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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第1章 新たな始まり

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23.吸血の塔

 アナスタシアの心が静まってきたのは、『吸血の塔』に到着する頃だった。

 それまでに食事もしてきたが、あまり味も覚えていない。


「ここに来るのは、三回目かな。最初に来たときは、一階の素材採取だったから、一時間もしないうちに出てきたけれど」


 目の前にそびえ立つ赤黒い塔を眺めながら、ブラントが呟く。


「何階まであるんですか?」


「十二階と言われているよ。上に行くほど魔物も強くなっていく。ちなみに、非常口と呼ばれている、上階から一気に一階まで降りることができる道もあるんだ。魔物が気絶した人間をそこから捨てることもある。楽に脱出できて便利なんだけれど、魔物がいろいろな物を廃棄する道らしくて、欠点は糞尿まみれになることかな」


「……それは、いざというときは助かりそうですが、なるべくなら利用したくない道ですね……」


 命には代えられないだろうが、できれば余力を残して、その道を使わずに帰ってきたいものだ。

 ブラントも苦笑しながら頷く。どうやら、その道を経験済みのようだ。

 気を引き締めて、塔の入り口に向かっていく。


「非常口のことは知ってるな? 無理しないで、早めに撤退することだ」


 番人はアナスタシアのハンター証を確認したとき、わずかに顔をしかめたが、ブラントのハンター証を見るとあっさり通してくれた。

 二人は塔に入る。内部は外から見たときよりも広く感じられ、所々にある柱には魔力による明かりが埋め込まれていた。

 冷たく突き刺してくるような空気が漂い、アナスタシアは前回の人生の経験と照らし合わせて、かなりの難易度のダンジョンであることを直感する。


「……奥の柱の陰に、何か罠があるみたいだ。魔物の気配は今のところないね」


 ブラントが素早く【罠感知】と【索敵】の魔術を使い、周辺の調査を行った。


「あ……ブラント先輩に調べさせてしまって、ごめんなさい」


 自分が率先して調べるべきことだったのに、ブラントの手を煩わせてしまったと、アナスタシアは謝る。

 前回の人生でのパーティーだったら、文句や嫌味を言われているところだ。


「え? 何で謝るの? アナスタシアさんも【罠感知】と【索敵】を使えるのは知っているけれど、これくらい俺に任せてよ」


 不思議そうな顔をするブラントを見て、アナスタシアはこれまで何度となく感じてきた、前回の人生でのパーティーとの違いに感じ入る。

 前回の人生では、パーティー結成時にまだアナスタシアは半人前だった上に、魔術でなければ倒せないような敵が出る場所にはいかなかった。

 そのため、いつもお荷物扱いで、雑用は率先して行う必要があったのだ。

 後に魔術師としての力をつけ、魔術でなければ倒せない敵が出るようになっても、最初の頃の力関係が続いてしまい、パーティーメンバーたちからは下っ端扱いだった。


「はい……じゃあ、次は私にやらせてください。奥の柱の罠は……足下目掛けて矢が飛び出してくるみたいですね。潰しておきます」


 アナスタシアを尊重してくれているからこそ、立派な働きをしたい。前回の人生のような義務感からではなく、使命感でアナスタシアは動く。

 罠がある場所に向かって詳しく調べるため、【罠感知】を使う。ブラントのように広範囲に使えば存在そのものを調べることができるが、ピンポイントで使えば詳しく調べることができる。

