表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

17/28

17.元奴隷

「とはいえ、これから話すにしても時間が随分かかるかもしれません。明日にしてはどうでしょう?」


「まあそれもそうか。折角ほしい情報が手に入りそうだけどなぁ」


「喰いつき過ぎも危ないですよ? 人を動かすのはよいですが、動かされるものは危ないものです」



……それもそうだな。

 明日きちんと話すために今日は休もうか。


 こうしてデックスは立ち去った。



 扉が閉められて一人。

 俺はベッドで天井を眺めていた。


 夜中である……というか、少し明るくなってきている気がする。


 日中に気絶していたからか、眠気が襲ってくることはない。



 そして扉がノックされた。



「……起きてるっすか?」


 中性的な声に俺は答える。


「クリスか、どうした?」


 明るい廊下から現れたのは転移してから出会って、助けた少年。

 この元奴隷少年は何しに俺のところに来たんだ。


 俺はロリコン、ショタコンではないぞ。

 そんな冗談を心の中でしつつ、彼を部屋に招き入れる。


「俺、ここにいる理由もなくなったんでもう帰るっす」


 あっけらかんとした表情で、笑いながらそう言ってきた。


「……帰る?」


 どこに?

 俺はこの世界にきてまだ一日目だからわからないが、こいつにも故郷くらいあるだろう。


「折角奴隷から解放されたわけなんで、もうここにいる必要もないんすよ。地元に帰ってのびりすることにするっす」


 楽しそうに笑っているのを見ると、やはり奴隷から解放されるというのは非常に嬉しいらしい。奴隷制度のない俺からしてもそれくらいわかる。


 多分この少年もまだまだ楽しい未来が待っているだろうし、当たり前と言えば当たり前か。


「で、わざわざ俺のところにきたのは?」


「流石にお礼を言っておこうと思ったんすよ。俺ってば律儀なところあるなぁ」


 ぺこりと茶色の後頭部をしっかり見せるほど深く頭を下げた。

 今日一日でいろんな人に頭を下げられたけれど、クリスが一番深かった。


 俺の世界では小学生の年代だろう。小柄の彼を見ていると、自分がその年齢の時しっかり他人にお礼を言えただろうか?


「お礼の品も渡してなかったっすし」


「別に品なんていらないのに」


 ポケットから取り出された袋。

 それをベッドの方に投げて、すぐに背を向けた。


 俺の方を見ることなく、扉を開いた。



「まあまた会おうっす。今度はまたもっと面白いことが起こるといいっすね」



 面白いこと。

 それは俺たちが捕まったことだろうか、それとも俺が首輪を破壊して奴隷商を潰したことだろうか、クリスを助けたことだろうか。


 俺にはわからない。

 でも、この少年の無邪気な笑いに俺は少しだけ違和感を覚えた。



「クリス?」


「なんすか?」


 振り返った彼の顔を見て、疑念が深まるだけだった。

 でも、何が疑念なのかもわからない。


「……いや、なんでもない」


「そっすか、またっすね。是非気に入ってくれるとありがたいっす」



 不思議そうに首を傾げて、彼は部屋を出ていった。



「結局、何をくれたんだろうか」


 袋を持つと、ジャラジャラと鳴った。

 音からして金というわけでもなさそうだ。


 …………これは。



 クリスが渡してきたのは、三つの輪。


「奴隷の、輪?」


 あの時最後の一つだと思われていた輪。

 ……何故彼が余りを持っていたのか。


 なんで俺にこれを渡してきたのか。



「……わからん」


 わからんが、これで俺は三回までは魔法を使えるという事だ!

 素直に感謝しておこう。クリスがどこにいなくなったのかは知らないし、どこへ行くかも知らない。それでも多分また会えるだろう。


 またあのとんでもない魔法が使えるという喜びを感じつつ、俺は気が付いたら眠りについていた。

 そして数時間後、俺は叩き起こされることになるのだが。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