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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第6章 勇者

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200/217

200.ジェイミーの翼

 関係者以外は立ち入り禁止だと、会場係がララデリスを止めようとする。

 治療室にいた見習い治癒術師たちも、不安そうに様子を窺う。


「……彼女は優れた治癒術師で、私が呼んだの。これから秘術を行うので、あなたたちは退出してちょうだい」


 だが、王女であるアナスタシアがそう言うと、不思議そうにする者はいたが、直接何かを言うことはなく、おとなしく従った。

 治療室には怪我人であるグローリア以外は、アナスタシアとブラント、ララデリスが残される。


「……古の秘法ね。この目で見たのは初めてだわ」


 グローリアの状態を見たララデリスが、驚いた声で呟く。

 やはりシンは特殊な技を使ったらしい。


「治せますか?」


「ええ。放っておけば廃人になるようなものだけれど、アナちゃんが進行を遅らせてくれたから大丈夫よ」


 アナスタシアの問いかけにララデリスは穏やかに頷く。

 そして、グローリアと向き合うララデリスの背中から大きな翼が飛び出してくる。

 前回の人生で見たときよりもやや色が薄いような気はするが、灰色の翼だ。


「なかなか銀色にならないのよねえ。染めてみたり、術で色を変えてみたりしたんだけれど、どうしても野暮ったい白がせいぜいで、輝きがないのよ」


 のんきに呟きながら、ララデリスはグローリアに治癒術を施していく。

 土気色になっていたグローリアの顔に赤みが差し、表情も和らいでいった。


「ここはアタシ一人で大丈夫よ。グローリアをひどい目に合わせたクソ野郎を、ぶん殴ってやってちょうだい」


 グローリアに向き合ったまま、振り返ることなくララデリスはアナスタシアとブラントを促す。

 平然とした態を装っているが、ララデリスの額には汗が滲んでいた。

 翼を出していることから、魔力を全力で使っているのだろう。

 それでも、シンとの対決のために、アナスタシアとブラントを行かせようとしてくれているのだ。


「……お任せします。よろしくお願いします」


 アナスタシアとブラントはその心遣いを無にしないために、頷いてシンのところに向かおうとする。

 上位魔族であるララデリスが全力で治癒術を使わねばならないような技を、シンは持っているのだ。

 決して気を抜くことはできないと、アナスタシアは唇を噛みしめる。


「あ、そうだったわ。この件が終わったら、また媚薬と避妊薬送るわね。一緒に指南本も付けておくから、楽しみにしていてちょうだい」


 いざ治療室を出ようとしたところでそう声をかけられ、アナスタシアは思わず扉を力いっぱい閉めてしまう。

 治療室の外で待機していた人々が、何事かと視線を向けてきた。


「な……中には、入らないようにしてちょうだい……!」


 アナスタシアはそれだけを言うのが精一杯だった。

 逃げるように、会場へと向かう。

 ブラントも困ったような苦々しい表情を浮かべていて、二人は無言で会場へと急ぐ。

 このようなときに何を言い出すのだと、アナスタシアは顔が熱くなっていくのを感じる。だが、強張っていた体から余計な力は抜けたかもしれない。


 舞台袖にたどり着くと、舞台上ではすでに国王メレディスが聖剣を手にしているところだった。

 優勝者であるシンが聖剣を抜いてみたいと申し出たのだろう。

 メレディスの両脇を護衛の騎士が固め、斜め後ろにパメラとジェイミーが控えている。

 シンはうやうやしく跪いて、聖剣が下されるのを待っていた。


「この聖剣は、勇者しか扱えぬ。それ以外の者が鞘から抜けば、抜いた者に災いをもたらすが、本当に構わぬのだな?」


「はい、覚悟の上です」


 メレディスとシンのやり取りを、アナスタシアはじっと眺める。

 本当なら阻止したいところだが、おそらく聖剣を手にするまではシンを殺せない。

 もしかしたら魔王と戦うのも必要条件かもしれないが、まずは聖剣を手にした時点で殺しにかかろう。

 聖剣を持ってしまえば、ただでさえ強いシンがさらに強化されてしまうが、仕方がない。


 メレディスや観客たちは驚くだろうが、構わない。

 まずは戦って、後から理由はでっち上げる。

 もし狂人扱いされたとしても、そのときはそのときだ。

 このままシンに聖剣を渡しながら野放しにしてしまうほうが、はるかに危険だろう。

 息をひそめながら、アナスタシアとブラントは聖剣がシンの手に渡るのを待つ。


「お父さま、私にお任せ下さい」


 そこに、ジェイミーが前に進み出た。

 メレディスの持つ聖剣を、ジェイミーが受け取る。

 すんなりとメレディスが渡したように見えたにもかかわらず、メレディスは唖然としていた。

 まるで、渡す気がないのにいつの間にか渡していたかのようだ。


 突然の第二王女の行動に、会場がざわつく。

 国王が行うべきことを奪ったのであり、越権行為にあたるだろう。

 だが、ジェイミーは落ち着いて堂々としていた。

 跪いたままのシンも、一瞬だけぴくりと動いたが、そのまま何事もなかったかのように聖剣を待っている。


「かつて天人セレスティアが聖剣を授けたように、天人として目覚めたこの私、ジェイミーが勇者に聖剣を授けよう」


 声を張り上げたジェイミーの背から、ばさりと白い翼が生えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] なにこの茶番。不愉快二人はどこまでも苛つく。 アナちゃんは屑妹に甘さを捨てられるかな?
2021/03/24 18:41 退会済み
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