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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第2章 学院祭

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51.優勝経験者の貫禄

 アナスタシアが急いで舞台袖に向かうと、ちょうど一対戦目が始まるところだった。

 間に合ったことに安堵しながら、アナスタシアは戦いを見守る。


 ブラントの対戦相手は、三年生の男子生徒ネクスだ。

 開始の合図と共に、ネクスは術式を構成し始める。

 それをブラントは立ったまま見つめるだけで、動こうとはしない。


 さすが学院主催の対抗戦に出てくるだけあって、ネクスの力量もかなりのものだと、アナスタシアは術式を見ながら考える。

 綺麗に編み上げられた魔術は、吹き荒れる炎の渦となってブラントに襲いかかっていく。


「おおー!」


 観客席から歓声があがる。

 ネクスが使ったのは、炎の上級魔術だ。

 このレベルの魔術を扱うことができれば、宮廷魔術師として誘いが来る。間違いなく、学院のトップクラスだ。


 しかし、ブラントは障壁を張るでもなく、ただ立ったままだ。

 炎の渦はブラントを飲み込み、激しく燃え盛る。


「お……おい、まさか……」


 観客席だけではなく、舞台袖からもひそひそとしたざわめきが起こる。

 障壁なしで、炎の上級魔術に耐えられるはずがない。

 過去の優勝経験者であり、今回も優勝候補筆頭であるブラントが、まさかこれほどあっさり負けてしまうのかという、番狂わせの予感に人々は戸惑う。


「あ……あれは……」


 だが、地面から渦巻いていた炎が、天に向かって上がっていく。

 大半の炎が地面から遠ざかると、そこに人の姿が現れる。

 未だ炎に包まれながらも、ブラントは燃えることなく無傷で立っていた。首から提げられた青い玉も、罅ひとつなく輝いている。


「障壁じゃない……支配権を奪って、取り込んだの……?」


 アナスタシアも、信じられない思いでブラントを見つめる。

 持続効果のある魔術の支配権を奪うことは可能だ。だが、今の炎の魔術は放たれた瞬間に己の手を放れるものだった。

 今のような魔術も取り込むことが可能なのか、そして可能だとすればどの段階で取り込んだのか、アナスタシアにもわからない。


 ブラントは片手を天に向けて掲げる。

 すると、渦巻いていた炎がそこに集約されていき、まるで一対の大きな翼を広げた、燃え盛る鳥のような姿になっていく。

 それを観客たちも、対戦相手のネクスさえも、唖然として眺めていた。


「魔王……」


 思わず、アナスタシアの口からその言葉が漏れる。

 前回の人生で、魔王が同じ魔術を使うのを見た。

 炎に包まれながら輝く銀髪も、獲物を見据える紫色の瞳も、まるで作り物のように整った顔も、全てがその時のことを思い起こさせる。


 だが、背筋がぞくぞくとするのは恐怖のためだけではない。

 神々しさすら感じられる姿は、まるでこの世のものではないようですらあり、先ほど一緒に話していたことが、幻とも感じられる。

 まるでめまいのような感覚を覚えながら、アナスタシアはぎゅっと拳を握りしめて、ブラントから目を離すことができない。


 やがて、ブラントの上で完成した炎の鳥が、ネクスの方向に首を向けた。


「障壁を張ることをおすすめするよ」


 粛然とした会場に、ブラントの声が響く。

 その声ではっとしたネクスが、慌てて障壁を張る。

 まるでお手本のように綺麗な障壁だった。通常の魔術戦ではまず破れないほどの強度があるだろう。


 ブラントはネクスが障壁を張ったことを確認すると、掲げていた手をゆっくりと振り下ろす。

 すると、炎の鳥が優美に飛び立った。

 まっすぐネクスへと向かった炎の鳥は、障壁と衝突する。だが、動きを止めようとはしない。

 徐々に障壁に罅が入っていき、やがて甲高い音を響かせて障壁が壊れた。

 途端に、爆発音が響いて、炎の柱が吹き上がる。


 そして炎の柱は再び鳥の姿となり、天に昇っていきながら、徐々に姿を淡く薄れさせて、やがて消えた。

 後には、地面に倒れたネクスが残される。

 首から提げた青い玉は、粉々に砕け散っていた。


「しょ……勝者、ブラント!」


 上擦った審判の声が響くと、それまで静まり返っていた会場が大歓声に包まれた。

 ブラントは優雅に一礼すると、舞台袖に戻ってくる。


「ただいま」


 未だ鳴り止まない大歓声を背に、ブラントがアナスタシアの元にやってきた。

 息も切らさず、平然とした様子ではあったが、目が何かを期待するようにアナスタシアに向けられている。


「ブラント先輩、お疲れさまです……凄かったです……魔術そのものもですけれど、観客への魅せ方も……」


 率直に、アナスタシアは感想を述べた。

 単純に勝つだけではなく、見ている者を楽しませようという演出は、アナスタシアには考えが及ばなかった部分だ。

 ここは命のやり取りをする場ではなく、己の力を見せる場であり、また娯楽でもあるのだと、気づかされた。

 さすが二回も優勝しているだけのことはあると、アナスタシアは感じ入る。

 堂々としたブラントの態度は、さすが優勝経験者の貫禄だ。


「その……かっこよかったです」


 立ち回り方、演出、魔術の凄さなどいろいろと思うところはあったが、一言で言えばその言葉に集約された。

 気恥ずかしさから小さくなってしまった声だったが、アナスタシアがそう言うのを聞いた瞬間、ブラントの顔が明るく輝く。


「ありがとう」


 嬉しくてたまらないといったように、ブラントは笑う。

 その姿を見て、舞台袖にいた他の出場者たちが唖然としていた。


「あいつ、あんな風に笑うんだ……」


「あんな人間らしい笑顔、初めて見た……」


 ひそひそと囁かれる声にも構うことなく、ブラントは上機嫌で控え室に向かっていく。

 アナスタシアも一緒に歩いて行きながら、たった一言でこれほど浮かれてしまったブラントに驚いていた。

 かっこよいといった褒め言葉など言われ慣れているだろうにと、アナスタシアはブラントの端正な横顔を見ながら、こっそり苦笑を漏らした。

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