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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第3章 セレスティア聖王国

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68.呪い

 マルガリテスは、大きな湖を擁する風光明媚な保養地だった。

 かつてセレスティア聖王国の領地だった頃は、王族や貴族がこぞって別荘を建て、心と体を癒していたという。

 しかし、セレスティア国王メレディスがまだ幼い王子時代に、ジグヴァルド帝国からの襲撃を受け、奪われてしまったのだ。


 もともとは結界によって守られていたが、一部の魔道具が壊れてしまい、そこから結界にひずみが生じてしまった。

 そこをジグヴァルド帝国に突かれ、結局は結界を全て壊されてしまったのだ。


 当時、幼かったメレディスがマルガリテスに滞在していて、おそらくは王太子だった彼を狙っての襲撃だったと思われる。

 だが、メレディスは逃げ延びた。

 その際に魔道具の一部を持ち出したが、壊れて使い物にならず、宮廷魔術師たちに見せても修復することはできなかった。

 複雑な古代の術式で手に負えないという。


 もはや諦めていた頃に、アナスタシアに魔術の才があるとわかった。

 そこで、魔術学院への留学を勧めたのだ。

 通常の宮廷魔術師以上の力量を持つことができればあるいはと、期待してのことだった。


「……もっとも、ブラントくんのことは想定外だったが。アナスタシアと親密な仲だと聞いたときは、何らかの運命だろうかと思ったくらいだ」


 そう言って説明を締めくくると、メレディスは茶を口に運んだ。

 力ある魔術師を欲しているというアナスタシアの予想は、間違っていなかった。

 前回の人生で帝国第三皇子との婚約が決まったのは期待外れだったからで、今回は利用価値があるとみなされているのだろう。


「確か、セレスティア聖王国ではここ十年ほど、宮廷魔術師を受け入れていないと聞きます。俺にも、誘いはありませんでした。それは何故でしょうか?」


 ブラントが指摘すると、メレディスは苦い表情を浮かべた。

 確かに、力ある魔術師を欲しているのに宮廷魔術師を受け入れていないというのは、おかしな話だとアナスタシアも思っていた。

 通常の宮廷魔術師ではまだ力量不足だったにしても、ブラントに声をかけない理由がわからない。


「そうだな。まず、ブラントくんに関しては、ジグヴァルド帝国が宮廷魔術師として欲しがっているという話を聞いたからだ。正直なところ、あの国と奪い合いで勝てる気はしない」


 ため息と共に、メレディスは答える。

 そしてさらに表情は暗くなっていく。


「……一番の理由は、王妃であるデライラだ。デライラは魔術師を嫌っている。アナスタシアが魔術学院に留学するのも、激しく反対した。結局は私が押し切ったが、ならば準備は自分がすると言ってきた」


 アナスタシアも、王妃デライラが魔術師を好んではいないことを知っていた。

 しかし、アナスタシアに魔術の才があることを、そのような下らない才があったところでといった具合だったので、いつもの貶める言葉の一環だろうと、深く気にしてはいなかったのだ。


「デライラは昔ながらの伝統だといって、アナスタシアに必要最低限の金銭だけ持たせて送り出した。確かに、昔は身ひとつで入学したというが、今は困らない程度の金銭や身の回りの品を持たせるのが普通だ。だが、伝統を笠に着て押し通した。何故だと思う?」


「それは……私のことを嫌っているから……」


 突然メレディスから話を向けられ、アナスタシアは戸惑いながらも答える。


「嫌っている、か。そうだな。それは間違っていない。だが、嫌っているからなのか、必要だからだったのか、もはや区別もつかなくなっているのだろう」


 渋い表情で呟くメレディスの言葉が、アナスタシアにはよくわからなかった。

 だが、それがどういうことかと尋ねる前に、メレディスが口を開く。


「そなた、ジェイミーとは会ったか?」


「はい、少しだけ……」


「何か、変わったとは思わなかったか?」


 問いかけられ、アナスタシアはジェイミーと会ったときのことを思い出す。

 以前の輝くような美貌が衰えたというのが、印象に残っている。

 何がどう変わったかと言われるとうまく答えられないが、確かに何かが欠けていた。

 説明が難しくてアナスタシアは口ごもるが、声に出すまでもなく、アナスタシアの表情でメレディスは察したようだ。


「半年ほど前だろうか。そなたが学院に入学してから、少し経った頃だ。急激にジェイミーの容色が衰えた。成長過程で顔が変わることなど、よくあること。だが、そういったことでは説明がつかないようなものだった」


 メレディスはそう言うと、アナスタシアの顔をじっと眺める。


「そしてそなたは、これまで容色については良いことを言われていなかったはずだ。だが、今はどうだ。かつてのジェイミー……いや、それ以上の美しさかもしれぬ。そなたを見れば、誰もが振り返るだろう」


 何かの冗談だろうかと、アナスタシアはあっけにとられてしまう。

 確かに以前よりは外見がマシになったと思っているが、これほど称えられるとは、アナスタシアには信じがたい。

 だが、メレディスの表情は真剣で、ブラントを見ても至極当然といったように頷いている。


 どういうことか、アナスタシアにはよくわからない。

 以前との違いといえば、髪型を変えたことと、背筋を伸ばすようにしたことくらいだ。

 今はそれに加えてドレスや装飾品、化粧といった効果があるとはいえ、ここまで評価ががらりと変わってしまうものだろうか。


「そなた、半年ほど前に何かが起きなかったか? 例えば『呪いが解けた』と思うようなことが」


 アナスタシアの疑問に答えるように、メレディスの口から衝撃的な言葉が飛び出した。

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