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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第1章 新たな始まり

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20.遠出の誘い

 やがて前期試験が始まった。

 アナスタシアにとっては前回の人生でも経験した内容だ。そのときも筆記は一位だったので、何も問題はなかった。

 大きく変わったのは実技だ。当時は中間程度の成績だったが、今回は群を抜いている。

 アナスタシアは筆記、実技の両方とも一位で、文句なしの首席となった。


「やった……赤点どころか、十番以内に入ってるぞ! 俺、頑張った!」


 貼り出された結果を見て、ホイルが拳を天に突き出して叫ぶ。

 ブラントにみっちり勉強を教えてもらったホイルは、筆記試験で八位という一桁の順位を取ったのだ。

 しかも、理論を理解してきたことにより、実技も伸びてきた。実技試験はアナスタシアに次ぐ二位だ。

 それも実技では四位以下を大きく引き離して、総合では三席である。


「わたくしは次席ね……まあ、妥当なところかしら」


 筆記が二位、実技が三位だったレジーナは、次席だった。

 前回の人生では、レジーナが首席だったことを思い出し、アナスタシアは罪悪感を覚える。


「せめて筆記だけでも勝ちたいですわね……いずれは、実技もステイシィを追い越してみせますわ」


 挑戦的に微笑んでくるレジーナを見て、アナスタシアは余計なことは考えないようにしようと、罪悪感をしまっておくことにする。

 アナスタシア、レジーナ、ホイルの実技試験の結果は、他のクラスメイトたちと格段に差が開いている。

 確か、アナスタシアの前回の人生の記憶では、レジーナとホイルはこれほど他との差はなかったはずだ。レジーナとホイルの魔術の力量も、確実に上がっているということになる。


「ブラント先輩は……当然のように首席ね」


 三年生の成績を見てみると、ブラントは筆記と実技の両方で一位を取り、首席をキープしていた。

 ちなみに三年生の次席はキーラで、こちらも変わっていないようだ。


「フォスター研究員の名前は……やっぱり、ないみたいね」


 アナスタシアは一年生から三年生まで全ての名前を見てみるが、そこにいずれ魔術実験の失敗で命を落とすことになる、フォスター研究員の名はなかった。

 やはり学生から研究員になったのではないのだろう。外部から研究員になったのならば時期はいつになるかわからないので、ある程度時間を置いたらまた教師に尋ねてみようと、アナスタシアは心に留めておく。


「これで前期休みは国元に帰れる……よかった」


「そういえば、わたくしも前期休みは家に戻るつもりですけれど、ステイシィはどうなさいますの?」


 ほっとして呟くホイルを見て、思い出したようにレジーナが尋ねてくる。


「私は……学院に残るつもり。ちょっと調べてみたいことや、やってみたいこともあるし」


 国に戻ったところで、アナスタシアに居場所などない。

 妹と比べられ、嫌味を言われるだけの場所にいるよりも、学院のほうが居心地がよかった。

 それに、前期は初めての友達ができ、日々の楽しさにかまけて自分を鍛えるのがおろそかになっていた。この休暇中に、鍛えておくべきだろう。


 すでに周囲の学生たちも、試験終了の開放感で浮かれているようだ。

 聞こえてくる声によると、やはり家に帰る者が多いらしい。


「アナスタシアさん、前期休みはどうするの?」


 放課後、図書室の隠し部屋に行くと、ブラントからも尋ねられた。


「私は学院に残ろうかと思っています。ブラント先輩は?」


「俺も学院に残るよ。帰るような場所もないし。まあ、ちょっと遠出して、中級ダンジョンに行ってみようと思っているくらいかな」


「中級ダンジョンですか?」


「うん。日帰りできる場所じゃないから、普段はなかなか行けないんだ。中級ダンジョンになると、難易度がぐっと上がるよ。初級ダンジョンは基本的に罠がないし、内部構造が変わることもないけれど、中級ダンジョンになるとそういうのがあるからね」


