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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第2章 学院祭

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49.出場登録

「え? アナスタシアさんも対抗戦に出るの? それ……凄くそそられるんだけど」


 ブラントの瞳の奥に、まるで獲物を追い詰めるかのような獰猛な光が宿る。

 口調もどことなく熱っぽく、甘い響きを帯びていた。

 アナスタシアは思わずぞくりとしながら、熱を煽られているようでもあり、あたふたとしてしまう。


「ええ……対抗戦なんて出たら、こんなのと当たるんだぞ。正気か……?」


 やや引き気味に、ホイルがブラントを指しながら顔をしかめる。


「ああ……でも、アナスタシアさんが戦っているところを見たら、あの皇子が失望どころか惚れてしまうんじゃないかって不安だな……魔族を拳で叩きのめしていたときのことを思い出すだけで、俺は胸の高鳴りを抑えられなくなってしまう……」


「いったい何があったんだよ……」


 うっとりと呟くブラントを恐怖の眼差しで見ながら、ホイルが呻く。


「……多分、あれが恋愛感情に結びつくって、かなり珍しいと思いますよ……」


 ついアナスタシアも苦笑してしまう。

 客観的に見て、少女が魔族を拳で叩きのめし始めたら、仲間としては頼もしいだろうが、恋愛対象としては除外されるのではないだろうか。


「確かに、ステイシィが獰猛な獣のように血まみれになりながら戦っていたとしたら、あの皇子は失望して婚約も諦めるかもしれませんわね。でも、もしブラント先輩と緒戦で当たったら……」


「ああ、多分、緒戦では当たらないと思うよ。トーナメント戦なんだけれど、組み合わせは盛り上がるように配置されるからね。アナスタシアさんと俺は、当たるとしたら決勝だと思う」


 レジーナの懸念を、ブラントが否定する。

 どうやら組み合わせはくじ引きのようなものではなく、作為的になるらしい。それの是非はともかく、緒戦でブラントと当たらないのはありがたいと、アナスタシアはほっとする。


「でも……アナスタシアの魔物退治の力量は知ってるけど、対人戦はまた別物だろ。大丈夫なのか……?」


 ホイルが不安そうに口を開く。

 だが、アナスタシアが答えるよりも早く、ブラントが首を横に振った。


「ホイルくんはむしろ俺の心配をするべきだと思うよ。正直なところ、ルール無しで命のやり取りをしたとしたら、俺はアナスタシアさんに勝つ自信はない」


「えっ……? あ……ああ、もしかして惚れた弱みってやつ?」


「いや、単純に戦闘能力で。惚れてはいるけれど、それとは別物」


「マジかよ……そんなにすげえのかよ……」


 愕然とした顔で、ホイルはアナスタシアを見つめる。

 アナスタシアも、現時点でなりふり構わぬ戦いをしたとすれば、最後に立っているのは実戦経験の差で自分だろうと思う。

 だが、致命的なダメージを与えないなどの制限をつけた場合は、その限りではない。

 対抗戦でブラントと戦ったとき、どちらが勝つかはアナスタシアにもわからなかった。


「ただ……念のため、魔力は半分程度は残しておいたほうがいいと思います。もし、魔力が半分以下になるようでしたら、私は降参することにします」


「ああ……そういえば、そうだったね。全力で戦ってみたいところではあるけれど……俺もそうするか」


 アナスタシアが提案すると、ブラントもその意図に気づいたようだ。

 以前、もし魔族が現れるとしたら、学院祭の可能性があるという話をした。

 本当は対抗戦に出る予定はなかったのだが、こうなってしまっては仕方が無い。せめて、ある程度は力を残しておくことにする。

 宮廷魔術師や上級ハンターも訪れているようなので、そう簡単に事を起こさないだろうとは思うが、念のためだ。


「じゃあ、出場登録しに行ってこようか。期限は明日までだけれど、早めに済ませてしまおう」


 アナスタシアとブラントは、学院主催の対抗戦に出場登録を済ませに行く。

 一年生のアナスタシアは障壁を張れるのかと問われたが、頷くとそれ以上は何もなく、受付はあっさりと終わった。

 どうやら一年生の出場者は滅多にいないらしく、ブラント以来のようだ。

 ブラントは何も尋ねられることなく受付が終わり、後は明後日を待つだけとなった。


 それまでは特に予定もないので、レジーナとホイルが気になる対抗戦を見に行くことにする。

 移動しようとすると、受付を窺っている姿があることにアナスタシアは気づく。

 でっぷりと太った、どこかで見たことがあるような姿だった。

 まさか、モルヒだろうかとアナスタシアは思ったが、よく見てみればもっと老けていて、頭髪も薄くなっている。

 もしかしてモルヒの父である、ディッカー伯爵だろうか。


「ステイシィは個人主催の対抗戦で、出たいものはありませんの?」


 しかし、レジーナから問いかけられたため、アナスタシアはそちらから視線をはずす。

 少し引っかかったものの、単にいち早く出場者を確認したいだけの、対抗戦好きかもしれない。


「うーん……私は、特にないかな」


 気にしないことにして、アナスタシアはレジーナに答える。

 そのまま歩いていくうちに、すっかり今の出来事は忘却の彼方となった。


 その後はホイルが一年生限定の対抗戦に出て優勝したり、投擲でレジーナが意外な才能を発揮して賞品を獲得したりと、楽しく時間は過ぎていく。

 ブラントとホイルが一緒に対抗戦に出たことによって、生温かい視線を向ける女子生徒が増えた以外には特に変わったこともなく、平穏に二日目も終わった。


 そして、とうとう学院祭三日目、学院主催の対抗戦を迎えた。

「緒戦」は序盤戦という意味で使用しています。

「緒戦」のほうが「初戦」よりも古い言葉だそうです。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ああ、多分、緒戦では当たらないと思うよ。トーナメント戦なんだけれど 初戦では?
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