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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅳ 魔王の娘
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8 魔晶石採掘 ②

 途中から本気を出して飛ぶこと二十分前後、霊峰の間近に迫る。山脈中腹周囲を旋回し、着陸に適した場所を探していく。ちょうどいい感じの場所を見つけ、ゆっくりと降下する。


「はい、着いたよ」

「どうも。なかなか楽しかったわ」


 レイエルピナを下ろしたら、腕を組み、目を瞑る。そんなエイジに構わず、レイエルピナは先に進もうとする。


「おーい、行くわよ!………って、ねえ、どうしたのよ? 行くわよ、早く来てって! ねえってば!」


 レイエルピナは誰よりもせっかち。ちょっと集中したいのだが、周りをうろちょろされて、気が散ってしまう。


「ねえ、何してんのよ」

「少し静かにしてくれ!」

「えっ⁉︎ うん……あっ、千里眼?」


 目を開け、首肯する。


「そうだ。ちょうど良さげな洞穴を見つけた。行ってみるか。因みに、今君が行こうとした方向とは逆方向だ」

「うぐっ……悪かったわよ…。さあ、いきましょう……きゃあ‼︎」

「うおっと‼︎」


 レイエルピナが足を滑らせ、崖から落ちかける。間一髪、手を掴めたが。


「危ないから、落ち着いて、慎重に、ね。」

「うっ、うぅぅ、別に無傷で着地くらいできたわよ‼︎………ありがと」


 引き上げると、ばつが悪そうに視線を合わせてくれなくなってしまった。


「危ないから、手を繋ごうか」

「………んっ」


 目を合わせず、ぶっきらぼうに手が差し出された。



「ここだな」


 数分間移動すると、すぐにたどり着いてしまった。名残惜しいが、手を離す。目の前の洞穴はそこそこ深く、じめっとしている。


「あっ、しまった……照明を忘れた」

「そんなの、魔術使えばいいじゃない」

「……そうだね」


 レイエルピナが詠唱すると、掌に発光する球体が現れる。


「さ、いきましょう」

「少し待ってくれ………ふっ!」


 今度はピタリと動きを止めてくれた。


「……なんで獣人化したの?」

「炭鉱の中には有毒ガスが発生する、もしくは充満していることがある。本当はカナリアなどの鳥がいれば分かりやすいが、生憎それらしい鳥は居なかったのでね、自分の感覚に頼ろうというわけさ。さっ、入ろう」

