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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅴ ソロモン革命
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2 先行 ②

 「じゃあ、会議始めていくよ」


 魔導院の奥、準備室にエイジとレイエルピナが座す。


「で、わたしは具体的に何決めればいいのよ」

「機関車の形状と、動力理論は決まっているから……機関車の大きさ、パーツ種、レール類の規格を決める必要があるね」


「大きさ、か」

「ここで役に立つのが単位だ。これら機械を作るには、全く同じ形状である必要があるからね」


 ここで、部下に通信機制作の指示を出したフォラスが戻ってくる。


「お待たせしましたね。それで、何を話すのです?」

「実は、もうオレから話せることは少ないんだ。構造の説明やらはしたが、実際のSLの大きさだとか、パーツとかについては専門家じゃないので詳しくない。調べるにしても、恐らくバカにならないコストがかかるし。だから、実際に作ってもらった方が早い。ミニチュアの模型を作成して、それから実際に作ると、どれほどの大きさになるか。どんなパーツが必要か。そういったことは、君らにほぼ全面的に任せることになる」


「アンタの知識が、頼りにならないのか……」


 その表情には、翳りが見える。


「ゴメンよ、無能で」

「別に責めてないわ。無能でもないし。ただ、ちょっと不安なだけよ」


 その否定と弱音は、エイジを驚かせる。やはり、第一印象というのは重要なものである。


「んんと、それからフォラスさんには、巻尺の製作を頼みたい。紙など曲がるものにメモリを描いて、円や曲面の長さを計れるように。円周率の話も後ほどしておこう」

「なるほど、曲面用の定規というわけですか。承知しましたよ」

「出来ることは少ないし、恐らくこれからは全体の指揮や生産部門への協力が主になるけど。それでも、できる限りの協力はするよ。じゃあ設計図、描いていこうか」


 エイジは紙を、そして金属塊を取り出す。


「分かることは少ない。けれどこれだけは言える……何より大事なのはブレーキだ! 安全装置だ! あとは、蒸気圧や速度を示す計器。絶対にこれは整えるよう!」

「そうですね、分かります。では、その旨を書き留めておきましょう」


「で、アンタはなんでそんなもん取り出したわけ」

「これを変形させて、模型にするからだ。さあ、始めよう」



 協議を重ねること二時間。昼を過ぎ、頭が疲れ、エイジも言えることが無くなってきたところで、お開きとなった。


「スイーツが食べたい……」


 そんなことをぼやきながら、食堂でぐったりしているエイジ。そんな彼に迫る影。


「エイジ様、テミス様がお呼びです」

「ふぐぇ……」


 変な声を出しながら、テーブルに突っ伏してしまう。


「……対応できない旨、お断りしますか?」

「いや、行くよ。うん、すぐ行く……」


 のそのそと立ち上がり、ゆったりとした足取りで


「ご無理はなさらないでください!」

「だ〜いじょ〜ぶ〜……本調子じゃないだけ」


 のたのた動くエイジに、シルヴァが心配そうに傍に引っ付く。


「で、彼女どこにいる?」

「三階、リラックスルームにゴク様と」

「よーし、上まで行かなくていい〜」


 そのまま階段まで行くと、変わらずやる気無さげにフラフラしたまま。いきなり人間では出し得ない速度で三階まで上る。あまりに前触れがなく、シルヴァが驚き暫く反応できないほどである。


「おー、ここにいるかぁ〜?」

「はい、ここにおります」


 椅子や簡易ベッドが並ぶ部屋。その中央で、テミスはピシッと姿勢正しく待っていた。


「そんな肩肘張って疲れないん?」

「慣れていますから」

「で、何の用さな」


 そんな彼女に遠慮する様子もなく、エイジは近くの椅子に腰掛ける。手を差し出し促すが、されど彼女は立ったまま。そこにようやくシルヴァも追いつく。


「はい、指示を仰ごうかと」

「もう何かした?」


「いいえ、何も。勝手に動いて、貴方の想定と違うことをしたら怒られ……いえ、足を引っ張ってしまうと思ったので」


 彼女の真っ直ぐな視線には、エイジも強く出られない。


「そう……じゃあ、指示を出す」

「お願いします」

「オネガイジマス」


 皇女の横に、ゴグも膝をついて指示を乞う。


「では……。まーず、オレが先行して、この城のワープ室と、アストラスに転移陣を設置し、リンクさせる。なんで、キミらは人集めて。向こうに行く作業員をね。転移魔術陣、物資は転送できない、というかしづらいから、輸送班は普通に向かわせる必要があるけどネ。とゆーわけでぇ、行ってきまーす!」


