23.掃除
俺が扉を潜って戻ると、そこにはデックスがずっと待っていたようだった。
「悪いな、時間がかかって」
「いえいえ、あの空間は時間の進みが違うので全然時間は経っていませんよ」
早く情報が欲しいのか、言葉もそこそこに本題に入ることになった。
俺は聞いた話を一言一句そのまま伝える。
実際は違うけれど、意味合い的にはなるべく齟齬や誤解を与えないように説明する。
「北ですか……随分広い言い方ですね」
「それはそうだが、人が住める地域なんて限られてるんだろ?」
「それはそうですが……向こうは未開の地が多くて厄介なんですよ。特に凶暴なモンスターも多いですし、気候も天敵です」
氷雪ということから当たり前に雪国なんだろうな。
俺が元々いた場所は雪がたくさん降るが、ここではどうなのか。
「これからお時間があれば、アイテムについてお話ししますがどうでしょうか?」
「あ、そうだったそうだった。頼むわ」
なんかジールに会ったせいで色々忘れていたけれど、そもそもはオールミラーだったかいうアイテムを手に入れるのが目的だった。
一応ジールと話したことは秘密にしておくとして、有益な情報が手に入ればいいな。
俺らは地下から抜けると、今度は塔に上り始めた。
螺旋階段をどれくらい登ったのだろうか、多分5階建てくらいだと思われる。
「……なんで、こんな不便な所に行くんだよ」
「一応私の研究室があるんですよ。秘密の会話をする上では安全を考えなくてはいけませんし」
そこまで秘密にしないといけないのかよ。
エレナ王妃やデックス、ジールも普通に話していたから、俺と彼らの間に認識のずれがあるようだ。
そして王宮魔導士曰く、魔法での防壁よりも物理的に狭い螺旋階段をたくさん登らせる方が色々と防御には便利なようだ。
……こんな人が二人以上並んで歩けないような螺旋をずっと登らせるのがかよ。
「魔法は便利ですが、その分相手にも便利ということですよ」
「更に魔法での防御もあるからより強固ってことか?」
「……一応普通の人にはわからないように巧妙に作っているんですけどね」
俺の方に振り返って、少ししかめ面をしていた。
個人的に言わせてもらうなら、わからないけれどなんかこう、変な感じがする。
多分俺の中では第六感として処理されてしまうようなレベルだ。気のせいと言われたらそう思えてしまうし。
「どうぞ、散らかっていますが」
「…………うわぁ」
はっきり言って滅茶苦茶散らかっている。
そもそも塔の上の研究部屋だからそこまで広くはない。
広くはないのだが、圧倒的に物量過多になっている。
本の量が尋常ではないのだ。足の踏み場もないほどの本の量。そして一応俺の目線の高さには窓があるようなのだが、それを上回る本のタワー。
こんな場所に地震でも起こったらとんでもないことになりそうだ。
「部屋の掃除をしろよ」
「面倒なんですよね。必要な時には探すだけなので」
また軽く指を振ると、本が宙を浮いてデックスの手に収まる。
因みにその過程で本のタワーが倒れた。
「……魔法で探すなら、魔法で片付けろよ」
「それができれば早いのですが、この世界にはないんですよ」
……それは嘘だ。
俺はその魔法の名前を知っているし、多分今唱えることはできると思う。
俺の馬鹿魔力でどうなるかは知らんが。
いや、でもたかだか部屋を清掃するような魔法だぞ?
これで世界が滅びたらシャレにならんだろ。
「クリーンアウト」
因みに俺は死んだ。
すぐに神に言ってこの世界に戻ってくる。
掃除する用の魔法だったが、なんとも頭のおかしいことに全て馬鹿魔力によって世界が掃除されたらしい。
頭おかしいだろ、流石にもう不用意に魔法を使うのはやめよう。
俺はげんなりした表情のまま、デックスからオールミラーについて知っている情報を聞くことにした。
一回無駄に死んだのは、もう誤差の範囲でしかない気がしてきた。
人間慣れるんだな、迷惑な話だが。




