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魔法の環  作者: BWG
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診察結果 前編

病院での診断が終わり、ジークは診察室で医者と向かい合っていた。医者はなにやら神妙な顔つきで、二度、三度と口を開きかけてから、やっとのことで話し始めた。


「このままだと、三年ってところかな」


あと三年、そう告げられた時、ジークの意識は遠のき、今いるこの場所が現実ではないような、そんな錯覚に襲われた。


硬くなった表情で懐から紙を取り出す。


”魔法因子欠乏症の平均寿命は二十五歳ですよね?”


この特製の魔法紙は魔力を通すことで文字が浮かび上がる。通常、ジークのコミュニケーションはこれを介して行う。思念による会話は、精霊のような契約によって結ばれた者の間でしかできないからだ。


「一般的にはね。原因は分かっていないが、魔法因子欠乏症の人は、徐々に身体が衰弱し、平均二十五歳で死に至る。ただ、前も言った通り、君は身体を酷使しすぎだ。普通の人よりも衰弱の進行が早くなっている」


"普通の人? 魔法因子欠乏症の時点で普通ではないと思いますが"


「言葉の綾だよ」


医者は額に手をあてて俯きながら、


「とにかく……、君は安静にすることだ……」


と言葉を絞りだす。


「今のままの生活を続けるつもりなら、三年ももたないと思った方が良い」


医者の助言にジークは肩を落した。


自分が魔法因子欠乏症だと聞かされ、そして、この症状を持つ人は短命だと聞かされたとき、すぐには受け入れられなかったが、覚悟を決めるには十分な時間が経っていた。


緩やかに死を待つか、死に物狂いで生を掴み取るか。


ジークがまだ幼かったころに、魔法因子欠乏症が原因で両親が死んだ時からジークの心は決まっていた。タイムリミットが現実に迫ってきた。ただそれだけのことだ。


はぁ、と軽く息を吐き、顔を上げて背筋を正す。


”自身の身体の状況については分かりました。ありがとうございます。一つだけ、お願いがあるのですが”


「何かな?」


”祖父と……、祖母には伝えないでもらえますか?”


「それは……。できない。医者として伝える義務がある。君の覚悟は理解しているつもりだが、医者として、少しでも君を健康に長く生きてほしいと思っている。それはきっと君の祖父母様も同じだと思うよ」


先生はじーっとジークの顔を覗き込んだ。ジークの表情は微動だにしない。


”そうですか。まあ……、言ってみただけです。診察は以上ですよね?”


「ああ」


”ありがとうございました”


ジークは退出しようと席を経つ。


すると、


「ちょっと待って! ジーク君」


と医者はジークを慌てて引き止めた。


振り返って、疑問の表情を浮かべたジークに、


「君はどうしようと思っている?」


と医者は質問する。


ジークは、ふっ、と笑った。


先ほどよりも声音が硬く、尋問口調となった医者がおかしかったからだ。


”魔泉の水を飲んで、魔法因子欠乏症を治します”


まっすぐに医者へと魔法紙を見せた。


「で、でも、君は以前失敗しただろう? それで力を失って……。状況は絶望的だと思うのだが、君には勝算があるのか?」


驚いて、医者はジークに尋ねたが、ジークは無言。そして、そのまま会釈をして退出した。


誰もいなくなった診察室。


医者は虚空に、


「悪い、ジーク君。どうしても聞いておかなければならなかったんだ……」


と呟く。

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