1.はじまり①
目を覚ますと、そこは白い空間だった。
俺は今一状況もつかめずきょろきょろと辺りを見ますのだが、何もない空間であり床も天井も壁も何もわからない。
唯一床だとわかった証拠に、俺は椅子に座っていた。
その椅子は俺が今までの人生で見たことのないような素材で作られており、とりあえず高そうという印象はある。
「目が覚めましたか?」
お、遂に声が聞こえてきた。
俺はこの空間に来た時点である種、予想は出来ていたし期待もしていた。
あれだ、これは異世界転生の始まりなのだ。
ここで神からチートの能力を与えられて、俺は異世界で自由気ままに人生を謳歌するのだ!
奴隷少女を仲間に加えたり、魔王と恋人になったり、ざまあみろと言えるような展開を進んだり、そんな人生……時には他の動物や武器になって楽しめるはずだ。
「あなたは?」
しかし、俺はいつの間にか死んでいたんだか。
確か大学に行こうと思って駅の近くを歩いていただけのはずだが。
「私は神です」
目の前には白髪の美少女が虚空から現れる。腰まで伸ばしたロングヘアーに、赤い瞳。白いワンピースを身に纏っておりザ・美人って感じだ。多分道端でこんな子に話しかけられたらドキドキしちゃうレベル。
まあ自称神らしいので、とりあえず俺は聞いてみることにする。
「もしかしてチート能力くれます?」
「まだ何も言っていないのに話が早くて助かります。貴方には一つだけ何でも力を授けましょう」
きたー!
やっぱりこれは異世界転生だ!
俺ははやる気持ちを抑えて一度大きく深呼吸をする。
この選択肢は大事だ。
ここで何を選ぶかによって、人生が大きく変わるわけだ。
神と名乗る美少女は、これから行く場所が魔王や勇者のいる魔法のある世界であることを俺に伝える。
やばい、魔法の世界だ!
なんだろう。肉体面を強化したら戦士タイプになれるだろうし、魔力面を強化したら魔術師タイプだ。これから生活することを考えるとスタートで全てを得ても、それはそれでつまらないかもしれない。でも人生強くてニューゲームが面白いんだよなぁ。
ハーレムを築いてスローライフをするなら、魅力みたいな抽象的な物でももらえるのかな。
「じゃあ、魔法面で最強にしてください。肉体は自分で鍛えようと思います」
折角魔法でチート無双できるなら、肉体面なんてお飾りだろ!
俺は意気揚々と言うと、神は優しく微笑む。
それに全てがはじめからチートだとつまんないから、苦戦したら魔法で肉体強化でもすればいいんだろう。
「わかりました。それでは魔法面において全ての生命体よりも強大な力を差し上げます」
「そういや転移ですか? 転生ですか?」
今更ながら、俺は記憶を持ったまま赤ちゃんプレイをできるほど特殊性癖を持っていない。
そして神はどっちでもいいと言ったので転移を選ぶ。
この肉体と精神の年齢が一致した状態で異世界を楽しむことにするのだ。
かなりわくわくが止まらない。
「異世界で魔王退治でもすればいいんですか?」
「別にしなくていいですよ、自由に謳歌してください」
美少女はもう一度にっこりと微笑み、俺の視界は暗転した。