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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅳ 魔王の娘
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7 能力開帳 ③

 帝国スパイの出現で、一時騒然となった会議室であったが、やはりというべきか、いつまでも動じている彼らではなかった。


「んー、捜索は命じたし、暇だよなあ」

「だったら、アンタの能力の話に戻しましょう」


 レイエルピナだ。興味を持ってくれることは嬉しいが、深掘りされては困るのだ。


「ええと、もう話すことないけど」

「そう。けどアンタ、ウソを吐いてる」

「ふうん? 何が」

「アンタの能力、六つじゃないでしょ」


 ギクリ、体がつい震える。


「どうして、そう思うのかな?」

「勘よ、カン。数のキリが悪い。あと、アンタは常に何か隠してる感じがするのよ。知らないだけじゃない。明かす情報は、間違いなく取捨選択している」


 少し怖い。勘が鋭いとはいうが、見透かされている気がするのだ。


「取捨選択くらいしてもいいだろ」

「ふん、そうね。じゃあ指摘して口割らせるわ。アンタ、あの戦闘で武器を変な軌道で飛ばしたり、金縛りしたりしてきた。念力くらいは使えても、不思議じゃないわ」

「…………驚嘆に値する」


 黙りこくると、ポツリと溢す。その顔は感嘆と、それ以上の苦々しい表情だ。


「まさか見抜くとはね」


 左手を卓に伸ばす。その瞬間軋む音がすると、浮いた。さらに、使われることのない宰相用の椅子が浮くと、彼の元にひとりでに寄る。


「剣飛ばしには魔力を使うなど、虚言もいいとこ。真相は、この能力だとも」


 その椅子に腰掛けると、椅子はエイジを乗せたままフワフワと浮く。


「なるほど。では私からも一つ。あのメガネ、さては全知の能力だろう?」


 割り込みベリアルの告げた言葉に、仏頂面。それが答え。かけた時に調べるだの、頭痛いだの、ヒントを与え過ぎたし、人目を憚らなかった。そのせいだ。


「……ッ! その能力を使えば、奴らの居場所が

「再三言っている通り、完璧な能力などないですからね、そこはお忘れなく」


 見慣れたシャープな黒縁メガネが取り出される。だがそれだけではなかった。小脇に抱えるは、豪華な装丁の施された重厚な本。


「解説しよう、この能力がいかに使いづらいか。問題。『現在のジグラド帝国皇帝は誰か』と、『レイエルピナの好物は何か』。このどちらが、価値の高い情報だと思う?」


「そりゃ、皇帝の方でしょ。わたしの情報なんて価値ないし」

「答えは……ノーだ。陥りがちな誤解だよ、それは」


 予想と違った者も多いらしく、興味深げ。


「情報の価値は、正確さと認知度による。事実であるか、普遍的であるか、どれほど広く知られているか。例えば、現在のジグラド皇帝の名はイヴァンだが、これは帝国民のみならずこの大陸で広く知られていることだ。そして、イヴァン以外の名を出す者も少ないだろう。だが、レイエルピナの好物は? 本人や仲の良い数名しか知らないことだし、本人の好みと知人が認識している好みが違うこともあり得る。この揺らぎ、不確実性が情報の精度を下げる」


 理屈を聞けば、なるほどと思える。


「しかもこれが、“現在の”という言葉が抜けるとまた大変だ。先代の一番有名な皇帝の名前を思い浮かべる者も現れるからね。調べ方を間違えると有益な情報は手に入らなかったり、情報量が多すぎて脳回路が焼き切れる。かなり危険な能力だということはお分かりいただけた? さらに魔力と同じように、検索は特殊能力のエネルギーを消費するが、情報の価値が高いものほど検索コストもかかるから、調べ方で得られる量も変わる。紙の作り方なら大手メーカーの確立されたやり方を、SIの正確な値は全世界で確立されたものだ。だからそれ程負担はなかった」


 メガネを外すと、消しつつ目頭を抑える。


「だからまあ、頼り過ぎないでくれ。それに、プライベートな内容は調べにくいから、プライバシーは守られる」


 安堵と落胆、そのどちらもが感じられる。自分もそうなるだろう、とエイジも考えたからこそ、弱点まで詳細に明かした。



 能力について話し、ちょうどひと段落ついたところで、タイミングよくノックが鳴る。


「宰相殿、投降した不審者を連れて来ました」


 数人の魔族が、手が縄で縛られた黒ずくめの男を連行してきた。


「ご苦労。意外と早かったね」


 早くも一人見つかったようだ。少し拍子抜けする。


「ねえ、君」

「ひっ、ひぃ! な、なんだ! 俺は投降したぞ! ……これでテミス姫には手を出さないんだろ⁉︎」


 最初に投降しただけあって、コイツはだいぶ臆病なようだ。諜報部隊失格に思える。脅せばいろいろでてくるかもしれない。


「この城に隠れている貴様の仲間は何人いる?」

「ごっ、五人だ!」


「なるほどなるほど、五人ねぇ。ホントかなぁ? もし申告した数より多かったりした時は……どうなるかわかるよねぇ? 今なら許してあげるよ?」

「ひっ! ほ、本当は八人です‼︎」


「隊長と君込みで?」

「はい!」


 首をブンブン縦に振る。


「ふーん、この嘘つきめ。まあいい。『通達。敵の詳細な数が分かった。八人だ。隊長と一人はここにいるからあと六人。ただ、全員見つかった後も三十分間は警戒を続けるように。以上だ』」


 幹部らの威圧的なじっとりした視線に、完全に縮み上がっている。哀れ。


 だが、エイジはとある悪魔的発想をふと思いつく。今この場には意識を失っている隊長を除けば、臆病な隊員一人しかいない。


「あっ、いいこと思いついちゃったぁ。ねえテミス、演技って得意?」

「演技、ですか? まあ、頑張ればできますけど、それが何か?」

「うん、そこの君も聞いてくれ。面白いこと思いついちゃったんだ。今から説明するから、その通りに動けよ」


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