6.初魔法
「なあ、クリス」
「ほいほい」
魔力の出力が抑えられるのを、俺は蛇口のようなイメージで考えてみた。
蛇口をかなり絞られたとしても、圧倒的な水量があれば蛇口を破壊することもできるんだろう。
「もしもこれを外せたら助けてくれるか?」
「……無理だと思うすけど」
「まあ物は試しってことだ」
クリスは苦笑しながら肩をすくめた。
「アラタ、できるの?」
「いや、わからん。やってみようかと思って」
さて、何の魔法を使うべきか。
もしもこれで世界を吹っ飛ばしたら、予防策を考えてブレンダに出会えばいい。
そう思うとなんか緊張感ないな。
「レイズマッスル!あづづづづづっ!?」
あっつ!!
首が焼けるような痛みに悶えてごろごろと転がる。
その間にブレンダにタックルしたような気もするけどそんなのは仕方ない。
「うるせぇ! 何してやがる! おい、クリス!」
「な、なんでもないっすよ!」
俺がごろごろと奇声を上げながら転がっていたら、少し遠くから声が聞こえてきて男が二人が近づいてきた。
「ほんとなんでもないっすよ! あほなことを言い始めたんで蹴っ飛ばしただけっす!」
「……本当か?」
クリスが必死に誤魔化してくれている。
そして、俺は気が付いた。
マジか、何が痛くて死にそうかと思ったけど、というか今も痛いんだけど首輪が融けてる。
いてぇ……だから首が死ぬほどいてえのか。
「おい、奴隷! 次声上げたらぶっ殺すからな!」
「大丈夫すよ。俺がしっかり叩き込んでおくんで」
男たちはそうして二人とも立ち去って行った。
ブレンダはその眼を大きく見開いて、俺をまるで奇妙な動物を見るような視線をしている。
「まったく、なにやってんすか……ってなんすかそれ」
「いやー……なんか取れたわ」
俺は首を恐る恐る触ってみると、浅いが傷になっているようで触るとめっちゃ痛い。
そしてゴトリ、と金属の破片が床に落ちる。
それにしても、なんか気持ち悪いくらい力があふれ出てくる。
今だったらジャンプしたら空も飛べそうなくらいだ。
……これ、もしかして魔法が使えたってことじゃね!?
レイズマッスル。筋力強化系の下級魔法だ。
つまり、奴隷の首輪をつけていれば俺は魔法を使える!
「アラタ、あんた何者すか?」
「一般人だ、と思うけどね」
俺は、まず縄を引きちぎり、まるで粘土細工のように鉄格子を歪める。
やばい、なにこれ楽しい。
「ブレンダ、ちょっと失礼」
そして思い出したので彼女の首元に手を伸ばし、文字通りに力尽くで引っ張って首輪を真っ二つにする。
ブレンダは驚いて固まりつつ、俺が更に縄をほどいたのを確認して目をぱちくりとさせながら凝視してくる。
「…………アラタ」
「これで魔法使えるだろ?」
「クリス、お前のも外すから貸してくれ、腕を」
「……ま、待ってくださいっす」
俺から怯えるように一歩後ずさっている。
小柄な少年に迫る光景は、傍から見たら変態だろうか?
「悪いが、時間がないんでな」
俺はクリスの背後に一瞬で回り込み、手首を掴むと同時に引きちぎる。
すごい、ものすごいスピードで動いてもまるで歩いていったような、なんだろう。全てが自分の身体のように動く。
「なっ……」
多分、奴隷の首輪がなくなってしまったらまた俺は魔法を遣ったら世界を滅ぼすんだろ?
そしたら今筋力強化が効いている間に何とかしないといけないのは明白だ。
「…………あ!」
あ、俺はすごいことに気が付いてしまった。
これ奴隷に使う首輪を集めれば一発ずる魔法使えるんじゃね?
…………よし、奴隷商になろう。
始めはかっこよく奴隷を全滅させようと思ったんだけど、よく考えたらこいつらを捕まえて首輪を奪う方法を探した方がいいか。
俺って頭いいかもしれない。