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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第1章 新たな始まり

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26.赤黒い翼の魔族

「……まだ上があったのか。ここより上なんて聞いたことがないのに……」


 呆然としながら呟くブラントだが、アナスタシアはある程度予想していたことだった。

 強い魔物を倒した後は、魔族が出てくるというのが、前回の人生でのパターンだ。

 おそらく階段の先では、魔族がダンジョンコアを守っているだろう。


 だが、今は魔物の大発生も起きていない、平和な状況だ。

 わざわざ魔族と戦ってダンジョンコアを破壊する必要があるだろうか。

 それとも、いずれ遠くない未来に魔王を倒すつもりなのだから、邪魔になりそうな魔族も倒しておくべきだろうか。

 アナスタシアは階段を眺めながら、迷う。


「……あの階段の先には、おそらく今の竜よりも強い敵がいると思います。あと、きっとダンジョンコアも……」


「ダンジョンコアを破壊すると、ダンジョンはなくなってしまうけれど、蓄えられた知識を得ることができるという話だったね。この塔のダンジョンコアに蓄えられた知識って、どういうものになるんだろう……」


 考え込むブラント。

 知識を得たいのだろうかとアナスタシアは思ったが、ブラントの表情は期待といったものではなく、恐れや嫌悪感のようなものだった。

 生かさず殺さず血を奪っていくこのダンジョンは、明らかに悪意が存在する。それに思いを馳せているのかもしれない。


「蓄えられているのは、魔族の知識ですから。なので、悪意が……」


「魔族?」


 凍てついた声で呟くブラントに、アナスタシアはしまったと口をつぐむ。

 ブラントは魔族に対し、並々ならぬ憎しみを抱いている。両親の仇なのだから当然ではあるが、今も明らかに雰囲気が変わった。


「……あの階段の先には、魔族がいるということかな」


「その可能性は高いと思います……」


 階段をまっすぐに見据えるブラントに対し、アナスタシアは正直に答える。

 ブラントが怒りに飲み込まれてしまわないか心配ではあったが、今さらごまかしても、もう遅いだろう。


「……俺の率直な気持ちを言えば、今すぐに階段を上って魔族を倒したい。多分、俺一人だったら間違いなくそうしていたと思う。でも……今は、もう少しだけ冷静になれる。勝てるのか……そして、無事に帰れるのか……アナスタシアさんを俺の復讐に付き合わせてしまうわけには……」


 苦渋の色を浮かべながら、ブラントは思い悩む。

 今すぐに駆け出していっても不思議ではないとアナスタシアは思っていたが、そうはせずに考え込むブラントを見て、驚く。

 アナスタシアがいることで、一歩立ち止まったのだろう。


「魔族は、私にとっても敵です。行きましょう」


 怒りに飲み込まれていないのなら大丈夫だと、アナスタシアはブラントの背を押す。


「……本当に大丈夫かい? いざとなったら、俺がどうにか時間を稼ぐから、アナスタシアさんだけでも【転移】で逃げてほしい」


「もしそうなったら、ブラント先輩も一緒に運びますよ。一人くらいは一緒に【転移】できるはずですから。逃げ足の早さでしたら、任せてください」


 悲壮な決意を固めるブラントに、アナスタシアは軽く答える。

 それで少し肩の力が抜けたのか、ブラントがわずかに笑みを浮かべた。


「……ありがとう。じゃあ、行こうか」


 二人は、階段を上る。

 その先にあったのは、十二階の大広間から比べれば、はるかに狭い部屋だった。それでもダンスの練習くらいは問題なくできそうな広さがある。

 四方の壁に円形の窓があり、中央の台座に向かって日差しが差し込んでいる。そこには、うっすら赤く光る球体が浮かんでいた。

 だが、それ以外の姿は見当たらない。


「……まさか、無傷でここまでやって来るとは思いませんでしたよ」


 もしや誰もいないのかと思ったそのとき、部屋に声だけが響いた。

 面白がるような、それでいてどこか冷たさの漂う声だ。


「どこだ……!」


 身構えながら、ブラントが叫ぶ。


「おやおや、せっかちな方ですねえ。せっかく、そちらの姫君をお連れなのですから、もう少し余裕を見せたほうがよろしいと助言いたしますよ」


 小馬鹿にしたような声が響く。

 ブラントは腹立たしそうに顔を歪めたが、言い返すことはしなかった。


「さてさて……それとも、行動力があるというのなら、あなたの母君もそうでしたからねえ……母君譲りなのでしょうか……そうですねえ……お顔はよく似ておいでですねえ。あのときは、まだあなたも幼かったですが、今は生き写しですよ」


 さらに声が続くと、ブラントの表情が抜け落ちた。

 アナスタシアも、まさかという思いで心臓が激しく動悸する。


 魔族という、ブラントの両親の仇と対峙することは、当然ながら二人とも覚悟していた。

 だが、それは『魔族』という種のことを想定していたに過ぎず、本当の意味での覚悟ではなかったのだと、思い知らされる。


 この声の主はおそらく、単に魔族という種なだけではない。

 ブラントの両親の命を奪った、張本人だろう。


 アナスタシアもブラントも何も言えずに立ち尽くしていると、ダンジョンコアの台座の前に落ちている影から、何かが起き上がった。

 それは人の姿になり、赤黒い髪を持つ長身の青年が現れる。青年は整った顔に酷薄な笑みを浮かべ、見下すような視線を向けてきた。


「大きくなりましたねえ、王子さま。やっとお会いできたこと、嬉しく思いますよ」


 バサリという音と共に、青年の影が広がる。

 魔族の象徴でもある大きな赤黒い翼が、青年の背中から生えていた。

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