10.味方
デックスは多少の雑談を交えつつも、ずっと俺らを観察しているようだった。
はっきり言って、怪しまれていると思う。
そもそもブレンダがどうして単独で森の中で狩りをしていたのかは知らない。
個人的な趣味なのか、王女ではあるもののそういう職業なのか、判断はつかないけれど。
左右の兵士が露骨に俺たちを観察しているように見えるが、恐らくそちらはブラフ。
でなければブレンダの親衛隊であるデックスが俺たちと一緒に乗り込むわけがない。
特に自分の護衛対象が奴隷にされかけたという事実を考えると、普通の発想であればまずありえない。
それよりも優先する必要があること。
「…………俺たち、そこまで疑われます?」
思ったことが口に出てしまった。
悲しいかな、その瞬間に三人の雰囲気が変わった。
「逆にどうして疑われないと思いますか?」
デックスが静かに口を開く。
俺に勘付かれていることからもう隠す気にもならないようだ。
俺には漫画とかみたいに殺気を汲み取る力はないけれど、警戒していることくらいは流石にわかる。
されたことはないけど、職質された気分だ。
「少し貴方とだけお話ししたいので、周り三人には静かになっていただきましょうか」
指を軽く振ると、他三人は急に気絶する様に崩れ落ちた。
……す、すげぇ。
魔法ってこうやって使うのか!
しかも魔法名を言ってないってことはこれ無詠唱……でもないし無名?なんだろう。こんな技術あるのか。
多分俺より強い。世界を滅ぼした俺よりは。
「いきなり第三王女からの救援魔法が来る時点でも異常事態ですし、貴方の馬鹿魔力はなんですかそれ。この世界を滅ぼしに来た魔王かと思いました」
「…………知ってたのか」
「あ、因みに私くらいですよ、わかるの。貴方の前で言うのも憚られますが、一応これでも私も魔法には自信があるんですよ」
うん、そう思うよ。
馬鹿魔力とわかった状態でも俺と一緒にこの場にいるということはそれなりの策があるんだろう。
「策なんてありませんよ。あなたの気まぐれで世界を滅ぼせそうですから」
俺がそう素直に聞いてみると、デックスはあっけらかんとした表情で言い放った。
……うん。
二回ほど気まぐれで世界滅ばしてるわ。
「で、可能であれば貴方の目的を聞きたいんですよ。第三王女を取り込んで何をしたいのでしょうか」
「……なんか何を言っても信じてもらえないと思うんだよな」
気が付いたら俺はため口で話していた。
これは申し訳ない気がしたが、デックスは気にしていないようだ。
「ではその信じてもらえなさそうな目的を聞かせて頂けませんか?」
いやいや、何を言おうか。
偶然居合わせましたなんて言ってもなぁ。
今のところデックスは俺と敵対する気はなさそうだが、余計な一言は時として取り返しのつかないことになるわけだ。
因みに俺の場合は適当に魔法を撃てば取り返しがつくが。
「森で散歩をしていたら、あんたのとこの王女様が捕まったところを見つけたんだ。で」
で、どうしよう。
ここまでは間違ったことを言ってない……よな?
「で、流石に美人さんを放置するのも気分が悪いから助けたんだが、率直すぎて信じてもらえないだろ?」
なんか誤魔化すのも面倒になったのは秘密だが。
そうでしょう、そうでしょうとでもいうように頷くデックスだが、急に何だこれ。
「それはそうでしょう! ブレンダ様は世界で一番お美しいのですから!」
……もしかしてロリコンかこの人。
「違いますよ! ブレンダ様は勿論我々の主ですが、娘のように育ててきたので、家族愛ですよ家族愛」
俺の引くような表情をみて、やや慌てたようにデックスが言い繕う。
まあ年齢的にはそれだけ離れているということで間違いはないのか。
しかし、そもそもフルフェイスの甲冑だから体格以外は何一つわからん。
これは推測だが、もしかしたら俺と戦う可能性があったから未だに甲冑を脱がないのか。
「裏でブレンダに確認してみるわ。不審な行動をしていたらロリコンだろうし」
「一応あの方は成人していますし、私にあらぬ疑いをかけるのはやめてください」
ここの世界では成人というのは16歳らしい。
そしてデックスは一息ついた。
「わかりました。貴方の目的はこれ以上追及しません。あなたと敵対する方がどうしようもですから」
……やっぱりその話は終わっていなかったのか。
目的なんてないから困るんだよ。ないものの証明というのは難しい。
「可能でしたら、是非ブレンダ様の味方になっていただきたいのですが」
「あー、まあ俺なんかが役に立てば」
魔法も使えない魔法最強をどうすればいいんだか。
でも頭を下げられると、断るのが難しいというのが日本人のいい面でもあるし悪い面でもあるな。