 そして詳細がわかれば、【罠解除】で罠を潰すことが可能だ。

 アナスタシアが魔術を放つと、罠はあっさり解除された。


「……早いね。それも静かだ。俺がやったら、下手したら爆発するからね」


「それはかなり力任せにやっていませんか?」


「うん、細かいのは面倒でね。どうせ爆発させても罠は潰れるから、別にいいやって」


 二人は他愛無い話をしながら、進んでいく。

 罠を潰しつつ奥に進むと、上への階段が見えてきたところで、魔物の影があった。

 アナスタシアとさほど変わらない大きさのヒルが三匹、蠢いている。


「ここは俺にやらせて」


 ブラントがそう言って、一歩進み出る。

 複雑な構成が編み上げられていき、周辺から魔素が集まってくるのをアナスタシアは見つめる。細かいのは面倒と言いつつ、かなり繊細な術式だ。

 やがて大きなヒルたちは、淡い光に包まれて崩れていった。

 後には魔石がカランコロンと床に転がる。


「うーん……やっぱり、時間がかかるな。こういう動きが鈍い相手や、距離があるときじゃないとまだまだ使えないな」


「……見ただけで【魔滅】を使えるようになったのが凄いですよ。しかも魔素を取り込む術式も組み合わせて……人間離れしていますね……」


 残念そうに呟くブラントだが、アナスタシアは寒気を覚えるほどだった。

 結局、ブラントはアナスタシアが教えることなく、見ただけで【魔滅】を扱えるようになってしまったのだ。

 魔素を取り込む術式は教えたが、それもあっという間にコツをつかんで使用可能になっていた。

 まだ術式構成に時間がかかっているようだが、今のような敵ならば十分に実用範囲だ。慣れていけば、時間はもっと縮められる。


 アナスタシアは前回の人生で、ダンジョンコアを砕いて知識を得るという、いわば反則技を使ったようなものだった。

 だが、ブラントは素のままでその領域に近づいてきている。

 恐ろしい才能だ。


「階段には罠はないようだね。じゃあ、次の階に行こう」


 そうして、二人は罠を潰しつつ、進んでいった。

 魅力的な素材が採れる魔物と出会わなかったことから、【魔滅】であっさり倒し続けて、あっという間に六階までやってきた。


「あっさり新記録更新だよ。前は五階まで行くのにもかなり時間がかかったんだけどな。こんな散歩みたいにここまで来るなんて、びっくりだよ」


 しみじみとブラントが呟く。


「……パーティーを組むといろいろ面倒だって前に言っていましたけれど、何かあったんですか?」


 ハンターギルドでトニーは、パーティーが崩壊したのはブラントのせいだと言っていた。

 ミーナとジーナという名前も出ていたが、そのこともアナスタシアには気にかかる。


「ああ……前回は、さっきギルドで会ったトニーと、あとミーナとジーナっていう姉妹とパーティーを組んだんだよ。でも、姉妹が……その、俺の奪い合いを始めちゃってね……」


 うんざりしたため息をつくブラント。

 そこまで聞いて、アナスタシアは理解した。その姉妹がブラントの奪い合いを始めてパーティーの雰囲気が悪くなり、崩壊したということだろう。

 当然、そのような状態でダンジョン探索がはかどるはずがない。五階で撤退したのは、そのせいなのだろう。


「俺はそんな気はないし、トニーは苛立って八つ当たりしてくるし、姉妹は喧嘩するしで、もうめちゃくちゃになってね……」


「……大変でしたね」


 しんみりした雰囲気になりながらも、二人は罠を潰し、魔物を蹴散らしながら上の階に昇っていく。

 何事もなく十階までやってきたところで、騒がしい音が聞こえてきた。

 獣の唸り声や、金属のぶつかる音だ。どうやら戦闘中らしい。


「なんだよ、こいつ! おかしいぞ!」


 アナスタシアとブラントが音の方向に近づいていくと、叫び声も響いてくる。

 見れば、先に塔に入ったらしいパーティーが、大型の赤黒い狼の魔物と戦闘中だった。下級狼とは違う、立派な毛並みの魔狼だ。

 焦った様子で剣を振るっている男の後ろには、すでに傷だらけで満身創痍といった状態の三人の男たちが膝をついている。

 床には魔狼の死骸が二体転がっていて、どうやら最後の一匹をなかなか倒せないでいるようだった。


 この塔の魔物は、何故か止めを刺してこないという話は、事前に聞いていた。

 だが、今戦っている魔狼は、確実に男の急所を狙っている。かろうじて防いではいるが、もし当たれば致命傷になる可能性が高い。

 アナスタシアは何かがおかしいと感じる。

 かといって、下手に割り込んでしまっては、獲物を横取りされたと揉め事になる場合もあるので、見守ることしかできない。


「……くっ」


 疲労のためか、男が剣を振りぬいた直後、一瞬だけバランスを崩す。

 魔狼はその隙を逃さず、男に飛びかかった。

 そして次の瞬間には勢いよく赤い液体が噴き出して、ゆっくりと男が倒れていった。

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