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魔王国の宰相 (旧)  作者: 佐伯アルト
Ⅳ 魔王の娘
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7 能力開帳 ①

 起き上がったエイジは、レイエルピナを連れて廊下を歩く。千里眼でベリアルの居場所を調べ、そこ、図書室支部へと向かった。


「失礼します。ベリアル様はいらっしゃいますか?」


 ノックし、扉を開く。魔王は呼ばれた声に振り返る。


「おお、エイジ! 目が覚めたか。もう大丈夫なのか?」

「ええ、おかげさまで。疲労も浅い段階で、身体も丈夫になっていたからでしょう。ところで、もう遅い時間ですが、他の幹部を集められますか? 大事な話があるんですが……」


「おっ、レイエルピナ関連か?」

「ええ、まあ、そんなところです。」

「そうかそうか。よし、すぐに集めよう!」


 異様にテンションが高い。なんか魔王様は勘違いしているのではないか、と不安だ。



 エイジ、そしてレイエルピナとベリアルは、円卓の間にいた。ベリアルが伝令を走らせてしばらく。皆が集まるのを待っていた。


 と、足音がする。その間隔は短く、そして一歩の幅がすごく長い。その一番乗りは……


「エイジ様‼︎」


 ブチ破るほどの勢いで開かれた扉の向こうにいたのは


「シルヴァ……おわっ!」


 彼女はエイジの顔を見ると、思い詰めたような表情から一変、気が抜け安堵したように。そして、堪えきれなくなったように、抱きついた。


「エイジ様……よかった……!」


 しがみつく手に力が入り、その目尻からは雫が溢れる。


「悪かった。心配かけさせて」


 彼女を抱き返し、その頭を撫でる。


「お目覚めですの⁉︎ …………その様子なら、大丈夫そうですわね」


 シルヴァほどではなかったが、それなりの急ぐ足音が聞こえ、扉が開く。現れたダッキは、シルヴァを撫でるエイジと目が合うと、少し呆れた顔を見せる。


 そしてシルヴァが満足げに離れると、また別の慌ただしい足音が聞こえ、扉が勢いよく開かれて。


「エイジくん!」


 彼女にしては珍しく、余裕なさげに現れたモルガン。彼女もやはり、正面に立っているエイジに駆け寄ると


「もう大丈夫なの⁉︎ ……はぁ……よかった……ほんとうに、よかった」


 彼の顔に、愛おしそうに手を添えて、そして彼女もまたうっすらと涙を浮かべる。


 少し名残惜しそうにモルガンは手を離す。その瞬間また駆ける足音がして。


「エイジ!」


 やはり扉は破られんばかりに開かれて、テミスが現れる。エイジを見つけると、近寄ってその手を取る。


「よかった……倒れたって聞いて……私……心配で心配で……ううっ」

「あっ、うん……」


 手を額に近づけて、やはり彼女の目にも泪が。彼女らの勢いに、エイジはたじろぐばかり。


「君ら、少し心配し過ぎじゃない?」


 軽率な発言だった。言うや否や、ハァ? という感じの、ジトっとした目が向けられる。


「え、怒ってる?」

「「「怒ってます!」」」


 __わたし、何を見せられてんの?__


 そう思わずにはいられない。イチャつくなら他でやって欲しかった。


 けれど……今回はいつもと違った。今までは鬱陶しいだけだったのに。なぜか、胸が痛んだ。けれど、この感情を、その処理の仕方を、彼女は知らなかった。



 彼女らに遅れることしばらく。彼女らとは違い、廊下を走ることなく、扉を静かに開けて男性幹部らも集った。されどやはり、まずはエイジに声をかけるのだった。エイジは、社交辞令だとしても、愛されているようで嬉しかった。


 さて、これにて魔王と幹部全員、宰相とその秘書、レイエルピナ、そしてテミスが集まった。


「それでは、緊急の会合を始めよう。といってもだ、これは国の方針を決めるような公式で重大なものではないから、肩の力を抜いてよいぞ。で、どうなったのだエイジよ。レイエルピナとの関係は深まったのだろう?」


