19.大罪人
「別に俺は嘘をついていないんだが、よくもまあ俺の言うことを信じたな」
「貴方が奴隷商を殺すなら、そもそもブレンダ様を助けた時点で殺していると考えるのが当たり前でしょう。ブレンダ様から聞いていますよ」
食事をしながら話そうという事で、俺たちは廊下を歩いていく。
王宮内は朝方ながら騒がしいのだが、これは元々なのかクリスのせいなのかはわからない。
「悪質な奴隷商は死罪になることもあるので、我々としては殺されたことについてはそこまでなのですが、王宮内というのがあまり宜しくありませんね」
……殺されるのはいいのかよ。
それに、さっき獣人の奴隷はまるでついでのような言い方だったし、この世界の価値観がちょっと合わないところがある。
俺の中でモヤモヤするけれど、でも。
いや、今は考えるのをやめよう。
「流石に王国内でも一二を争うレベルで安全なはずなのに、よもやあんな輩を招いてしまうとは」
苛立っている様子でデックスはため息をついている。
「それについて少し聞きたいんだが、そんなに王宮って安全なのか? 他の勢力もいるわけだろ?」
「あ、それにつきましてはご安心ください」
自信満々な態度を見て、さぞ俺は訝し気な表情だったんだろう。
デックスはにやりと笑っている。
「貴方が魔力の天才であれば、ここには知の天才がいるんですよ。彼によって王宮は安定しています」
抑止力になっているのだという。
特にどこかの勢力に肩入れすることなく、問題が起こった時のみ要請があれば介入するらしい。
「ただ、困ったことに大罪人かつ変人なんですよ。基本的には一番奥の牢屋に捕らえられています」
それなのに王宮は一番安全と言えるのか?
牢屋にいる変人。これが異世界だから成り立っているけれど……
「クリスの居場所とかわかるのか?」
「……それはどうでしょうか? 情報をある程度渡せば推理できると思いますが、あまり簡単に刑期を短くするわけにもいかないんですよ」
それぞれの王女勢力に何千年も刑期が分け与えられており、それの減刑によって取引できるようだ。それ以外にルールはない。
勿論、その男の匙加減もあって、内容によって数字は違うようだ。
「互いに残りどれくらい刑期があるのかもわからないですし、無駄に消費はできないんですよ。特に我々は立場的に弱いですし」
第一王女が流石に有力勢力であるから仕方ないのだろう。
俺はその話を聞いて、少しだけいいことが思いついた。
と言っても漫画かなんかで読んだだけだが。
大体そういう奴は知的好奇心が強いと相場が決まっているんだ。
「ちょっと会わせてくれないか? 会うだけでは問題ないだろ?」
「まあ、それはそうですが」
デックスは渋っているが、俺に策があることを告げる。
「そいつ知的好奇心が強かったりしないか?」
「よくわかりますね」
でしょうね、だからこそ俺の作戦が効くわけだ。
「もしも俺に会わせてくれればクリスについて情報は集められるかもしれない。それにブレンダのために何かできるかもしれない」
そして、俺が欲しいアイテムについても。
だからこそ俺はなるべくプッシュしてその知の天才に出会えるように頑張る。
押し問答を数分しても俺は粘り続け、仕方なさそうに王宮魔導士は折れた。
よし、勝った。
俺の作戦は単純。
地球の知識を語ることによって知的好奇心をくすぐって有益な情報を手に入れるんだ!




