在家具作りや枕木製造に従事している。更に非力な子供達などは、魔王城周辺にて、灌漑で栽培された綿花の収穫を行なっている。その綿花は工業地帯へ運ばれて、ある程度形の出来上がった紡績機で糸となる。これによって服が作られるほか、綿のまま布団などへ使用されることもある。


 こうした相互作用により、多くの魔族達は気づいていない様子で合ったが、少しずつ環境は改善されている。更にもう数日経てば、暮らしの質の向上を体感できるほどにはなるはずであった。

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