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28.冒険者

 結局、俺が買ったのは薄手のマントのようなものだった。

 個人的にはこれで寒さが凌げるとは思えないが、ブレンダもヘラルドも大丈夫だと言っているから多分魔法の力でなんとかなるんだろう。


「それにしても、結構安くしてもらったな」


「普段から付き合いあるから」



 時刻は夕方になっていた。

 初対面の俺よりは圧倒的に話しやすいであろうヘラルドと会話していたブレンダを見ながら、外を眺めていた。


 人通りは多い。

 まるでゲームのように髪色はバラバラで、それさえ目を瞑ればこれが異世界ということに気が付かないレベルだ。



「ヘカトーまでの道程を考えていなかったんだが、乗り物はあるのか?」


「途中までは馬車。そこからは雪山を通るから、別の道」


 ブレンダはまた王宮に戻るようだ。

 俺も誘われるが、あそこに行く理由もそこまでなかった。


 宿だけ教えてもらってブレンダと別れる。

 集合は明日の朝。道すがら教えてもらったギルドの前。



 俺は宿に入って一泊を告げる。

 金額については詳しいことはわからないが、多分まあまあ高い場所だったんじゃないかな。



「ギルドに行ってみるかな」


 別に理由があるわけでもない。

 ただ、異世界だし行ってみようかなって。


 ギルドは居酒屋に併設されているようで、建物はかなりの賑わいを見せている。

 たくさんのテーブルに、たくさんの椅子。


 居酒屋なんだから当たり前なんだろうが、その奥にはカウンターが設置されている。

 そこがギルドの受付であると確信はあるわけでもないが、ゲームとかアニメとかの知識だとそうなるわけだが。



「冒険者ってこの時間でも申請できます?」


「あ、はい。初めての方ですよね」


 初めて以外に何がいるのか、目の前で眠たげに目を擦っている女性は返答した。

 メイド服に近いようなコスチュームに身を包んだ俺と同年代。眼鏡に三つ編みと真面目に見える偏見要素が強い少女だ。



「それでしたらこちらの紙に記入できる限りでいいので書いてください」


 名前や出身地、職業から、魔法の属性やその他。

 履歴書を簡易にしたようなものだ。


 記入できる限りという言葉に少し引っかかったが、なるべくは埋めるようにする。

 恐らくこの世界では冒険者を専業にしている者もいるが、資格としても役に立つようだ。


 でなければ職業欄が普通はないだろうし、兼業者が多いと考えられる。



「しばらくお待ちください」


 嘘偽りなく書いたその紙をもって、裏に引っ込んだ眼鏡受付嬢。

 俺は手持無沙汰になり、手近の椅子に座る。


 別に申請さえできればすぐにでも宿に戻って寝たいところだから酒を飲むこともない。

 夕食も食べ終わっているのだから尚更だった。



「おう、兄ちゃん。飲まないのか?」


 どしん、と勝手に隣の椅子に座ってきたいかつい親父。

 何故この世界の親父はムキムキなんだろうか。


「あ、はい。ただ申請を待ってるだけなんで」


 手にはジョッキを二つ持っており、酔っ払いに絡まれてしまった。

 背中には細い片刃の剣を背負っていて、まるで日本の着物のような民族衣装を纏っている50歳代不審者。


 遠目なら同じ日本人に見えるのだが、こうやって目の前にいると着物ではないのがすぐにわかるし、日本刀でもなさそう。

 ただし、黒髪黒目で比較的地球にいるような雰囲気を醸し出している。



「ほら、俺の奢りだ」


 どん、とジョッキをテーブルに置かれる。

 多分ビールのようなものだと思う。泡もあるし。


 断って何を言われても面倒だ。俺はただ冒険者の申請をしているだけなのに……

 仕方ないか。


 なるべくこの目の前の陽気そうに笑いながら酒を一気飲みをしている男にばれないようにため息をついた。



「で、俺に何か用ですか?」


「ん? 見ない顔だなって思っただけだぜ。ここは国中の冒険者が集まる場所だが、初見なんて珍しいからな」


 ……この赤ら顔の男、酔っぱらっているようにへらへら笑っているが。


「おいおい、そんな怖い顔するなよ。別に取って食おうとなんて思ってもいないんだ。ただの好奇心ってだけさ」


 別に怖い顔をした覚えはない。

 これは元からだ。


 ジョッキを傾けて、少しだけ飲んでみる。

 酒だが、この状況を前にして酔うことは出来なさそうだ。というか早く受付嬢よ、帰ってきてくれよ。


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