2.はじまり②
「はいはい、お約束の森ですか、そうですかそうですか」
眼を開くとそこは森の中だった。
木々の感じを見ると、そこまで俺が知っている日本と大きくは変わらないような気もする。
ふぅ、どうするかな。
とりあえずこの森を抜けて街に出たいな。
街に行ったらギルドで冒険者にでもなろう。そしたら魔法でチートできるだろうし。
楽しみだな。お姫様
「あ、そうだ。魔法を撃ってみるか」
折角チート能力をもらったんだし、地球では有り得なかった異世界特有の力を使ってみるとするか。
多分異世界では名前と苗字の順序が逆になるから、天雷新あらためアラタ・テンライとして記念すべき魔法だ。
ただ、魔法なんて何も知らないが……
「……なるほどね、頭の中に浮かんでくるのか、気持ち悪いなこれ」
俺がそんなことを考えていたら、まるで頭の中で辞書のページを開くようにものすごい数の魔法の名前が思い浮かんでくる。
名前しか出てこないけど、どうせ最強なんだし詠唱とかないんだろ。
この世界でそもそも詠唱というものがあるかは知らんけど。
なんか記念すべき一発目は名前がかっこいい魔法がいいな。
となるとやっぱ雷系かな。俺の名字に雷ついているし。
よし、これだな。
「ライトニングボルテックス!!」
俺が高らかに叫んだ瞬間、白い閃光に包まれた。
目を覚ますと、そこは白い空間だ。
俺は再度状況もつかめずきょろきょろと辺りを見ますのだが、何もない空間で床も天井も壁も何もわからない。
そして床だとわかった証拠に、俺は椅子に座っていた。
その椅子は俺が今までの人生で見たことのないような素材で作られており、とりあえず高そうという印象はあった。
「おかえりなさい」
「いや、なんで? 何でここに戻ってきてんの?」
ついさっき出会った神を名乗る美少女が非常に困ったような表情でため息をついていた。
絵になるような光景だが、今はそんな場合ではない。
「あなたは死にました」
「え、なんで? 今魔法を撃っただけだけど?」
俺は死んだという事実を理解できなかったが、とりあえず神の話を聞くことにする。
「正確に言うと、世界が滅びました。貴方の撃った魔法で」
「はぁ!?」
意味が分からない俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
世界が滅びた? なんで?
風が吹けば桶屋が儲かるとか、バタフライエフェクト的なノリ?
俺が魔法を撃ったら、何かが動いて世界が滅びた?
「……もしかして、あの魔法は結構とんでもない魔法だったのか?」
「いえ、ライトニングボルテックスという魔法は雷系での中級魔法ですね。5段階で評価するなら3です」
「…………」
「いやー、貴方には全く魔力を操る才能がないみたいですね」
おい、なんでそう目を逸らして苦笑いをしている?
どういうことだ?
「まさかこんなことになるとは」
「……つまり?」
「アラタ様。貴方は魔法を使うと、その膨大な魔力を使ってとんでもない威力を発揮するみたいです。中級の魔法で世界を破壊してしまうとは思いませんでした」
「…………はぁっ!?」
え、待って。
そしたら俺どうすんの?
俺は魔法を使うと世界を滅ぼすとか魔王か何かか?
表情をくみ取ったのか、少し困ったような表情が増している神。困っているのは俺なんだけど。
「一応貴方は死んだらここに戻るようにはしていたのですが、困りましたね」
「困ったのは俺だよ! なんだよその欠陥能力! 全くチートじゃねえじゃねえか! 使ったら死ぬとか宝の持ち腐れとかいうレベルじゃないだろ!」
「と、とりあえず、ここに長居はさせられないのでまた現世に戻しますね」
「おい、待て。話は……」
俺が追及しようとする前に、すぐに視界は暗転した。




