5.奴隷
「いってぇ……」
気が付くと、俺は固い木の床に転がっていた。
両手両足には縄でぐるぐる巻きにされていた。
「大丈夫?」
「ブレンダ。お前も捕まったのか?」
近くから静かな声が聞こえてきたので確認してみると同じようにぐるぐる巻きにされている彼女が同じ態勢でいたので、俺は舌打ちをする。
何が何やら。とりあえず俺とブレンダは見知らぬ男に捕まったわけだ。
俺は俯せになっている身体を反転させて何とか周囲を見回すと、そこは簡易的な牢屋みたいだ。
鉄格子を嵌められており、俺とブレンダが同じ牢屋に囚われている。そして、更に周囲からは咽び泣くような声があちらこちらから聞こえてくる。
……なるほどね、これ奴隷パターンだ。
近くには布がかかったでかい四角いものが多いんだけれども、それは恐らく俺と同じように捕まった連中ってことだ。
多分テントのような場所に俺たちは放置されているみたいだ。
「壊せたりしないかな?」
「むりっすよ!」
「誰だ!」
唐突には話に割り込んでくる中性的な声に、俺は反射的に突っ込む。
しかし随分下手なツッコミになってしまった。
壁になっている鉄格子に身体を押し当てて何とか上半身を起こすと、そこにはこれまた中性的な少年が立っていた。
そして彼が鉄格子の外で手足が自由にある時点で奴隷商側だとわかる。
「あんたらについてるその首輪には魔力を抑える力が付いてるんすよ! それがあればどんな魔術師でも魔法が使えないんすから!」
悔しそうにブレンダが唇をかんでいることからその要素は正しいんだろうな。
「初めにブレンダを気絶させたのはお前たちなのか?」
「そっすよ。まさか邪魔が入ると思ってなかったすけど、ポンコツで助かったすよ」
「うるせえ」
俺はポンコツ神に巻き込まれただけで、俺自身はポンコツじゃねえよ。
「で、俺たちは売り飛ばされ待ちか」
「うーん、あんたは別に大した価値がなさそうなんでこれから殺されそうっす」
「マジ?」
「マジっす」
少年は手を大げさに広げて肩をすくめている。
それにしても、この少年の服装がそこまで豪華な感じではない。となると、やとわれだろうか。立場的には低そうで、何とか取り込まないと俺殺されるじゃん。
「俺はアラタ。君は?」
「俺すか? 俺はクリスす。先に言っておくすけど、俺はただの下っ端だから逃がすことは無理すよ。そもそもあんたを助ける理由もないっす」
「そこをなんとかできないかね」
「うーん、確かに無駄な殺生は嫌いすけど、俺も殺されたくないんで」
立場的には恐らく俺たちを捕まえようとした者、そして襲った者、俺たちの順番でヒエラルキーがあるわけだ。
茶髪の少年は俺らの檻の周辺をうろうろとしながら苦笑いをしている。
「アラタ」
「ん、どうした?」
ブレンダが後ろから声を出す。
よく見れば、彼女にも金属の首輪がついている。
「その子にも」
「え?」
「あり? ばれちゃったすか?」
少年の左手首にも俺たちにつけられているようなリングがつけられていた。
つまり、この少年も奴隷の一員のようだ。
「俺は従属ってだけっす。あんたらみたいな商品ではないっす」
ただ、命令には従わないといけないと言葉が続いた。
なるほどね。クリスが仮に俺たちを助けたくても厳しいようだ。
「あくまでもアラタ、あんたらが逃げ出さないようにするための門番ってことなんすよ。今は夜なんで、明日の朝には殺されるからこうやって話し相手になってあげてるんすよ。俺ったら優しいなぁ」
「その場で殺せばよかったじゃないか」
うーん、とクリスは唸る。
「それはそうなんすけど、流石に単独でいたのかもわからん輩をその場で始末するのはって感じじゃないっすか?」
なるほど、それも納得だ。
「因みにこの首輪と腕輪って用途が違うのか?」
「一応頭に近い方が強力な強制力をもたらす……って聞いたっすけど本当かは知らないす」
「これさえなければ」
ブレンダが悔しそうに呟く。
俺もなぁ、まともに魔法さえ使えればなぁ。世界冴え滅ぼさなければなぁ。
「魔法が出せないのか?」
「……魔力の出力が抑えられてるみたい」
「無駄っすよ。昔この首輪はそもそも世界最強の人間をただの人間にするために作られたみたいっすから。あんたがどうあがこうと無理す」
……世界最強の人間を倒すためってことか。
あれ、これ俺破壊できるんじゃね?