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魔法の環  作者: BWG
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シルヴェニア王国国立高等学校 後編

「なあ、ジーク。お前の気持ちもわかるが、システィもお前のことを思って色々考えてんだ。まあ、あの態度じゃわからねーだろうがな」


グレアムは快活に笑う。


ジークはおもむろに顔を上げ、


"俺のためを思うなら放っておいてくれ"


と紙を見せた。


「かわいい孫のことだから、放っておけるかよ。どんだけウザがられようがかまい倒すわ」


"無茶苦茶だ"


「お前さんは高校に行くことを無駄だと考えているみてぇだが、実はそうでもないぜ」


グレアムは親指を立てる。


"無駄以外の何物でもない。なにが悲しくて、一日の大半を拘束されなきゃいけないんだ"


ジークはぐしゃりと前髪を掴んだ。


グレアムは悩ましげな孫に優しい眼差しを向け、説明を始めた。


「まず第一に、高校の学生証があれば、魔物の狩りと迷宮の入場許可が降りる。学生の間は、冒険者見習いみたいな扱いになるからな」


ジークは目を丸くする。


魔物の狩りが合法的にできるのも魅力的だが、世界の各地にある迷宮に潜れるのは大きなメリットであった。迷宮では、外とは違う魔物がいて、珍しい魔道具や武器がある。


「はっはっは、その様子じゃしらなかったみてぇだな。けど、それだけじゃないぜ」


グレアムは人差し指を左右に振る。


ジークは前のめりになって、祖父の言葉を待った。


「今ならおまけ付きで、わしの工房をやる」


マジ? と、ジークは口元を動かした。


そして、少し間が空いて、自分の声が出ないことを思い出し、慌てて魔法紙に魔力を通そうとした。


しかし、グレアムには伝わっていたようで、


「おおマジよ」


と頷いた。


「それに、これはシスティには内緒だがな。お前が進級できるごとに、三つの魔道具の試作品を一つずつやる」


ジークの口元が緩み、口角が上がる。走り出したい、そんな衝動に駆られた。


三つの魔道具とは、シルヴェニア王国に平和をもたらし、国宝。高威力魔法兵器の魔砲、あらゆる攻撃を防ぐ魔盾、そして、大気中の魔素を吸収して魔力に変換する魔水晶。グレアムは試作品と言ったが、おそらくそれ自体が強力な魔道具として使用可能で、刻印された魔法陣を解析できれば、国宝に匹敵する魔道具を生み出すことができるはずだ。


つまり、試作品を得ることは、原初の龍を倒すことにグッと近づくことになる。


「ジークも知っての通り、あの魔道具は国宝。他国に知れ渡っちゃあ大変なことになる。魔法士協会のやつらも狙ってるみてぇだし。お前には相応の責任を背負ってもらうことになる」


グレアムの真剣な顔つきに、ジークの浮ついた気持ちが引き締まった。


「特に危険視されてるのは魔砲だ。だから、それに関してはジークにも情報は渡さん」


(魔砲はだめか)


ジークは肩を落とす。


魔盾、魔水晶も有用な魔道具だが、原初の龍を倒すという点においては、攻撃力のある魔砲が一番欲しかった。


ジークが不満げな顔をすると、グレアムは、はっはっはっと大笑いした。


そして、神妙な顔つきになり、


「あの学校ならもっといいものが手に入るかもしれん」


と独り言のように呟いた。


ジークは国立高等学校で手に入りそうなものについて考えを巡らせた。


(……生徒しか閲覧できない図書館の本、か?)


しかし、ピンとくるものがない。


「通えばわかる」


グレアムはそう言ったが、ジークの顔は晴れない。


「そんなに嫌か?」


ジークは口に手をあてて、少し考え込むそぶりを見せる。


”嫌というか、行く意味が分からないし、そもそも俺には馴染めないから”


「行ってもないのに、その価値が分かるかよ」


物憂げに目を伏せるジークに、グレアムは続ける。


「それにな、もし環境が合ってないなら違う環境に移るってのも一つの手だが、逆に環境を自分に合うように変えちまえばいいんじゃねぇのか?」


”簡単に言うなあ、じーちゃんは。それが出来たら苦労しない”


「簡単じゃあねぇ。だけどな、やってもみねえうちから諦めんのは簡単だぜ?」


グレアムはジークに挑発的な笑みを見せた。


「なんでも経験だからやってみな。やってみないとわからねーことなんざ、この世には五万とある」


グレアムから視線を逸らし、ジークは窓の外を眺めた。特に何を見るわけでもない。ただ不意に外を見たくなっただけ。いつの間にか、夕日が沈み、辺りは薄暗くなっていた。


"今日はもう帰るよ"


力のない瞳でグレアムを一瞥すると、ジークは病室の出口へと向かう。


「おう、気をつけてな! ありがとう」


グレアムは少し明るめの声でジークに別れを告げ、彼の背を見送った後、ごほんっと咳払いし、ゆっくりとクッションに背を預けた。


「あぁ~」


柔らかな感触に、重い身体が沈んでいく。しばらく、動きたい気持ちにはならなかった。


「酷な話かもしれんが、あの子が生きるためにやらなければいけないことだ。そうだろう? システィ」


心労が重なり、独り言を呟きながら、グレアムの意識はまどろんでいった。


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