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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第6章 勇者

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191.占い師の行方

「……魔族って、そんなにバラバラの自分勝手でいいのですか?」


「ダンジョンコアの管理さえしていれば構わぬ。著しく均衡を崩さぬのなら、人間に交ざって何をしようがどうでもよい」


 思わずといったブラントの問いにも、エリシオンは平然と答える。

 エリシオンも魔王としての務めをおろそかにはしないが、その他のことに関してはかなり適当だ。

 また、魔族は個人の力が強いため、群れる必要も薄いのだろう。

 手を組むのが長続きしないとはいっても、強力な敵を倒すために手を組むといったものであれば、大抵は短期間で決着となるので問題ないのかもしれない。


「ところで、そなたたちが探しているのはフオナだったか。では、まずはダンジョンコアを通じて連絡をつけてみるとしよう」


 エリシオンはそう言って、目を閉じたまま、じっと動かなくなる。

 アナスタシアとブラントは息をひそめて待ち、グシオセも緊張した面持ちでエリシオンを伺う。


「……反応がないな。ダンジョンコアに損傷はないようだが」


 やがて目を開くと、エリシオンは息を吐き出しながら呟く。


「それはダンジョンコアの近くにいないと連絡がつかないのですか?」


「いや、管理者である魔族とダンジョンコアは繋がっているので、遠く離れていても感知できる。ただ、魔術的な深い眠りについているといった場合は、感知できぬ。また、感知しても戦闘中などですぐに反応できぬこともある」


 ブラントの問いに、エリシオンは淡々と答える。

 ダンジョンコアの近くにいないから連絡が取れないということはなさそうだ。


「あの……フオナをどうするおつもりでしょうか……?」


 おそるおそる、グシオセが尋ねてくる。


「先日、セレスティア聖王国の港町モナラートで行われた祭りの最中、占い師に洗脳されたと思しき学生たちがいました。その占い師がフオナという魔族ではないかと思い、もしそうだとすれば何故そのようなことをしたのか、尋ねてみたいのです」


 アナスタシアが答えると、グシオセは眉根を寄せながら考え込む。


「……我々は、セレスティア聖王国からは完全に撤退しています。フオナは特に関わっていたため、ほとぼりが冷めるまでは近づかないほうがいいと言ってあったはずなのですが……」


 訝しげなグシオセの呟きを聞き、アナスタシアはいったいどういうことだろうと、不思議に思う。

 フオナという魔族がモナラートの占い師とは別人なのか、それともあえて危険を冒すほどの何かがあるとでもいうのだろうか。


「フオナは命令には忠実ですが、下っ端根性というか……自分で考えるよりも、他者に従う気質の持ち主です。もし彼女がその占い師だったとしたら、誰かに命令されているのではないかと……」


「だとしたら、誰か命令しそうな相手の心当たりはありますか?」


「いえ……フオナはずっとセレスティア聖王国にいたので、交友関係はそのあたりにいた連中くらいです。その中に彼女を従わせるほどの中位以上の魔族はいなかったはず……あとは、潜り込んでいたときに関わった人間……は考えにくいでしょうね……」


 グシオセはかなり協力的な態度で、色々と話してくれる。

 積極的に情報を話すことで、エリシオンだけではなく、セレスティア聖王国でひと騒動あったアナスタシアとブラントの機嫌取りをしているのかもしれない。

 アナスタシアにとっては遡れば相当の恨みが出てくるはずだが、今さら終わったことに感情を浪費したくないため、昔の魔族の所業については考えないことにしていた。


 だが結局、仮にフオナがモナラートの占い師だったとしても、誰かの手駒になっているだけのようだ。

 そして、黒幕が誰かはわからない。

 関わっていた人間ということで、王妃とジェイミーのことが浮かんだが、王妃はすでに亡くなっていて、ジェイミーは幽閉中だ。

 もっとも、魔族は強い者に従うのだから、王妃やジェイミーがもし普通の状態だったとしても、考えにくいだろう。


 ただ、ジェイミーの変化のことがアナスタシアには少し引っかかる。

 ジェイミーに下位とはいえ魔族を従わせるだけの力があるとは思えないが、ちょうどベラドンナを侍女として放ってあるので、調べてもらうのもよいだろう。


「フオナが他にここしばらくで関わりがある上位者といえば……あとは魔王さまくらいしか……」


「何故、儂が?」


 訝しそうに、エリシオンはわずかに眉根を寄せる。


「その……以前、お側仕えとして送り込んだことが……」


「ああ……そういえば、おったような気がする。すぐに帰したが。あのときは次から次へとおなごが言い寄ってきたな」


 ややうんざりしたように、エリシオンはため息を吐く。

 黒い翼の魔王を作るため、魔族の女がやたらと言い寄ってきたという話は、アナスタシアも聞いたことがあった。

 そういえばセレスティア聖王国でフオナがブラントを見て、エリシオンの名を呟いていたと、アナスタシアは思い出す。

 魔王エリシオンを直接知る魔族なのかとそのときに思ったが、どうやら妾候補だったらしい。


「だが、儂はその後は知らぬぞ。全員、追い払ったしな。というか、先ほどから強制召喚をするべく、探っておるのだが……まったく反応がないのだ。儂の魔力が及ばぬ特殊な場所にいるか、生命活動が停止しているとしか思えぬな」


 突然のエリシオンの言葉に、残る三人がぎょっとしてエリシオンに注目する。


「……おじいさまの魔力が及ばないような特殊な場所って、どれくらいあるのですか?」


「そうそうないな。儂がかけらも感知できぬほどの結界など、作れるとは考えにくい。あとは、この世界の理とは異なる扉が開いたような場所……つまり、通常はあり得ぬと思ってよいだろう」


 ブラントの質問に答えると、エリシオンは息を吐いて一拍置いてから、口を開く。


「簡単に言えば、死んだ可能性が最も高いな」

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