「……お先にどうぞ。」


 洞窟は床が湿っていて、やや下り坂だ。


「濡れて滑りやすいから気をつけて」

「ええ、分かったうわっ!」


 レイエルピナが足を滑らせ、背中に激突される。


「おっと。まさか君って、意外とおっちょこちょい? ちょっと前にもドアに激突してたよね?」

「ううう、もういい! このままおぶって!」


 これ以上醜態を晒すよりは、大人しく甘えることにしたらしい。エイジとしてはむしろウェルカムだ。


「うー、これって意外と恥ずかしいし、屈辱……」

「うん、気にしない気にしない。」


 流石に、油断すればエイジも滑ってしまいそうなので、ズルして少し浮いていたから大丈夫だったのだが。そして、せっかく密着したのに、すぐ足場が平らになってしまった。


「なだらかになったよ?」

「………このままでいい……」


 完全にへそを曲げてしまったようだ。なら帰るまでずっとこのままでいいか。


「でもここが目的地だ。地面を見て」


 下り切った先は行き止まり。だがその地面には沢山の魔晶石が生えていた。魔晶石の発する光に照らされ、うっすら輝くその光景は、かなり幻想的である。


「んー? そうね、魔晶石ね。じゃあ、帰りましょう」


 気だるげに地面を見ると、レイエルピナはしがみついたまあ動こうとしない。かわいい。


「え? これからが本番だろ?」

「………仕方ないな」


 渋々といった感じだったが、このままの体勢では調査できないので降りてもらう。しゃがんで、そこらに生えている魔晶石の根本を砕き、調べてみる。


「へえ、これが天然の魔晶石………不純物が多いな」


 よく見ると、結構黒っぽく、カビた氷あるいは踏まれた雪みたいで、正直汚い。


「そういうものでしょ。天然で、純粋な物質ってそうそうないし、特にマナは他のものと混じりやすいから」

「含まれているのは……構造分析能力発動……酸素にケイ素、炭素と酸化鉄、さらに水和物化してる、と。これほどの結晶のうち純粋なマナは1%もないのか…」


 魔晶石として認識されている水晶体の全てが魔力、というわけでもない。水や珪素、炭素など非金属元素も多く含まれている。


「魔力の結晶は、それ自体がすごく高いエネルギーを持ってる。これ全部が純粋な魔力そのものだったら、とんでもないエネルギー源になるでしょうね」

「今まで不純で質が低いと思っていたが、自作の魔晶石の方が大分質がいいな」


「えっ……自作? 今自作って言った?」

「ああ、ほらっ」


 孔から取り出し投げ渡す。その魔晶石は、なんと星型多面体。


「何よこれ……すごい上質じゃない! そもそも生物から魔晶石を作るなんて、よっぽどの量と質がないとダメなのに……これがあれば、こんな所まで来る必要なかったわ!」

「そんなにすごいのか? 器械を改造しながら余剰魔力で作ってたんだが……いざと言う時の魔力補給用に」

「これが一個あれば、魔王城の半日分になるわ」


 それでも、僅か半日分。自然のエネルギーと比べれば、結局個人の持つ力など高が知れているということだ。


「残念ながら、それ一個に、順調にいっても四日かかる。結晶への変換効率が悪すぎるし、変換できても不安定だから、他の物質に変化したりして、失敗したり、ほとんと生成出来ないんだな」

「そう。それはちょっと残念かな〜」


 よほど珍しい代物なのか、しばらく名残惜しそうに眺めてから、エイジに投げ返す。


「ところでなんだけどさ」

「ん……なに?」


 もうつまらなくなったように、レイエルピナはその辺をプラプラしている。


「この魔晶石、利用に差し当たってのデメリットみたいなのって、ない?」

「そんなこと、気になるの?」

「ああ。こんな便利なエネルギー源が、なんで全然使われていないのか気になってさ」


「なんでって……まず、魔晶石自体が希少なの。天然に産出されるものは、龍脈上にしかない。弱い地脈じゃダメなの。それに、太い龍脈上は往々にしてこの山みたいに険しい環境だったり、木が鬱蒼としてたりして、立ち入るのは容易じゃない。人工でも作り出しにくいし……あとは不純物が多いから、取り出せるエネルギー量に対して嵩張りすぎるのよ。純度を高める方法も、フォラスは研究中〜とか言ってたし。あとは、そうね。不純物の多い劣悪な魔晶石は、使用すると近くの者の魔力回路に悪影響を及ぼす、かもしれないし、逆に高純度だと、感受性が高すぎたり低級魔族のように魔力への耐性が低い者は、被爆しちゃって悪影響が出るかも、ってノクトが言ってた気がするわ。……まあ、アンタが手伝えば、少しは違うのかも? って、何よその目は」


 エイジは少し驚いていた。彼女が少し照れつつ、自分を認めてくれていたことに気づけない程に。


「君って……意外と博識なんだな」

「ふんっ、悪かったわね! これでも魔王ベリアルの娘よ、教育くらい受けてきたわ」


 確かに知識量は劣っていたかもしれないが、こうも驚かれるのは心外である。


「ところで、これだけでいいの?」


 これだけ、というと、調査の話だ。


「まさか! あるかどうかだけを確認したんだ。他にもっといいポイントがあるかもしれないんでな、調べに行くぞ!」

「ええっ⁉︎ もういや!」


 いやいやと駄々をこねられる。二日前と立場は逆である。


「でもこれだけじゃ足りないだろ。」

「くうう、もうこの際どうでもいいわ! 抱っこして!」


 思わぬ申し出に一瞬戸惑うが、こんなに美味しい機会もそうそうない。抱っこしてやる。


「ねえこれ、お姫様抱っこ…よね?」

「お姫様なんだし、いいだろ?」

「……そういう問題じゃない……」


 顔を見ると耳が赤くなっている。そしてすっぽり収まっている。可愛い。



 洞穴を一気に駆け上がり、そのまま飛び出す。そして切り立った崖の岩を、ピョンピョンと身軽に飛び移って降りていく。


 さっきは山の中腹だったが、今度は麓の方を探してみる。


「おっ、こっちの方が多いな。」


 さっきのはまだポツポツ点在していたが、この辺りはびっしり生えている。


「龍脈に近い根元の方が、そりゃ多くなるでしょ」

「確かにそうだな。……純度はあんまり変わらないっぽいな」


「それはどこでもそんなに変わんないわよ。空気や水なんて、どこにでもあるでしょ」

「そうなんだ……さて、調査調査〜」


 適当な洞穴に入ろうとして


「くっさ!」

「ん? どうしたの?」

「腐卵臭、硫化水素だ! 火山ガスに含まれる有毒ガス。ここ危ないな、封鎖しよう」


 剣を取り出し、入り口にキケンと彫る。


「腐った卵? そんな匂い、しないけど……まあ、獣人化してるアンタの方が鼻はいいんでしょう、信じるわ。はい、次行きましょ、次」

「そうだね。でも、還元剤としての利用価値があるからな、今度捕集しよう。しかし、なんで火山性のガスがこんな所に?」


 次の洞穴は大丈夫そうだ。しかもだいぶ広い。


「……ていうか、降りないの?」

「……ちょっと甘えたい気分なの」


 キュッとしがみついてくる。そんなこと言われたら、断ろうなどとは微塵も思えない。しかも頼られて、ちょっと興奮してきた。しかしここで図に乗るとやらかすのが自分。深呼吸して、気を引く為に変な行動しないよう気をつけよう。