「エッ……エッ…」

「「…………」」


 椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がり、走り去るエイジ。そんな彼にゴグは戸惑い、彼女らは目を見合わせて、肩をすくめるしかなかった。



「ハッチオープン!」

「了解。出入り口、開放セヨ!」


 三階、翼竜離発着場。本来はエレンら竜騎士が、スクランブル発進するための場所である。はずなのだが、使われたことは滅多になく、現在翼竜は数匹のみ在留している。


 そんなデッドスペースと化していた部屋の壁が、ガラガラと音を立てながら、人力で外側に開くように展開。使われようとしていた。


「開放、完了しまし

「よっしゃ行くぜ!」


 竜騎士の報告を待つまでもなく、床と壁が水平につながった時点で、蹴り出しカッ飛んでいく。


「いぃ〜〜やっほーうッ!」


 翼を展開。叫びながら、僅か数秒でトップスピードに。先日と異なり、高度確保や同乗者への配慮がいらないために、何の遠慮もせずに飛ばすことができる。さらに、その時の反省から魔力効率やペース配分もまた、向上しているようである。その速度に匹敵するのは、レイヴンくらいなものである(ベリアルのフルパワー形態でも出せないことはないが、そもそも形態変化の認知度が低い)。


 そうしてエイジはご機嫌に、大空を飛翔していく。気流を掴み、落ち着いてきたところで、考えを巡らす。


「さーて、着いたらまずは、転移魔じ……あっ」


 独り言の途中何かに気づき、顔が引き攣る。姿勢もブレる。


「やっべ!」


 進路を真上に急速変更。そのままターン、城へ向かう。遠心力のエネルギーは F=mv^2/r 。超音速で飛翔する戦闘機よりは遅いが、半径が小さい分、壮絶なGがかかる。しかし、魔族さえ超越した丈夫さである身体を持つエイジは、歯を食いしばりながらそれに耐えてみせ、速度を落とすことなく進路を転回。


「魔術陣、敷くの忘れた‼︎」



 一方こちら、翼竜離発着場。僅か二分足らずで、城から七キロ以上離れていったエイジ。その様子を確認したオペレーター達は、ハッチを閉じようとしていたのだが。赤紫色の光が突如向きを真上に変えたかと思うと、再びその輝きを増していき…


「あれは……閉鎖中断、退避ー!」


 現場責任者はその動きを捉えると、焦ったように避難命令を下す。ハッチは三分の一ほど上がっていたが、指示に従いその角度を維持、ハッチ周囲及びその直線上から人員が避難する。


 避難を終えて一分。今彼がどこにいるか、目視で確認する術は彼らにはなかったが、空気を切り裂く轟音が、その接近を知らせる。衰えぬ気配に、いつ減速するのだと危惧しつつ何もできないオペレーター。


 そのままの速度では、城にぶつかる十秒前。彼は手足、そして翼を前方に向け、魔力を全力で噴射。急ブレーキによる慣性によって手足が潰れ、翼がひしゃげる。そんな感覚を覚えながらも耐え抜き、壊れない程度で壁に激突する。


「ゲホッ…ゲホッ……宰相閣下、ご無事で……あれ?」

 舞った埃で咳き込む中、風圧から立ち直ったリーダーが壁を見ると、そこには何もいないのであった。



「迂闊ッ」


 壁に着地するや否や、エイジはワープルームに向かって疾走していた。


 当該の部屋に到着すると、扉を蹴り開き、部屋を見渡し、空いたスペースを見つけて駆ける。膝と手をつき、魔力を高めつつ、魔道具触媒を取り出し魔術を展か


「あ、どうやって……いや、知らねえわ」


 そういえば。自分で展開したことがなかった。やり方がわからない。


 立ち上がると、部屋を飛び出す。そして、すぐ近くをたまたま通りかかったメディアをとっ捕まえて、やり方を教えてもらった。否、教えさせた。


 そして、成功するとすぐさま再び翔び立った。そして、一回できたからといって油断していたら、やはりというか、苦戦した。


 とにかく今日のエイジは、慌ただしいの一言に尽きる。

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