 初っ端の爆弾。エイジの周囲だけ空気が何十度も下がったように凍りつく。


「え……あ、いや、何も無いですよ? 確かに、関係は改善されましたが、そのようなことは特に」


 凍傷になりそうだ。早くなんとかして欲しい。


「む、そうなのか?」


 エイジは視線に凍えているが、嘘は吐いていない。自分の想像していたようなことはなかったらしく、過ぎた考えが恥ずかしい。


「私は、レイエルピナから直接聞きました。彼女の過去に何があったか、そして今彼女の身体でなにが起きているかを」

「レイエルピナの神霊のことだな。ああ、知っているとも。残りの命もわずかだったことも、な」


 ベリアルは至極落ち着いた調子であるが、レイエルピナは身を震わす。


「お父様⁉︎ やはり……気づいていらっしゃいましたか」

「ああ。我が愛娘のことだからな。だが、それも過去の話だろう? 不自然さが消えている」


「流石の慧眼ですね、我が主。王としてだけでなく、父としても素晴らしいお方だ。以前の言葉、撤回し謝罪します」

「いや、あの時の私は、確かに眼が曇っていた。目を覚まさせてくれたのは貴公、そしてテミス姫だ」


 テミスにも目を向け、感謝する。責める言葉をも受け止める、器の違いを思い知らされた。


「まあ、この話はもうよい。それよりも、レイエルピナと何があったか、教えてくれ」

「承知しました。」


 一息おく。大事な話だ。


「まず前提知識として、私の能力の話です。前に話した時には、いなかった人も増えていますからね。まず一つは、亜空間からの物体の召喚」


 右肩上に穴を開け、そこから剣を取り出す。


「二つ目に、物体の変形能力」


 取り出した剣を波状のぐにゃぐにゃにして、放り捨てる。


「三つ目、全ての言語に対する自動翻訳。話し言葉、書き言葉のどちらにも対応している。オレが誰とでも会話できるのは、この能力のおかげだ」


 試しに切って日本語で話しかけると、全員ぽかんとしている。日本語で作文しても、やはり誰も内容を理解できていない。再発動。


「四つ目が、過去現在未来を見通す千里眼。」


 右指で眼を指す。


「は?」

「だよねぇ、そーだよねぇ。怖いでしょ。まあ、安心できるかはわからないけど、制限もあるから。まず過去視は、場所による。自分の現在地周辺のみ、遡りにも限界がある。類似能力はサイコメトリー。解放率上昇で範囲と遡り限界が伸びる。

 現在視は自分から一定範囲、或いは行ったことのある場所の現在が見える。ちなみにこの現在視は、ベリアル様いわく、魔力耐性がある者なら知覚し阻害できるらしいよ。解放率で範囲拡大。未来視は、狙った発動は数秒から数分。狙った通りの発動はほぼ不可能なんだけど……たまに眼が痛くなって、危機に限り未来予知が可能だ。解放率次第で数時間とか先までは。偶発的な予知は数ヶ月先まで見えることもある」


「それでも強力に変わりないじゃない! ……っていうか、お父様と食堂で話していた時に感じた視線は……」

「悪い、オレだ」


 不機嫌そうである。しかしそれだけで、責めることはなかった。


「あ、でも千里眼使ってるな、っていうのは分かりますよ!」

「ん? どういうことだ、テミス?」

「だって、眼の色が変わりますもん」


 驚きのあまり、声が漏れ、目を押さえる。


「あ、そうか。自分じゃ分かりませんよね? 右眼が金に、左眼が銀に変わるんです」

「そ、そう? なら試しに使ってみるから、見てくれ」


 しばらく現在視を自室にしたのち、解除する。


「どう?」

「やっぱり、変わってましたよ」


 自分では気付けなかった新たな発見。なんだか少し気恥ずかしい。


「ああ、でもそれ以外でも変わるわよね。ほら、わたしとキスしたときにも

「「「「キス!!?」」」」

「あ……やっべ」


 つい口が滑って発したレイエルピナ衝撃発言に、激震走る。ある者は喜びにやけ、ある者は殺意を発する。


「「「キスってどういうこと⁉︎」」」

「わ、わかった。説明するよ……。その前に五つ目。これら強力な能力を、自分の意思で制限する能力。現在は最高でも45%までが十分に扱える限界だね」

「あの強さで……まだ半分も……」


 数度聞かされていただろうが、本人の口から改めて言われると、そのポテンシャルへの畏れが増す。


「そして最後六つ目に、自身の能力の譲渡・付加だ。これ、どういう意味かわかります?」

「そうか! レイエルピナにお前の制御能力を譲渡したということか!」

「ピンポーン! 大正解です。制限能力で彼女の神としての力を制限しました」


 譲渡の能力。その言葉を聞き、皆の目が変わる。無理もない、彼の魔法のような能力が、自分も扱えるかもしれないのだから。


「さて、ここでキスの話に繋がるわけだ。この譲渡能力には発動の条件がある。」


 狙う者たちは、傾注する。


「そのトリガーは……対象との接触だ。接触の深度によって、分けられる能力とその出力が変わる。例えば、肩に手を置く、というほんの軽い接触をレベル1としよう。次に手を繋ぐとレベル2、ハグがレベル3。そしてキスが、レベル4に該当する。最高レベルの5は……性交だね」


 想像以上にデリケートな内容だった。男性組、無念そうである。


「あとは精神……親密度によってはレベル2までは加算の可能性がある、かも。逆に仲悪いとマイナス」


 男性組も少し光明が。


「そう……わたしとする必要があったのは、制限能力がレベル4だった、ということね」

「その通り。このようにしっかりした理由があったわけだ。決して、良いムードになったからしたくなったとか、キスしたいからでっちあげたというわけでもないから安心してくれ」


 その意図を理解したか、周囲の冷たい敵意が晴れていく。ただ、浮かない顔の者もいるけれど。


「そう……所詮条件のため、か」

「どうしました?」

「なんでもないわよバーカ!」


 バカ呼ばわりされるが、そんな謂れがわからぬエイジは困惑。乙女心は複雑なんだよ。


「譲渡能力……いいわねェ。エイジの能力……使えたら便利そうよね〜」


 機を伺う面々の中で、真っ先に斬り込んだのはモルガン。どんな答えが返るか期待が高まる中、エイジは真顔になると……口元を緩める。


「おや、この能力は既に使用したことがあるんだが。ダッキ、テミス。心当たりは?」


 問われた二人は考え、そしてテミスが先に至る。


「あ、翻訳能力!」


 与えられたのも最近で、記憶に新しいからだろう。すぐに分かったようだ。


「ああ……なぜわたくしが魔族語分かるのだろうと思ったら……そういうことでしたのね」


「ああ。レベル1で言語能力が、2で召喚と魔力、3は譲渡能力、4で制限と変形、5は現時点ではないかな。千里眼は、渡せない。そんで、レベルが上がるごとに、それ以下のレベルで共有できる能力は出力が上がる。これが今のところ明かせる全て。この力は、オレ自身も知らないところが多くてね」


 肩をすくめる。手をひらひら振って、お手上げ。

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