25.同行者
「さてと……」
そのあとデックスからは奴隷商が死んだにも関わらず、金をもらってしまった。
断ろうと思ったが、はっきり言ってこれからの俺の生活を考えてもらってしまった。
それが恐らく今後もよろしくという思いもあったと勘ぐるのは俺が日本人だからだろうか。
北の氷雪地方を統括する貴族に向けて書いてくれたエレナ王妃の手紙をデックスから受け取り、城下町にでた。
「……何買えばいいんだろう」
旅に出るとはいえ、そもそも徒歩なのか。馬車みたいなものがあるのかはわかっていない。
必要なものは何か。
この世界に四季があるかはわからない。
とりあえず今はそこまで寒くはないのだが、氷雪という事でほぼ確実に寒い地方であることは間違いではないはず。
「あ」
「お、ブレンダじゃないか」
……偶然というのは恐ろしい。
俺がぷらぷら目的もなく町中を歩いていると、正面から見知った顔が近寄ってくる。
俺の勘違いでなければ、俺を見つけて少しだけ顔が綻んだ様に見えなくもないのだが、自意識過剰だと思う。
でも、結構クールに見えるブレンダが微笑んでくれるだけで、勝手に勘違いする輩は出てくるはずだ。
「偶然だな」
「うん、すごく偶然」
「…………」
「……」
なんだこれ、会話が終わったぞ。
多分率先して話すタイプの少女ではないから仕方ないんだろうけど。
「今はフィリスもいるのか?」
「お昼寝中」
ちょっとだけ眉を顰めるような仕草をしたように見えたけれど、多分見間違いだ。
わからないけれど、仮に変化したとしても多分あの俺を殺しやがった少女の名前を認識していることへの反応だろう。
「大丈夫なのか? 無理しない方がいいと思うが」
「平気。いつもこんな感じだから」
「ブレンダはヘカトーって行ったことあるか?」
何気なく聞いてみる。
彼女はこくこくと頷き、首を少し傾げた。
「そういえば昼がまだなんだが、ブレンダは食べたか?」
北の街ヘカトーを知っているなら少し情報を聞きたいところだ。
ブレンダは嬉しそうに首を振って体の向きを変えて、俺の横に並ぶ。
なんかこうクール系だと思っていたが、どちらかというと表情の動きが小さめというのが正しいような気がする。
「あんまり店に詳しくないから適当に任せていいか?」
「うん」
俺たちはカフェのような場所に入る。
適当な注文を彼女に任せて、俺は店内を物珍し気に見回していた。
欧州で見たことあるようなないようなそんな雰囲気だが、やはり気になるのは客や店員の髪色だろうか。
流石に欧州でも赤だの黄だの青だのが横行していないはず。
「ヘカトーって結構寒いか?」
「その格好だと結構寒いかも」
……だよねー。
俺の恰好なんて秋口の普通の服装だし。
「これから行くの?」
「ちょっとな」
「私も行っていい?」
俺は言葉に詰まった。
ブレンダと一緒ということは、俺も第一、二王女派閥から狙われる可能性があるわけなのだが……
「道案内も必要じゃない?」
「……それはそうだ」
そもそもはエレナ王妃のお願いでブレンダの味方をするという引き換えにヘカトーへの情報を手に入れたわけだ。そしてそのブレンダが俺と一緒に行動する。
……これはどうなんだろう。
「因みになんでついてくるんだ?」
適当な理由だったら断れるんじゃないかと思う。
「アラタと一緒に旅がしたいから」
第三王女様は恥ずかし気もなく、さらっと言ってきた。
多分、適当な理由だったら俺だって断った。でも、ここまでストレートに言われると。
俺は頷くしか選択肢がなさそうだ。




