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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第2章 学院祭

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57.三対一

 黒い翼の魔族三人は、フードを深く被っていて顔はわからない。

 ただ、立っている姿はまるで複製であるかのように似通っていた。

 その三人がアナスタシアを取り囲んで、それぞれ攻撃魔術を放ってくる。


「……っ」


 アナスタシアは障壁を張り、三方からの魔術を防ぐ。

 それぞれの威力はそこまで強くはない。だが、さすがに魔族三人を同時に相手するのはきついものがある。

 障壁を解く隙を与えてもらえず、アナスタシアは反撃の糸口をつかめないまま、じわじわと魔力を削られていく。


 せめて二人ならば、まだどうにかなる。

 アナスタシアはいっそ一度は攻撃を全て受ける覚悟で一人を仕留めようと、誰を最初に狙うべきかの選定に入る。

 攻撃魔術の程度を見る限り、三人の魔族は赤黒い翼の魔族ヨザルードほど強くはない。せいぜい、中位程度の魔族だろう。

 三人の間での力量差はよくわからない。それならば、一番近い相手を狙うべきだろう。


 アナスタシアは己に強化魔術と防御魔術をかけ、障壁を解こうとする。

 そのとき、魔族三人の背後から光の刃が襲い掛かってきた。

 ブラントがヨザルードの相手をしながら、隙を見て魔術を放ったのだ。

 魔族三人は光の刃に対処するため、攻撃の手を止める。


 その隙を逃さず、アナスタシアは最も近くにいた魔族に向かって駆け出した。

 心臓のあたりを目掛けて拳を突き出し、魔力抵抗力を下げる術式を乗せて、魔力を叩きつける。

 まともに攻撃を受けた魔族は、吹き飛んでいく。そして血を吐き、床に倒れた。

 アナスタシアはすかさず魔術で光の槍を作り出して、倒れた魔族の心臓に向けて放つ。

 魔族は床に串刺しにされる形となり、足から徐々に灰となって崩れ落ちていく。


「な……何だ、こいつは……殴りかかってくるとは聞いたが、まさかここまで……」


「本当に人間か、こいつ……」


 今まで黙っていた魔族たちが、思わずといったように口を開く。

 もしかしたら操り人形ではないかとすらアナスタシアは思っていたが、それぞれ意思があるようだ。


「だが、引き下がることはできない……ここで殺さねば……」


「そうだ……いずれ、魔王様の知るところとなる……」


 悲壮な声で呟くと、二人となった魔族は攻撃魔術を放ってくる。

 続けてもう一人仕留めようと思っていたアナスタシアだが、気になる言葉が聞こえてきて、いったん攻撃を中止して障壁を張った。


「……魔王が、何か関わっているの?」


「人間ごときが知る必要はない……!」


 答えなど期待できないと思いつつ尋ねてみたアナスタシアだが、やはりまともには答えてくれなかった。

 魔族からの返事は、攻撃魔術だ。

 もっとも、障壁に阻まれてアナスタシアには届かない。


 アナスタシアが障壁を維持したまま、ブラントの様子を窺ってみれば、彼はヨザルードと魔術の応酬を繰り広げていた。

 どうやらブラントは負傷しているようで、アナスタシアは背筋が冷たくなる。

 だが、少し血が流れているものの、軽傷のようだ。

 魔術を放つブラントの姿に不安定なところは窺えず、アナスタシアは少しほっとする。


 とはいえ、おそらくヨザルードは、中位程度の魔族を二人相手にするよりも厄介だろう。

 ブラントとヨザルードの戦いは、どちらかといえばヨザルードが押し気味にも見える。

 早く魔族二人を片付けて、アナスタシアも加わったほうがよいだろう。


 二人の魔族は攻撃魔術を放ってくるが、攻撃の継ぎ目に一瞬の間が空く。

 アナスタシアは一人の魔族の攻撃が一瞬止んだところで、そちら側の障壁を縮小して光の刃を放つ。

 そして魔族が対処のために攻撃の手を止めた隙に、アナスタシアは障壁を解く。そのまますかさず、もう一人の魔族が放ってくる魔術を、術式を被せて相殺しながら、駆け出した。


 魔術の発動を潰されてうろたえる魔族の心臓を狙い、アナスタシアは拳で殴りかかる。

 魔力抵抗力を下げる術式と共に魔力を叩きつければ、魔族は床に崩れ落ちた。

 アナスタシアは後ろから襲い掛かってくる魔力の刃をかわし、床に倒れる魔族に光の槍で止めを刺す。

 魔族が灰となって崩れていくのを確認すると、アナスタシアは残る一人に向き直る。


「これで残りは、あなただけです」


「まさか……そんな……だが、ダンジョンコアが砕けた以上、もはや逃げても同じこと……誰に殺されるかの違いでしかないのか……」


「ダンジョンコア?」


 取り乱して呟く魔族の言葉に、アナスタシアは眉をひそめる。

 もしかしたら、吸血の塔でヨザルードがダンジョンコアを砕いたことを言っているのだろうか。

 だが、そうだとしても、いったいそれがどういう意味合いになるのか、アナスタシアにはわからない。


「ダンジョンコアは魔王様が作り出し、支配しているもの……異変があれば知られてしまう……きっと、遡ってあのことまで……あああああ! 失敗し、そんなことになるのなら、ここで死んだほうがマシだ!」


 残る魔族は半狂乱になって、めちゃくちゃに魔術を放ってくる。

 アナスタシアは落ち着いて障壁を張り、しばし待つ。

 すぐに魔族は息切れして、攻撃を緩めた。

 その隙を狙い、アナスタシアは光の槍を魔族に向けて放つ。

 冷静さを失っていた魔族はよけることもできず、光の槍に貫かれた。


「……お望みどおりに」


 灰と化していく魔族を見つめながら、アナスタシアはぼそりと呟く。

 ここで死んだほうがマシという願いを叶えたのだ。

 何にそこまで駆り立てられていたのかはわからないが、魔王に関連することだろう。


 ダンジョンコアを魔王が作り出しているというのは、初耳だ。

 だが、魔物を作り出し、管理しているのが魔族なのだから、おかしな話ではない。

 それよりも、魔族が恐れていたことのほうが、アナスタシアは気になる。

 魔王に何かを知られてしまうことにより、魔王によって殺されてしまうかのような言いようだった。

 ダンジョンコアが砕けたことが要因らしいが、それがどう繋がるのか、アナスタシアには見当もつかない。


「ううん、今はそれよりも……」


 アナスタシアはいったん、思考を振り払う。

 それよりも、ブラントとヨザルードの戦いに加勢するべきだ。

 二人は今どうなっているのかと視線を向けたところで、闇が爆発した。

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