入学式の朝
朝、ジークはぼーっとした頭で食卓へと向かう。
「おはよう」
食卓にはすでに朝食が並び、システィは食べ終わるところだった。
ジークは軽く手を上げて挨拶を返し、大きな欠伸を一つ。
「あんた、生活リズムを整えなさいって何回も言っただろ?」
システィは呆れた顔をしている。
"すぐに慣れるって"
「どうだかねぇ」
システィは残ったコーヒーを飲み干すと、テキパキと皿を片付けた。
そして、ジャケットを羽織り、玄関の方へと向かう。
「私は先に行くよ。入学式が終わったら校門のとこで写真を撮るから帰るんじゃないよ。じゃあ、遅刻しないようにね」
ジークが手を振ると、システィは微笑み、
「いってきます」
と家を出た。
『システィ、機嫌良さそうでしたね』
フェアの思念がジークへと届く。
『そうか?』
ジークは頬杖をついて、ボーッとしている。
『ジークはあまり元気ありませんね?』
『とうとうこの時が来た。憂鬱だ』
高校に通えと宣告されてから、あっという間に時間が経ち、今日ジークは国立高等学校の入学式の日を迎えた。
『フェアは楽しみです、学校』
ニコニコとした表情で目を輝かせるフェアに、ジークは
『そんな期待するようなとこじゃないぞ』
と釘を刺した。
『魔法や剣、友達、恋愛、先輩後輩、いろんなことが学べるんですよ? ワクワクします』
『まあ、いろんなことを学べるのはそうだが……。俺は別にそんなこと学ぼうとも思わないからな』
『なぜです?』
『剣は日々の鍛錬で事足りるし、魔法は……まあ授業を受ければわかるけど、学校で教える魔法は役に立たない。それと、人間関係は俺には一番必要ないしな』
眠気覚ましにコーヒーを飲む。芳ばしい豆の香りが鼻腔に広がった。この至極の感覚で、今の一瞬のみ嫌なことを考えなくて済む。
朝のコーヒータイムはジークにとって必要な時間だった。
『決めつけは良くないです。いつどこで何が必要になるかはわかりませんから』