「なあ、口笛吹ける?」

「うまくはないけどね……ヒュー、ヒュー、ピョッ!」

「ぷっ、あっははははは!」


 気の抜けた音がして、吹き出してしまう。


「ううう……このバカ! 言ったじゃん! あんまり上手くないって!」

「あははは、ごめんごめん」


 ベシベシと肩を叩かれる。初めて会った時のような強さでもないので、それすらも可愛らしい。


「今度はちゃんとやるから! ……ピューー……どう? できたでしょ!」

「……………うん、しばらく行った所に大きな空洞、その先は細くなり、分岐あり。上下に分かれてる。上はそこから左右に分かれて、その先はわからん。下は行き止まりっぽいな。崩落の危険性もなさそうだ。いけるな」


 目を瞑ったまま、何かに集中する素振りを見せていたエイジは、スラスラと洞窟の構造を言い当てる。そして開かれたその目の色は、変わっていなかった。


「えっ? 何で分かるの?」

「音の反射だよ。洞窟に住む蝙蝠は目が見えないが、ぶつかることなく飛行できる。その理由は、超音波を飛ばして、その反射から周囲の状態を把握するから。反響定位ことエコーロケーション。別名アクティブソナーともいう。海でもイルカなどが魚群探知のために使ったりするな。オレは獣人化の恩恵で、耳がめっちゃ良くなった。それに、振動を感じるだけだったら、頭の第二の耳のほうがいい。超音波さえ察知できる。だからそこに意識を集中すれば、何となく分かるのさ」


「ふうん、すごい便利ね。なんで獣人になんかなったんだろうと思ったら、ちゃんと訳があったんだ」

「ああ。五感の強化、それから第五の手足となる尻尾。これが欲しかったのさ」



「さあ、調査開始だ」


 空洞を抜けて、細道を下の分岐に曲がり、下ったところで違和感に気づく。


「あれ? なんかおかしいと思ったら……ここ、魔晶石が全く生えてないぞ」

「あー、ほんとだ。ねえ、降ろしていいから、調べてみてよ。光源はわたしが持つわ」

「ありがとう、助かるよ」


 レイエルピナを降ろして、壁を調べてみる。匂いはしない。叩いても、空洞もなさそうだ。


「何があるかなっと、せぇ‼︎」


 行き止まりの壁を、戦鎚で全力で殴り、カケラを拾い上げてみる。


「ちょっと照らしてくれ」


 レイエルピナを呼び、手元を照らしてもらう。


「……っ! まさか、これって……」

「どうかしたの?」


「赤鉄鉱、つまり鉄鉱石だ。鉄の原料」

「鉄か……確かに大事ね。他のもあるかしら?」

「調べてみるか。離れて。魔術で爆破する」


 壁に地属性と火属性の合わせ技の魔法陣を設置。指向性を奥に与える(同心円にしてしまうと崩壊する恐れがある)。十分離れて、


「ドッカーン!」

「……テンション高いわね……」

「さて、調べてみるか!」


 再び奥に戻り、いくつかのカケラを拾い上げ、調べてみる。


「待って、これ、ボーキサイトか? これはマンガン……待って待って待って!」

「なに? またなんかあるの? そろそろアンタが突然興奮するのには慣れてきたけど、出来ればやめてほしいわ。びっくりするもの。で、何を見つけたの?」


「銅に銀に亜鉛にスズにクロムにニッケルに鉛……あらゆる工業に使われる鉱石がある‼︎ ヤバイぞ……地球にこんな鉱山はなかった! と、断言はできないが、少なくとも知る限りでは無かったはずだ。素晴らしい! 霊峰と言われるだけはある!」

「そう。わたしにはいまいちわからないけど、あなたがそれだけ興奮するってことは、すごいってことなんでしょ。まあ、そこに関してはあなたに任せるわ」


 再びそこに戻れるよう、分かりやすい印を入り口に魔術で残す。



 その後も二人は、次々と洞穴を調べ上げていく。地脈の上にある洞穴には魔晶石が、無いところには多種大量の鉱石を発見した。魔王国の者も、その遠さと険しさから、基本的にこの山に来ることはあまりなく。魔晶石も出来る限り使わないで、城地下の龍脈から吸い上げる、もしくは、自身の魔力を使うことで補っていたから、それほどの量は必要ないそうだ。だが、いつどれほど必要になるかわからない上、調査もしておきたいとのことなので、エイジはレイエルピナが引くくらい念入りに調べた。

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