18.犯人
「動くな!!」
朝方、思い切り扉を蹴破られて俺の目ざめは最悪だった。
まったく、なんだなんだ?
部屋には無数の兵士が雪崩れ込んできて、全員俺に向かって武器を構えている。
なんだこれ、第一第二王女の派閥か?
俺は寝ぼけまなこをさすりながら、体を起こす。
「おはよう、デックス」
「…………アラタ様、絶対に構えないでくださいよ? 私は止めたんですよ」
何を言っているんだろう。
よくわからんけれど、茶髪のちょんまげは周りの兵士を諫めるように皮肉っている。
とりあえず俺に構えるなと言っているし、俺に言い訳をしているし何がどうしたいんだよ。
「まず状況を説明させてくれませんか。我々はあなたと敵対するつもりはありません。お願いなので私の話を聞いていただけないでしょうか」
多分この中で一番地位があるのはデックスなんだろう。
ただ、この周りの血気盛んな様子を見るに留めることが難しいということか。
その困ったような表情を見ると、社会的な立場と個人的な立場がずれている感じか。
「魔導士長! 何故殺さないんですか!」
「……やめろ。先にお前らを殺すぞ?」
「い、いやしかし……」
今更だけど、デックスだけフルフェイスにしていないのはそれか。
多分全員フルフェイスだったら、俺が殺す可能性があったわけだ。
まあ俺からしたらないのを知っているんだが。
「奴隷商が全員死んでいました。ナイフなど鋭利な物で首を切られたようです」
端的な説明に、俺は言葉を失う。
「…………マジ?」
奴隷商というのは、多分俺が捕まえたやつらのことだ。
「ついでに獣人族の奴隷も全員」
「……は?」
そんな、そんなことが?
俺は奴隷商の話よりもがつんと頭に響いた。
何の罪もない奴隷少女たちも死んだのか。
誰かに殺されて、俺に濡れ衣を着せたという事か?
だが、そもそも何故いきなり俺に全員で武器を向けるというんだ。
「奴隷商に輪をつけたのはアラタ様ではない?」
「…………」
俺は停止した。
質問の意図が理解できたから。
「……なるほど。あの少年の部屋を探しなさい。逃げられているでしょうけど生死を問わない、いや殺してでも捕まえなさい」
「いや、待て」
兵士はすぐに武器を収めて立ち去って行った。
残されたのは俺とデックスだけ。
俺は一度大きく息を吐いて落ち着かせようとしていた。
「あの少年、何者ですか?」
「わからん、俺やブレンダが捕まった時に監視していた少年だ。名前はクリス。手首につけられていた奴隷だろう」
「……とりあえず謝罪します。あなたを疑うつもりはなかったのですが、立場的なものがありまして」
本当に申し訳なさそうに謝られた。
正直そんなことはどうでもよく、それよりもクリスがやったと思われることについてだ。
「奴隷の輪には特殊な魔法がかけられてまして、基本的に拒否するという選択肢がとれないようになっています。奴隷商達は牢屋にいれられていたので、取り付けた者による命令と考えるのが妥当でしょう」
「……でも、なんでクリスが」
あんなに無邪気に笑っていた少年が。
……俺はいまだに信じられないでいる。あんな子供が何十人も殺したってことか?
「昨日……いや今日か、デックスが帰ってから一度クリスに会っているんだ」
そして彼との会話を思い出す。
ここにいる理由がなくなったからいなくなったと少年は言っていた。
「……つまり、その時点では命令されていたんでしょうね。互いに殺し合わせれば牢屋に行く必要はないですし」
「そしてこれを受け取った」
奴隷の輪。
没収される可能性があったから迷ったが、俺は素直に教えた。
互いにここで非協力的な態度をとる必要がないからだ。
「…………多分、逃げたということはもう捕まえられないでしょうね」
「だろうな。故郷に帰ると言っていたが」
勿論それがどこかは聞いていない。
多分後々俺に言えばばれるとわかっていたからだろうか。
ぞっとさせられる。あんな幼気な少年が。
いまだに信じられない。




