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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第1章 新たな始まり

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25.竜との戦い

 アナスタシアは反射的に、障壁を展開する。

 その直後、竜は大きく開けた口から、暴風のような息を吐き出してきた。まるで刃物が荒れ狂うような衝撃が襲い、周囲の柱や壁が傷ついていく。

 アナスタシアとブラントは障壁に覆われ無事だったが、もし何もなければ全身をズタズタに切り裂かれていただろう。

 だが、周囲の柱や壁を見る限り、傷はさほど深くはない。鋭いが、一撃で死に至らしめるほどの威力はなさそうだと、アナスタシアは冷静に分析する。


「……ありがとう。俺一人だったら、多分やられていた。竜なんて、どうすればダメージが通るんだろう……」


「竜も【白火】でダメージ通りますよ。素材を綺麗に採りたいときは向いていませんけれど」


 前回の人生で、アナスタシアは竜とも戦ったことがある。竜も魔石を持つ存在のため、【白火】が有効なのだ。

 ただ、竜の牙や鱗、肉から血に至るまで、全身が貴重な素材になる。【白火】でダメージを与え続けると、焼け焦げるので素材は傷んでしまう。

 素材をなるべく綺麗に採りたければ、禁呪クラスの強力な魔術で素早く仕留めるか、圧倒的な力量で物理攻撃を仕掛けるかだろう。


「あ、【白火】で通るんだ……竜の素材は魅力的だけれど、命をかけてこだわるものじゃないかな。ただ、障壁の中から魔術って届かないよね」


 ブラントがそう言っている間に、ブレスを吐き終わった竜は長い尻尾で攻撃してきたが、障壁に阻まれる。

 もし当たれば、間違いなく吹っ飛んで全身の骨が砕けそうな威力だ。

 こうして敵の攻撃を防いでくれる障壁だが、欠点もある。こちら側の攻撃も届かないのだ。

 攻撃したければ、障壁を解く必要がある。


 だが、竜は障壁を壊そうとするように、連続で爪による攻撃を繰り返している。

 障壁を解けば、ひとたまりもないだろう。

 さらに、障壁はダメージを受ければ弱まっていく。維持するには魔力を消費し続ける必要があり、いずれ魔力が尽きれば障壁も破られることになる。


「ブラント先輩に攻撃をお願いしてもいいですか? その瞬間だけ障壁を解いて、すぐにまた張りなおします」


「……わかった」


 何か問いたそうではあったが、ブラントは飲み込んでただ頷く。

 一度障壁を解けば、再び展開するには時間がかかる。その間に攻撃を受ければ、持ちこたえられないだろう。

 おそらく、ブラントもそこを心配して、本当に大丈夫なのかと言いたかったに違いない。しかし、アナスタシアを信じて何も言わなかったのだろう。


 アナスタシアは術式構成の早さには自信がある。障壁を解き、自分で攻撃してから再び障壁を張るくらいのことは可能だ。

 だが、それではさほど威力を高めることができず、手数が多くなってしまう。それよりも、威力のある攻撃を放てるブラントと分担したほうが効率的だ。


 ブラントは【白火】を使うべく、集中を始めた。

 先ほど、魔狼を倒したときのように一瞬で構成するのではなく、時間をかけて魔素を取り込みつつ、威力を高めていく。

 高濃度の凝縮された魔力がブラントの手に集まり、バチバチと音を立てる。


「……解きます!」


 竜の爪が引いた瞬間、アナスタシアは叫んだ。

 障壁が消え、同時にブラントから威力を高めに高めた【白火】が放たれる。

 一瞬にして竜の全身が白く燃え上がった。全身をのたうち回らせて暴れるが、すぐにアナスタシアが張っていた障壁によって、二人には届かない。


「ギャウアァァ! グワァァァ……!」


 やがて、断末魔の咆哮をあげると、竜は動かなくなった。

 鱗は焼け焦げ、肉も表面は炭化してしまっている。まともに採れるのは牙くらいのようだ。

 だが、素材の状態よりも、一撃でそこまでにしてしまった魔術の威力のほうが、アナスタシアにとっては恐ろしい。

 おそらく、アナスタシアの前回の人生での最盛期よりも威力が高いだろう。


「……はは……思ったより、あっさりだったね……」


 さすがに魔力を一気に使いすぎたのか、ブラントがその場に脱力する。

 だが、意識をしっかり保ち、顔色も悪くないところから、どちらかといえば精神的な疲労のようで、魔力切れということはないようだ。


「ブラント先輩……あなた、本当に人間ですか……?」


「アナスタシアさんこそ、あの術式構成の早さはおかしいよ。正直、技術面では一生かかっても敵わないような気がする……」


 どことなくぼんやりしたまま、二人は言い合う。

 そのまま、しばし休憩してから、アナスタシアは警戒しつつ焼け焦げた竜の死骸に近づく。

 もう動く気配はないことに安堵しながら、牙を採ろうと手を伸ばす。

 すると、竜の死骸が崩れ始めた。アナスタシアの手に触れたままの牙を残し、灰となってその場に落ちていく。

 後には、その牙と床に転がる漆黒の魔石だけが残された。


「漆黒の魔石……?」


 驚いた様子で、ブラントは漆黒の魔石を見つめた。

 通常、魔石は淡い色をしている。色は魔物によって様々だが、強い魔物ほど色が濃くなっていく傾向がある。

 漆黒の魔石はとても珍しい。アナスタシアも前回の人生で、強力な魔物を倒したときに数回見た程度だ。

 アナスタシアは漆黒の魔石を拾い上げてみるが、魔石となってなお、禍々しい力を放っているように感じられた。


「……それ、アナスタシアさんは大丈夫? 俺はそれを見ていると、自分を見失いそうで怖くなってくる……」


 漆黒の魔石から視線をそらしながら、ブラントがそう尋ねてくる。

 アナスタシアが改めて手の中にある漆黒の魔石をまじまじと見てみると、確かに引き込まれそうな、怨念の残滓のようなものを感じた。

 だが、あまり良い気分はしないものの、虫の死骸を持っている程度の感覚で、自分を見失うほどではない。


「禍々しい感じはしますけれど、私はそこまででは……捨てていきます?」


「いや……ここに置いておくのもよくないような気がする。異次元袋に入れておけば大丈夫だろう……」


 気休めだが、アナスタシアは布で漆黒の魔石を包んでから、竜の牙と一緒にブラントに渡す。

 ブラントは異次元袋にそれらをしまうと、一息ついた。


「……竜の死骸も何故か消えちゃったし、これでおしまいかな。いちおう、一通りここを調べてから戻ろうか」


 ブラントそう言うと、ガタンと音がした。

 何事かと思い、アナスタシアは大広間の奥に視線を向けると、壁の一部が開いていた。

 そしてその先には、上に昇る階段が見えたのだ。

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