185.意外な知らせ
二年生になってもアナスタシアは第一クラスで、レジーナとホイルも一緒だ。
ほんの数名だけ入れ替わりがあったようだが、大体は一年生のときと同じメンバーとなる。
授業は一年生のときよりも少し高度なものとなるが、がらりと変わってしまうほどではなく、延長線上にあるものだった。
前回の人生でも二年生の前期は経験しているので、目新しいことはない。
特に何も問題なく、放課後となった。
「まずは、レナとホイルの話を聞きたいわ」
談話室にて、アナスタシアはレジーナとホイルと共にテーブルを囲みながら、口を開いた。
レジーナはアナスタシアの話を二人きりで根掘り葉掘り聞きたそうだったが、それは後回しにする。
まずはレジーナとホイルのことからと言えば、レジーナも少し残念そうではあったが、セレスティア聖王国での出来事もあることからか、納得はしたようだ。
周囲には他の生徒たちもいたが、アナスタシアは【聴覚阻害】をかけて、話を聞かれないようにする。
「とはいっても、朝に話したことで大体全部ですわよ。わたくしの親と兄は、ホイルのことを友人としては認めましたけれど、それ以上はまだ認めないというのが現状ですわ」
「認めてもらえるとしても、卒業後になりそうだな。学生は勉強が本分だって言われたし」
レジーナとホイルは、落ち着いてそう語った。
今すぐ恋人として認められたわけではないが、将来的には十分に希望があるようだ。
「ホイルのご両親にはご挨拶したの?」
「いや、親に話はしたけれど、レジーナを会わせてはいない。そっちはレジーナの家族から認められてからにしようって。俺の親はそういうのは好きにしろって感じだし」
「むしろお兄さまはわたくしを抜きにして、自分が挨拶に行きたいけれど行けないと葛藤していましたわね」
ホイルの父はステム王国の伝説のハンターで、レジーナの兄は彼に憧れているという。
個人的には会いたいが、ホイルをレジーナの恋人として認めない以上、そういうわけにもいかないようだ。
「まあ、そんなわけで休暇後半は、ステム王国でリッチ商会の欲しがっている素材を採りに行って、点数稼ぎをしていたってわけなんだ」
「なかなか手に入らない素材があったようで、喜んでいましたわ」
どうやらホイルは休暇後半、ハンター活動をしていたようだ。
それなりに成功を収めたらしい。
「ただなあ……もうそろそろ学院に戻るっていうときだったんだけど、ハンターギルドで期待の新人が現れたって聞いたんだ。とても貴重な素材を見つけてきたり、特殊個体の魔物を倒したりと、新人とは思えないって評判になっていた。そいつのせいで、ちょっと霞んでしまったかもしれないんだよな……」
わずかに眉根を寄せながら、ホイルは呟く。
その話を聞いた途端、アナスタシアの背筋にぞわりと嫌なものが走る。
「……その新人って、どんな人だったの?」
「俺は帰り際にちらっと見ただけだけど、黒髪で、まだ子供のような奴だったな。名前はええと……ジンだかシンだかって呼ばれてた」
ホイルの答えを聞き、アナスタシアは膝の上に置いた手をぎゅっと握る。
その期待の新人とやらは、勇者シンで間違いないだろう。
前回の人生の時点ですでに、彼は貴重な素材の在処や特殊な魔物の出現場所に詳しかった。
時期的に、港町モナラートから船で移動して、ステム王国に行ったのだろう。
あまりに意外な知らせでアナスタシアは驚くが、もう逃げてはいられない。
「……その新人ハンターのことが気になるわ。もし、何か知っていたら教えて欲しいの」
アナスタシアが口を開くと、その声があまりに真剣だったためか、レジーナとホイルが顔を見合わせる。
「俺は今言った以上のことはわからないけど……親父に連絡してみるよ」
「わたくしも商会に、貴重な素材を持ち込んでいるハンターがいないか聞いてみますわね」
ホイルとレジーナは、協力を約束してくれた。
何も理由を詳しく尋ねてこないのは、セレスティア王家の機密事項に関連するとでも思っているのかもしれない。
だが、とてもありがたいことだ。
「ありがとう、レナ、ホイル」
「構いませんわ。では、今度はステイシィの話ですわね」
少し扱いに困る話題から話を変えようとしたのか、それとも単に自分が聞きたいだけなのか、レジーナはにっこり笑ってそう言った。
「ええと……それは……」
「ここに揃ってたんだ」
そのとき、声が割り込んできた。
見れば、学生の制服ではなく、研究員としての灰色のローブ姿のブラントがいた。
さらに周囲を窺ってみれば、ブラントの登場で談話室がざわついているようだ。
今、談話室にいるのはほとんどが二年生と三年生なので、ブラントのことも知っている生徒ばかりだった。
「そろそろアナスタシアの授業が終わったかなと思って、探していたんだ。レジーナさんとホイルくんも一緒だったんだね」
「ええ、お話ししていたの。何か急ぎの用でもあったかしら?」
「いや、そういうわけじゃないんだけれど。もし何もなければ一緒に過ごさないかって誘いに来ただけ」
どうやらこれといった用事はないようだ。
今はレジーナとホイルと話していたので、どうしたものかとアナスタシアは考える。
「……今、聞きたい話は、もう目の前で見せてもらったような気がしますわ。どうぞお二人でお過ごし下さいな」
生温かい笑みを浮かべながら、レジーナがそう言ってくる。
無言で、ホイルも頷いていた。
アナスタシアは戸惑ったものの、レジーナとホイルも二人にしてあげたほうがよいのかもしれないと思い、受け入れることにした。
アナスタシアとブラントは、二人で図書室の隠し部屋に行った。
二人の出会いともなった場所だが、訪れるのは久しぶりだ。
「……あれから一年が過ぎたんだ。早いね」
「ええ、本当に」
感慨深げに呟くブラントに、アナスタシアも同意する。
それから二人は、これまでのことを取り留めもなく話した。
やがて夕暮れの鐘の音が聞こえてくると、そういえば初めて会った日も似たようなものだったと、二人で懐かしく笑い合う。
「じゃあ、寮まで送っていくよ」
だが、寮まで送ってくれるのは、一年前にはなかった。
そして、女子寮まで送ってもらい、このまま別れるのは寂しいと感じてしまうのも、アナスタシアは贅沢になったものだと思う。
「週末の夜は、二人きりでゆっくり過ごそうね」
別れ際に耳元で囁かれて、アナスタシアは顔が熱くなるのを感じながら、頷く。
さすがに学院の授業がある日は節度を守ろうと、約束していた。
ブラントと口づけを交わして、また明日と言って別れると、アナスタシアは自分の部屋に戻る。
一人きりの部屋で、まだ始まったばかりだが、週末が待ち遠しいとアナスタシアはため息をついた。
翌朝、アナスタシアは食堂に向かおうとすると、自分の部屋の前に手紙が置いてあることに気付いた。
自分宛ての手紙なのだろうと思い、アナスタシアは拾い上げるが、急いでいたために鞄の中に放り込んで、食堂に向かう。
そしてレジーナと話したり授業を受けたりしているうちに、すっかり手紙のことは忘れ去っていた。
放課後になってようやく手紙のことを思い出し、アナスタシアは開封してみる。
するとそこには、丸みを帯びた字でこう書かれていた。
『卒業パーティーの日、ブラントさまがキーラさまと二人きりで、濃密な夜をお過ごしになったことはご存知ですか?』






