14.交換条件
「この子はフィリス。普段仕事をさぼっていることと昼寝癖を除けば私が持っている一番強い戦力なのよ」
俺が戻ってきたのはエレナ王妃と会うタイミングであり、比較的リスポーンタイミングは近いみたいだ。
……ゲームで言うとオートセーブみたいなものだろうけれど。
そして俺の嫌な予感というのは正しかったみたいだ。
自分の第六感ってあてになるんだな。
俺の関心をよそに、先程と同じようにフィリスが自己紹介しようとしている。
「宜しくお願いし」
「フィリス、ちょっとストップ」
狂気の殺人鬼の自己紹介を一応止める。
それによってぺこりとお辞儀されることもなく一時中断させることに成功した。
「投げナイフは禁止」
「……フィリス?」
俺の言葉に、エレナ王妃は眉をひそめた。
フィリスは驚愕の表情で俺を見つめている。その様子を見るだけでは年齢相応で今さっき俺を殺したようには見えない。
「なんで、なんでわかったですか?」
「まず約束しなさい。この方に危害を加えることを禁止します」
少し声色が低くなった。
フィリスは年齢相応の顔色真っ青でこくこくと素早く頷いた。
「……わかったです」
「まったくこの子は本当に……ごめんなさい。あなたでなければ危ないところでした」
……危ないところでしたというか一回死んでるんだけどね。
俺はそんなことをおくびにも出さないで、笑っておく。
「で、まだ王妃からのお願いというのは聞いていないのですが」
「そうだったわね。この子をブレンダの護衛としてつけてはいたんだけど、どうしても限界があるのよ。この子昼間寝てるし」
……フィリスに起きろというのは無理な話なのか。
こんな少女なのに夜起きているということかもしれないが。
「アラタにお願いしたいことはそこなのよ。可能であればブレンダを昼間護衛して欲しくて」
あー、なるほど。
デックスにも言われた通り、ブレンダの味方になってほしいという話からは繋がっている。今のところはそこまで他意を疑う要素は見つからない。
「デックスは無理なんですか? 彼も非常に優れていると思いますが」
なんか上から目線になっている気もするけれど、いい言葉が見つからなかったので素直に聞いてみる。
「彼は王宮魔導士として社会的な地位があるから、表立って動くのは難しいわね」
「でもデックスは自分でブレンダの親衛隊って言ってましたが」
エレナ王妃のため息。
「デックスも公私が混ざるところがあるのも問題ね。もしかしたらアラタを信頼したのかもしれないけれど」
それにしても名乗るタイミングが随分と早かったような気もするが。
「3か月後に式典があるのよね。もしも了承してくれるなら、そこであなたをブレンダの護衛として正式に発表したい」
え、待って。
3ヶ月以内に何とか魔法を使えるようにならないと俺も一緒に命を狙われることになるのか。
俺は了承するかどうか迷っていた。
そもそもまだ疑問はいくつか残っているのだが、それを聞けばどんどん逃げられない深みにはまるような気がする。
それに、エレナ王妃からそんな目線で見つめられると、すぐにでも頷きそうになる自分が恐ろしい。これは魔法か、魔法の力なのか!?
「本当に無茶なお願いだというのはわかっているの。でも、それくらい私たちは追い込まれています。引き受けてもらえないかしら」
もう一度深く国王の妃は頭を下げる。
慌てたようにフィリスもしっかりお辞儀する。今回はナイフが飛んでくることはなかった。
うーん、俺は即答できなかった。
多分俺が普通にチート系の強さがあれば恩を売る意味もあるし、好みの女性の笑顔の為に快諾していたんだろう。
「この世に何でも願いが叶うというアイテムがあるみたいですが、私はそれを探しているんですよね。何か知っています?」
出来れば助けてあげたい。
そのためにもまずはそのアイテムを探さないといけない。
もしも持っていれば、お互いウィンウィンナ関係なんだろうけれど。
正直期待なんてしていない。
当然だ。持っていれば、この王女争いにはすぐに終止符を打てそうだし。
「……その情報を教えれば承諾してもらえる?」
自分で提案した以上、俺は頷くしかない。
「ここからかなり北に行ったところに氷雪地帯があるの。そこに伝説のアイテムに関する書物があると」
そして、これは極秘情報であることを告げられる。
「その土地を治める貴族へアラタに協力するような手紙を書いておくわ」
こうして王妃との面会は終わった。




