27.呉服屋
街の風景は、一度行ったことのあるヨーロッパのようだった。
ただし魔法が発展しているせいで科学が発達しておらず、少し前の時代という印象か。
そして、道行く人をちらちら確認していくが、殆どが人間の形をしている。
いや、言い方が間違っているかもしれない。
獣耳をつけたような獣人は表通りを歩いていることはない。
「…………」
時たま、まるで、まるで奴隷のように足蹴にされつつ無理矢理働かされている年端もいかない少年少女がいた。
それに誰も目を向けることなく、さも当たり前のように街中の風景として馴染んでいた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
俺の隣にいるこの子も気にする様子はない。
俺がおかしいんだろうなぁ。異世界にきた地球人としては異質なのは俺だ。
「獣人ってやっぱり地位は低いのか?」
世間知らずだから、世間知らずなりにずかずかと質問してみることにした。
ジールには呆れられそうだが、俺にこの世界の常識を教えてくれる人が少なすぎた。
「アラタの周りでは違った?」
「……ここまでじゃなかったかもしれない。でも、どこもそうかもしれないが」
他の国の人への差別を考えて、少し言葉に詰まった。
「そっか……いい場所だね」
俺たちは寒い地方に行くために上着を探していた。
ブレンダの知り合いがやっている店のようで、店主である親父と仲良く二人で話している。
「…………違う…………恩人」
「そうか? 中々の強面じゃねえか」
何の会話をしているかはわからない。
ただ俺のことを話しているようだ。
60歳くらいの禿げ頭の店主は、呉服屋と思えないような筋肉隆々の身体だった。
タンクトップから立派な二の腕が見えているのだが、この世界で見た目の肉体がどれだけ影響があるのだろうか。
如何せん無知すぎる。
「寒いところに行くってな」
「あ、はい」
「ほぉ、あんた。魔術師系統か」
俺の肉体を見て、そう呟く。
この世界の人は見た目で前衛か後衛かを判断できるようだ。
恐らく前衛職は鍛えているからこそということだ。個人的な疑問で言えば、筋力強化の魔法があるのに見た目の筋肉をつけることに利点があるのか。
「それならこれなんてどうだ?」
といろんな上着を薦めてくる。
因みに俺には違いがよくわからない。
とりあえず動きやすい服装で、且つ目立ちにくいもの。
いや、違う。まずは防寒性か。
「防寒性ってどうやって判断すればいいんだ?」
隣にいるブレンダに聞いてみる。
今この場で寒い場所に行ければいいんだが、どうすればいいだろうか。
「凍結魔法でも使ってみれば?」
「……もっと心優しい方法はないのか」
「おうおう、俺が薦めるものにケチつける気か?」
完全にヤクザとかそういう言い方になっている。
俺にとってそれがいいものかどうかなんて判断つかないのに。
「ヘラルドは嘘を言わないよ」
「だろう? ブレンダちゃんの恋人なんだから嘘なんて言わねえよ」
「……恋人じゃない」
ブスっと膨れるブレンダ。
この様子を見ると、ヘラルドと呼ばれた禿げ親父と一応知り合いみたいだ。
まあそれもそうか。
俺をこの店を紹介してくれたのがブレンダなんだから、初見にはしないはずだ。
「昨日知り合ったってさっきも言ったでしょ」
「恋に時間の長さなんて関係ないだろ? 俺だってなぁ、カミさんと出会ったのもな」
「その話長くなります?」
昔話になりそうだったから流石に口をはさんだ。
別に時間に追われているわけではないが、だからと言って人の馴れ初めを聞くほど暇でもない。
「その話、もう聞き飽きた」
俺とブレンダからのブーイングに仕方なさそうに口を閉じたヘラルド。
そして哀愁漂う後ろ姿で俺の為に上着を探している。
「要約すると、魔王軍に街を攻め入られていた時にヘラルドの奥さんに助けられて惚れた」
「あ、助けられた側なのか」
こんなムキムキ男だからてっきり助けた側と勘違いしそうだわ。
しかもここで要約して語られることによって、今後ヘラルドが俺に語ることも未然に防いでいる。容赦がないな、ブレンダ。
「元々は西の方で呉服屋をしてたんだが、街が半壊してな。その際に王都のほうに移転してきたってわけだ」
「未来の奥さんを追いかけてストーカーの如く」
「ブレンダちゃん、ほんと容赦ないなおい」
少しだけ笑いながらブレンダは胸を張った。
 




