22.要件
「ごめんごめん。で、君の用件を聞こうか」
どういう原理かわからないけれど、俺にはわかる。
ジールが空間の上に座って、足を組んでいることに。なんでかはさっぱりだ。これが魔法ってことか。
「どうしてそう思った?」
「君はクリス君と敵対はしていなさそうだし、知りたがっているのはデックス君だろ? そしたら君は何しに来たって話だろ」
それもそうか。
こいつと話していると毎回毎回納得感が強いけれど、もしかして俺はかなりバカなんだろうか。
「僕の推測だと、元の世界に返るって感じでもなさそう。どちらかというとその強大な力を制御する方法とか?」
「……俺の心とか記憶とか読めるのか?」
超能力の世界かと思えてくる。
「それができるなら早いんだけど。君にそんな力は通じなさそうだし試してもいないよ。というか、そういう発言が多すぎるんだよ。君は魔術に疎すぎる」
口元には笑みを浮かべたまま、ただ全く目が笑っていない自称囚人はまっすぐ見てくる。
まだ出会ってから時間も経っていないのに、そこまでばれているのか。
「全部お見通しってことかよ。そっちの方が話は早くて助かるんだが、俺の馬鹿魔力を制御する方法を探していて、なんでも願いが叶うっていうアイテムがあるらしいんだ。それについて知りたい」
ジールは顎に手を当てて、少し楽しそうに笑った。
「前者なら、僕も手伝ってあげられることはできるよ、多分」
前者? つまり、俺の馬鹿魔力を制御か。
そんなに願いが叶うアイテムが難しいということだろうか。
「数ヶ月でいけるか?」
「…………難しいかもね。それは君の頑張り次第としか」
困ったように首を傾げている。
「アイテムが氷雪地方にあるって聞いたけれど、何とかならないのか?」
「仕方ないね。君には時間がないようだ」
ジールは腕を組んでいる。
その白い瞳は何を見ているのか。とりあえず俺の方に視線は向いているけれど、俺を見ているわけではなさそうだ。
「そうだね……もしもオールミラー、君の言う何でも願いが叶うアイテムについて知りたかったら、氷雪の街ヘカトーに行くといい。今言えるのはこれくらい」
「やっぱりそっちにいけってことか」
「それはそうだよ。それに全ての答えをまとめてもらうなんて面白くないだろ?」
……俺は面白い面白くないという話じゃない、死活問題だぞ。
だが、目の前のこいつは暇潰ししか考えていない。
知の天才は一筋縄ではいかないのか。
「また今度来てよ。これを渡しておくから」
髪の毛を抜き、それが膨らみ小さなカードのようになった。
真っ白いカードは髪のようなふにゃふにゃとした材質ではなく、まるで本物の紙みたいだ。
なんだこれ、これも魔法かよ……本当に何でもありだな、これ。
それにデックスと同じように魔法名すら言っていないから、すべて破棄している状況だ。
「これに君の魔力を込めてくれれば、いつでもこの部屋に飛べるようにしたよ」
「ありがとよ」
自称囚人は何を思っているのか。
多分いつでもここから出れるんだろうが、本当に暇なんだろうな。
ジールはにこやかに手を振っている。
つまり、これは帰れという事だ。
これ以上情報は集められないと確定したから素直に退散するのが無難だし、無駄にジールの機嫌を損なう必要はない。
「わかったよ、また今度来る」
「ふふふ、そう構えなくてもいいのに。また会いましょうね」




