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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第2章 学院祭

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37.ダンジョンデート

「アナスタシアさん、学院ダンジョンに行けるようになったんだって?」


 アナスタシアが学院ダンジョンから帰ってきた後、図書室の隠し部屋でブラントが尋ねてきた。


「はい、レナとホイルと一緒に行って、【白火】を授かってきました」


「あ、もう行ってきたんだ。じゃあ、『奥』には行ってきた?」


「『奥』……?」


 思い当たることがなく、アナスタシアは首を傾げる。

 アナスタシアの知る限りでは、【白火】を授かれる部屋で最後だったはずだ。


「やっぱり、そこまではまだ教えてもらっていないか。試練の部屋の先も、まだダンジョンが続いているんだよ。隠し扉があるんだ。一部の生徒しか知らないけれどね」


「あの先があったんですか……」


 驚きながら、アナスタシアは納得もしていた。

 あのダンジョンは難易度が低すぎる。本当の初心者向けであって、少し慣れた者には物足りないはずだ。

 もし育成を目的としているのなら、先があっても不思議ではない。

 アナスタシアが知らなかったのは、前回の人生では一部の生徒に入っていなかったからだろう。


「たまに、知らないはずの一般の生徒でも、偶然見つけて先に行ってしまうことがあるんだ。大体は魔力切れになって立ち往生することになるから、ダンジョンに入って長時間戻らない場合は、俺とか上位成績者に救援要請がくることになっている」


 ブラントの説明を聞いて、アナスタシアは以前ブラントが、学院ダンジョンに潜らなければいけなくなった、と言っていたときのことを思い出していた。

 あのときも、おそらく救援要請がきていたのだろう。


「鍛えるのには良い場所だよ。ただ、採れる魔石がクズ魔石ばかりだし、素材にもならないような魔物だらけで、あまり旨みはないね。稼ぐのなら、初級ダンジョンのほうがよっぽとマシだ。ただ、普通の日でもふらっと行けるという利点があるね。奥には転移石があるから、そこまでいけば入り口まで一瞬で戻ってこられるんだ」


「近場の初級ダンジョンでも、休みの日じゃないと難しいですものね。学院ダンジョンならすぐに行けるので、授業が終わった後でも大丈夫ですね。転移石まであるなんて、至れり尽くせりですね」


 転移石は、現代の技術では作り出すことのできない古代の遺産だ。

 設定された場所まで一瞬で転移することができる。

 そこまで用意されているなど、徹底しているとアナスタシアは感心する。


「そうなんだ。だから、一緒に学院ダンジョンに行ってみようよ。奥に行くと結構強くなっていくから、鍛えるのにちょうど良いよ」


「それ、私が行っても大丈夫なんですか?」


「うん、大丈夫。どうせアナスタシアさんなら、そのうち教えてもらえるだろうし。ちょっと早くなるだけだよ」


 ブラントが自信をもって保証するので、二人は翌日、学院ダンジョンに行くことにした。

 授業終了後、学院ダンジョンの前で待ち合わせだ。


「……お待たせしました」


 アナスタシアが待ち合わせ場所に到着すると、すでにブラントが待っていた。

 遠巻きに数名の生徒たちが様子を窺っている。女子生徒だけではなく、男子生徒もいた。

 アナスタシアがブラントに声をかけると、生徒たちの視線が突き刺さるようだった。


「いや、俺も今来たところ。三年の教室のほうが近いからね」


 微笑みながら答えると、ブラントは受付に向かう。

 アナスタシアも一緒に歩いていくと、生徒たちがざわざわとざわめいた。


「『奥』に行ってきます」


「ブラントくんはもちろん構わないけれど、そちらの子は一年生よね……?」


 ブラントが受付の女性に声をかけると、彼女は訝しそうにアナスタシアを眺めてきた。

 アナスタシアが昨日、学院ダンジョンに入ったときの受付とは違う人物だ。


「一年首席のアナスタシアさんです。学院ダンジョンに入る許可は出ているので、問題はありませんよね」


「でも、『奥』はまだよね? 普通に入る分には良いけれど……」


「何かあったら俺が責任持ちますから。俺も一緒に行くので大丈夫です」


「まあ、ブラントくんが一緒なら……」


 ブラントが押し切ると、受付の女性は気が進まない様子ではあったが、通してくれた。

 生徒たちの視線を後ろから感じつつ、アナスタシアとブラントは学院ダンジョンに入っていく。


「……本当に良かったんでしょうか」


 かなりごり押しで通ってしまったような気がする。アナスタシアは少し不安を覚えて、ぼそりと呟く。


「いいよ、アナスタシアさんなら一人でも最後まで行けるくらいなんだし。それに、いつも救援要請受けているんだから、こういう時くらいこっちの言い分を通させてもらわないと」


 まったく気にしていない様子で、ブラントが答える。

 だが、少し歩いたところで、ふと何か思い当たったように足を止めた。


「ああ……でも、考えてみれば学院ダンジョンというのは良くなかったかな」


「……どういうことですか?」


 気まずそうに眉をひそめるブラントだが、アナスタシアには理由がよくわからず、首を傾げる。


「ほら、付き合い始めてから最初に行く場所だろう。もっと、綺麗な景色を見に行くとか、美味しい物を食べに行くほうが良かったんじゃないかなって。ダンジョンなんていう俺の趣味に付き合わせちゃって悪かったね」


「いえ、私もダンジョンで魔物を倒すのは好きなので、大丈夫です」


 申し訳なさそうにするブラントに、アナスタシアは本心から答える。

 綺麗な景色を見に行ったり、美味しい物を食べに行ったりするのも楽しいが、他人とろくに会うことのないダンジョンは落ち着いていられた。

 ブラントは目立つので、一緒に歩いていると他人の注目を浴びてしまい、気疲れしてしまうことがある。


 ブラントの隣に並べるほど、女としての魅力があるなどとアナスタシアは自惚れていない。むしろ、後ろ指をさされたり、陰口を叩かれるのが当然だろう。

 だが、魔術師としてなら堂々と隣に立っていられる。

 アナスタシアにとってはダンジョンこそが充実感を得られ、最もふさわしい場所なのかもしれない。


「それに……ブラント先輩と一緒でしたら、どこででも嬉しいです」


 アナスタシアは、ブラントの手をそっと握りながら小声で囁く。

 ブラントと一緒にいられるならば、ダンジョンだろうが、他の女たちから睨み殺されそうになる場所だろうが、どこだって構わない。

 たとえ他の女から身の程知らずと罵られても、この手を放すことなどできない。

 立ち塞がるものがあれば、魔術師としての力を使ってでもねじ伏せるだけだ。


「……っ」


 ブラントは言葉を詰まらせ、照れたように視線を上に泳がせる。

 そして答えるように、手を強く握り返してきた。

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[気になる点] 「鍛えるのには良い場所だよ。ただ、採れる魔石がクズ魔石ばかりだし、素材にもならないような魔物だらけで、あまり旨みはないね。稼ぐのなら、初級ダンジョンのほうがよっぽとマシだ。ただ、普通の…
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