4 着手 ③
噂は一瞬で駆け巡った。宰相が、とんでもないことをするのだと。エリゴスやノクトも手を止めて、森を眺める程。ましてや他の魔族など。
「来てやったわ。で、どうしろと?」
仮設本部の目の前で、レイエルピナが腕を組んで待っていた。
「木材の加工の仕方を指南してやってほしい」
そう話すエイジの後ろには、木が何本も浮いている。
「……なにそれ」
「何って、木だが?」
「そうじゃなくってさ…」
「ふ、分かっているさ。言ったろう、オレは超能力持ちだと。ほい」
エイジが手首で投げるような仕草をすると、丸太が少し離れたところに飛び、落ちた。
「取り敢えず、これで邪魔になりそうな木は撤去できたかな……伐採が終わったら、この能力で運搬手伝うし、変形能力で金属加工の手伝いもするさ」
「ほんっと、そっち方面にばっか便利よね」
「そっちばかりとはなんだ! オレは最初からその使い方を想定していたし、戦闘にも有用だ!」
「はいはい……じゃあ、始めてよ」
小馬鹿にされた気がしたので、ムキになって反論したものの、取り合ってもらえず。
「了解……じゃあ、作業を始める」
人が居なくなったのを確認すると、なぜかエイジは明後日の方向へ飛び去っていく。
「え、何してるの……」
飛び去ったエイジは、なぜかアストラスの中腹にいた。
「さて……能力解放率40%」
体に魔力を巡らす。能力を複数回発動し、動作に問題がないか確認する。
「へへっ、じゃあ……行くか」
魔力を全面解放。斜面に沿うように、降下して行く。
その赤紫の輝きを纏った姿は、暗い夜であるためによく目立つ。飛翔しながらも、自身に注目が集まっていることが感じる。
「目標確認……武器召喚、展開‼︎」
その体の周りに何十本もの武器を浮かせて、エイジは森へと一直線。
「行けよ‼︎」
エイジの気合に合わせ、武器は加速エイジの周りを離れ、森へと突っ込んでいく。
「日頃の鬱憤……晴らさせていただく!」
降り注ぐ剣や斧は地面に激突する直前に軌道を変え、地面と並行に曲がると木々を切り倒していく。
エイジは武器を一定数放つと軌道を変更、森の上空を大きく旋回するように飛び、そのまま武器を前方へ連続して放ち続ける。その中でいくつかの武器は、ジグザグウネウネと動きを変えて、切り漏らしを薙ぎ倒していく。さながら一つ一つの武器がミサイルであるかのような、圧倒的な殲滅力。エイジの飛翔速度は凄まじく速いが、それに遅れることなく刃も動き、彼の過ぎ去った地上の木々は一本も残らず倒れていく。
__なんだ、アレは__
あまりの出来事に、思考が止まる。その場にいた者達は、皆こう思ったに違いないだろう。
渦を描くように森の上空を旋回し、一帯の木を切り倒すと。エイジは、初期位置に戻り、魔力を高め
「これで……おおぉア‼︎」
スパークを放つ巨大魔術陣から、無属性魔術をぶっ放す。その極太光線は、初陣で放った『Aurora Extinction』にも匹敵しうるだけの威力を誇り、テミスらが日中伐採作業を行なっていた場所の地面を全て抉り取っていった。
「やり過ぎよ、このバカ‼︎」
「すみません……」
全ての木を切り倒して、この状況に至るまで五分とかかっていない。しかし、エイジがレーザーを撃ったせいで、衝撃波で魔族含む色々なものが吹き飛ばされ、土埃が舞ってひどいことになっている。しばらく作業はできそうにない。
「危険って、こういうことだったんですね……」
もしあの森の中にいたら、全身がバラバラに切り刻まれるか、魔力光線に呑まれて体が消し飛ばされるかのどちらかだっただろう。
「仕事が減った分、増えたようだな……」
レイヴンも呆れながら惨状を眺める。レーザーによってできたクレーター、これもいずれ埋めなくてはならないだろう。
「それに、今のお前は体力を使い果たしたときた」
「すまない……久々に滾ってしまった」
今にも倒れそうなくらいフラフラだ。魔力砲だけでなく、超能力を使い過ぎた結果、神にも匹敵しうるその魔力も、大きく消耗してしまった。
「まったく……俺がなんとかするからお前は休んでいろ」
「いや、大丈夫だ。すぐになんとかするさ」
地に手をつけると、その地点から、血管のように青白い脈が広がっていく。そして、
「これは……魔力が吸い上げられている⁉︎」
アストラス地下を通る龍脈から、ギュンギュンと魔力を吸い上げていく。あまりの量であるために、ある程度魔力の扱いに慣れた者であれば、その流れを強く感じ取れる。
「ふう……復活だ」
「……随分、持って行ったな」
「ここの魔力は濃厚で、純粋で……うまいねえ」
ありったけ吸収したエイジは、ツヤツヤピンピンしている。
「他の者の分も考えておけ」
「この量だ、そう簡単に無くなりゃしねえだろ? さて、運搬だ。その次が、採掘だな」
伸びをして、体を捻って、エイジは自ら切り倒した木々の下へと向かっていった。




