16.男
「フィリスが万が一にも裏切ることは絶対にないんだよな?」
「ないです。フィリスはブレンダの友達なのです」
なるほど。
金銭関係でもなく信頼関係だからそう簡単に崩れることはないだろう。
というか友達なのか。
「特にこの子は対魔法能力が異常に高いので洗脳の心配もないですし、かなりありがたい護衛ですよ」
「でもまだ子供だぞ?」
「世の中年齢よりも魔力などの力によって扱いは変わるんですよ。私も昔は化け物とよく言われたものです」
苦笑しながらデックスは肩をすくめた。
「あとフィリスに何か聞きたいことはありますですか?」
いや、今はないかな。
あるといえばあるけれど、なんか他にも疑問があったから急いで聞く必要もない。
「あとはデックスに聞きたいから、席を外してもらえるか?」
えーっ、と頬を膨らませて文句を言うあたり年齢相応に感じた。
だが、流石に誰かに秘密を漏らすわけにいかないから、ご退場頂こう。
「というかなんでフィリスはついてきたんだ? 本当に興味だけなのか?」
「はいです。アラタと一緒にいた方が面白そうだと思ったからです」
夜は安全な場所にいるみたいだから俺のところに来たってことか。
それにしても、迷惑な少女だ。
「明日以降は別にいいから、とりあえず今日は帰ってくれ」
「はーいです」
開いていた窓からフィリスは消えた。
残されたのは二人。
「伝説のアイテムの話でしたっけ」
「そうそう、それだ」
彼は腕を組みながら一息ついた。
唸るように低い声で呻いていたが、何か考えているようだ。
「知らない方がいいと思いますよ?」
「俺も死活問題なんでな。じゃあ俺の状況を話すわ」
俺は馬鹿魔力すぎて世界を滅ぼしたこと。既に三回目であることを伝える。
フィリスにナイフで殺されたことは黙っておいた。
「俺のことを強いと思ってくれるのは正しいんだが、こういう状況なんだよ。下手な魔法撃ちこむと世界吹き飛ぶぞ」
「……そんなことが有り得るんですか? 時間を巻き戻すなど神に近い所業では」
まあやったの神だし。
「事実として有り得るぞ」
それ以上うまく説明できないから、それ以上言えることはない。
俺だってそんな技術があれば知りたいところだ。
俺は足を組みなおして頬杖をついた。
「だからこれは利害の一致なんだよ。俺はこのやばい力を制御したい。ブレンダ陣営は最強の護衛が欲しいと」
「そうとも限りませんが。そもそも伝説のアイテムを使ってブレンダ様に勝利をもたらせばいいのでは?」
それができるなら始めからやっているんだろ?
つまり、それができないからアイテムを使えないんだろ?
それを自ら認めているようなものではないか。
デックスは自覚があるようで、悔しそうに口を歪めている。
「あそこは人間が入れる場所ではないんですよ。王妃から詳しくは聞きましたか?」
「いや、そこまでは」
「ふぅ……王妃は何をさせたいんでしょうかね」
いや、それはわからん。
俺はエレナ王妃とはつい先程あったばかりだからわからない。
本当にブレンダのために俺を護衛にしたいだけなのか、もしかしたら内戦でも起こして俺を戦力にしたいのかもしれない。
「ではあなたへの質問を一つだけさせてください。それ次第で私から情報をなるべく出します」
真剣な眼差しで睨む。
年の功からか、俺が適当に嘘をついてもばれるような気がした。
「何故、貴方の秘密を私に打ち明けたんですか? せめて私よりもブレンダ様に言えばもっとうまく利用できると思いましたが」
……それは簡単な話だ。
「そりゃあデックス。あんたが男だからだ」
「はい?」
多分理解できないと思うけれど、言わないと納得してくれないだろう。
「可愛い女の子の前で弱みを見せるよりも、男同士の秘密の方がましだから」
デックスが俺の方に近づいてくる。
俺は腰かけていたのをやめて立ち上がる。
「わかりました。私のすべての情報を教えましょう」
がっちり握手を交わした。
男と男の心は繋がった。




