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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第1章 新たな始まり

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28.魔王の因子

 障壁を張ろうとする魔族の術式を、アナスタシアはそれ以上の速度で術式を被せて潰す。

 続いて、魔族の体に拳を触れさせて直接魔力を叩き付ける。その際、魔力抵抗力の高い魔族ではダメージが通りにくいので、抵抗力を下げる術式も一緒に追加しておく。

 そして、反撃しようとしてくる魔族の、術式には術式を被せて潰し、体を動かそうとすれば動きを封じるための魔術を先に使う。


 極めて高度な魔術戦なのだが、端から見ればアナスタシアが魔族を拳でタコ殴りにしているようにしか映らない。

 倒れ込んでいるブラントですら、あまりの驚きで意識が引き留められているのか、全身の苦痛も忘れたように、あっけにとられた顔で戦いを見つめていた。


「ちょっ……ぐっ……ま、待てっ……ぐがっ……!」


 魔族も混乱しているようで、反撃しようとはするものの、動きが乱れている。

 この隙を逃さず、アナスタシアは少しでも多く魔族にダメージを与えようと、術式と拳を振るう。


 これは、対魔族用に考えていた戦い方だった。

 魔族は体内に魔石を持たないので、【白火】や【魔滅】といった魔術は通用しない。

 前回の人生では、アナスタシアは禁呪を使用して高位の魔族や魔王を倒したが、それは体に多大な負担をかけ、治癒不可能なダメージを残した。

 今回は、そのような道は絶対に避けたい。


 アナスタシアの武器は、素早く正確な術式構成だ。

 それならば、相手の術式を封じ込め、直接魔力を叩き付けてダメージを与えて、相手が攻撃しようとしてくれば封じるか、障壁を展開すればよい。

 実際にこの方法で戦うのは初めてだったが、相手が混乱していることもあり、十分な効果を上げていた。


「……なっ……何なんだ……何なんだ、貴様はぁぁぁ……!」


 とうとう膝をついた魔族は、それでも恨みがましい目でアナスタシアを睨みつけ、かすれた声で叫ぶ。

 全身の至るところから血を流し、もう立つこともできないようだ。直接魔力を叩き付けたので、表面だけではなく、体の内部にも深い傷となって届いているだろう。

 ボロボロの体で、目だけが血走って憎悪に燃えている。

 もう戦う力はほとんど残されていないはずだが、戦意だけは失っていない。


 一方で、アナスタシアの疲労もかなり蓄積されていた。

 一瞬たりとも気を抜けない術式の応酬は魔力と精神力を削り、拳を直接叩き付ける動きは体力を削っていく。

 直接的なダメージは受けていないが、アナスタシアにも余力はあまり残っていない。


 この魔族は、ブラントの両親の仇だ。

 本来ならば、最期の始末はブラントに任せるべきだろう。

 だが、そうできるほどの余裕はないようだ。今、ここで始末しておかねば、いずれ災いをもたらすだろうと、アナスタシアは感じ取る。

 止めを刺すべく、アナスタシアは術式を編み上げていく。


「まさか……貴様も、魔王の因子を持っているとでもいうのか……まさか、人間がそんなはず……いや……セレスティア……」


 だが、魔族が呟く言葉を聞き、アナスタシアは一瞬、動きを止めてしまった。

 魔王、そしてセレスティアと、気になる単語が出てきて、引っかかってしまったのだ。

 そのわずかな隙に、魔族はダンジョンコアの台座へと駆け出す。そして赤く光る球体に手を伸ばした。

 甲高い音が響き渡り、ダンジョンコアが砕ける。


「くっ……こんな奥の手は使いたくなかったが……覚えていろ……次は、必ず殺す……!」


 ダンジョンコアに蓄えられた力が魔族を包み、傷と魔力を癒やしていく。

 そして魔族は、アナスタシアを睨みつけると姿を消した。どうやら【転移】を使ったらしい。

 完全に魔族の気配が無くなり、逃げられてしまったのだと、アナスタシアはその場に崩れ落ちるように座り込む。

 口惜しい反面、どうにかしのげたと安堵もしていた。


 深呼吸すると、アナスタシアは倒れ込んでいるブラントに近づき、魔力を分け与える。

 アナスタシアの魔力も残り少なく、応急処置程度にしかならないが、それでも朦朧としていたブラントの意識がはっきりしてきたようだ。


「あ……あの魔族は……くっ……」


 苦痛に顔を歪めながら、ブラントは立ち上がろうとする。

 それを押しとどめ、座らせながらアナスタシアは首を横に振った。


「……逃げられてしまいました。ごめんなさい」


「いや……違う、俺が悪い……俺がもっと冷静だったら……全部、俺のせいだ……」


 苦渋の滲む顔で、ブラントは肩を震わせる。

 眉間には皺が寄り、苦悩が一気に彼の年齢を老けさせたようでもあった。


 その顔を見て、アナスタシアははっとする。

 図書室の隠し部屋でブラントと初めて会ったとき、どこかで見たことがあるような気がしたのだ。

 そのときは、前回の人生でも学院に通っている姿は見ていたので、そのときのものだろうと深く考えることはなかった。


 だが、ブラントの顔をどこで見たのか、思い出した。

 銀色の髪に紫色の瞳、眉間に深く皺が刻まれた、彫像のように整った顔。ブラントが年齢を重ね、そして苦悩が足されたような姿を、アナスタシアは前回の人生で旅の終わりに見た。

 何故、今まで思い出さなかったのだろうかと、不思議で仕方が無い。


 魔族たちの頂点に立つ存在、魔王。

 ブラントの顔は、その魔王と酷似していたのだ。

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