 ブラントから中級ダンジョンの説明を聞き、もしかしたらそれが『生きているダンジョン』なのかもしれないと、アナスタシアは思う。

 前回の人生でアナスタシアが行ったダンジョンは、罠があるのが当たり前で、一定期間が過ぎると内部構造が変化するものもあった。

 当時は初級や中級というダンジョンの難易度など知らなかったが、おそらくアナスタシアが行っていたのは中級以上のダンジョンだろう。


「四級以上なら、一人で中級ダンジョンに入ることもできるけれど、推奨はされていない。なるべく複数名で行くのが好ましいとされているよ。俺も、四級になったのが前回の長期休みの終了間際だったこともあって、一人で行ったことはないんだ」


「誰かとパーティーを組んで行ったのですか?」


 初めて初級ダンジョンに行ったとき、番人がブラントはいつも一人で来ているようなことを言っていたと思い出しながら、アナスタシアは問う。


「うん。臨時のパーティーを組んで行ったよ。【白火】を使える魔術師は、わりとすぐに入れてもらえるからね」


「じゃあ、今回も臨時のパーティーを?」


「うーん……パーティー組むといろいろと面倒でね……今ならいざとなれば【転移】もあるから、一人で行っても大丈夫そうだけれど……もしよかったら、アナスタシアさん一緒に行かない?」


「え……?」


 アナスタシアはまるで胸を刺されたように、どきりとした。

 日帰りできない場所ということは、泊まりがけで行くということだろう。それを二人きりで行くと考えると、胸の鼓動が早くなる。

 だが、アナスタシアは慌てて、単にパーティーメンバーとして誘われているだけだと、己に言い聞かせる。

 いや、そもそもアナスタシアだけが誘われているわけではなく、いつものメンバーで行こうということかもしれない。


「……ホイルは、休み中は国元に帰るそうですよ」


「うん、知ってる。……というか、どうしてホイルくんが出てくるの?」


 ブラントは不思議そうに首を傾げる。


「レジーナも休み中は家に戻るそうです。いつものメンバーはそろわないかと……」


「うん、ホイルくんもレジーナさんも、素晴らしい素質を持っているよ。一年生の前期とは思えないくらいの実力をすでに身に付けている。でも、中級ダンジョンはまだちょっと早いと思う。俺は、アナスタシアさんと二人で行きたいんだ」


 まごまごしたアナスタシアに対し、ブラントはまっすぐにアナスタシアを見つめながら、きっぱりと言い切る。

 紫色の瞳から目をそらすことができず、アナスタシアは目まいがするようだった。まるで胸に何かがつかえているように、息苦しい。

 だが、これは単なるパーティーを組もうという申し出に過ぎないのだと、アナスタシアは頭の中で何回も繰り返して、心を落ち着かせようとする。


 一緒にダンジョン探索に行くのが、ちょっと遠くなって、ちょっとメンバーが減っただけだ。

 それに、中級ダンジョンならば鍛えるのにもよいだろう。

 正直なところ、初級ダンジョンはアナスタシアにとっては物足りなかった。もう少し強い魔物と戦いたいところだ。

 そう考えれば、中級ダンジョンへの誘いはちょうどよいのだと、アナスタシアは自分を納得させる。


「……はい、行きましょう……」


 顔を伏せながら、ぼそぼそとアナスタシアは答える。


「よかった! ありがとう!」


 屈託のない笑顔で、ブラントは喜びを露わにする。

 その姿を見て、アナスタシアは頷いてよかったと心が温かくなっていく。


 先日、好みの相手として名前を挙げられたときから、どうもブラントのことを意識してしまっているらしい。だが、二人の間にあるのは同士としての絆であり、友情なのだ。

 こんな貧相なでくのぼうが、女として見られるはずがない。かつて恋人だと思っていた勇者シンも、目的のためにアナスタシアを利用しただけだった。

 そのことを心に刻み、わきまえておこうと、アナスタシアは胸の疼きを飲み込んだ。

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