184.二年生
魔術学院は前期が始まり、アナスタシアも襟のラインが一本増えた制服を着て、二年生となった。
ブラントは研究員となり、フォスター研究員と呼ばれることになる。
研究員は成果さえ出せば自由がきくらしい。皇太子となったエドヴィンへの贈り物である魔道具を作りながら、それをレポートにまとめればちょうどよいとブラントは言っていた。
「ステイシィ、久しぶりですわね。先日はとてもお世話になりましたわ」
レジーナとも久しぶりに、朝の食堂で会った。
セレスティア聖王国でレジーナとホイルが二人でリッチ商会ジュード支店に行った後、会う機会がなかったのだ。
手紙では知らされたが、レジーナたちはステム王国に向かったという。
どうせ一か月もしないうちに学院で会うのだからと、アナスタシアもその後は連絡を取らなかった。
「レナ、久しぶりね。ステム王国に行っていたみたいだけれど、うまくいったのかしら?」
アナスタシアが尋ねると、レジーナは少し困ったように眉根を寄せる。
手紙によればホイルも一緒にステム王国に行ったようだったので、うまくいったのかと思ったが、この表情を見るとそうではなかったらしい。
「ええと……半分くらいは認めてもらえたというところかしら。友人としては認めてもらえたのですけれど……」
レジーナの話によれば、レジーナの兄ネイサンはモリス伯爵令息チェイスのこともあって、慎重になっているようだ。
また、チェイスとの婚約解消はうまくいったが、その直後に新たな相手ができるというのは、疑われる要素になりかねないというのもある。
それでも、ホイルがネイサンの憧れる英雄の息子であることから、門前払いにはされず、友人としては認めてもらえたらしい。
「いちおう、一緒にステム王国までは行きましたわ。でも、リッチ商会の隊商としての移動で、ホイルは下働きの雑用係をやらされていたのですわ」
どうしてもと言うのなら、下働きの雑用係としてなら一緒に連れて行ってやるとネイサンが言うと、ホイルはそれで構わないと頷いたのだという。
あっさり受け入れたことに、ネイサンは驚いたらしい。
英雄の息子なのだから、そういった下っ端の仕事を押しつけようとすれば、怒って放り出すと思ったようだ。
ホイルは文句を言わずに働き、道中で魔物が現れたときは護衛の役割も果たしたのだと、レジーナは語る。
「そうだったのね……」
初対面で因縁をつけてきたホイルのことを思い出し、随分と成長したものだと、アナスタシアは感慨深くなる。
レジーナのことが、それだけ大切だということかもしれない。
「それにしても、まさかレナがいつも言い争っていたホイルと、そんなことになるなんてね」
最初の頃はやたらとアナスタシアに突っかかってきて、レジーナがそれに対してよく反論していたものだ。
アナスタシアもホイルに対する最初の印象は悪かったが、口先だけで暴力に訴えようとはしなかったため、前回の人生のパーティーメンバーから受けた仕打ちに比べれば、どうということはなかった。
今回の人生でも、キーラよりずっとましだ。
その後、ホイルは謝罪もしてきたので、わだかまりはない。
キーラもいちおう謝罪はしてきたが、それはアナスタシアに対してではなく、セレスティア王女に対してだったので、受け取らなかった。
そう考えて、そういえばキーラは三年だったから卒業したのだなと、ふと気付く。
その後はどうなったか知らないし、別に知る気もないので、どうでもよいが。
「わ……わたくしのことより、ステイシィはどうですの?」
照れ隠しのように、レジーナはアナスタシアに話題を振る。
「うん、ブラントとは正式に婚約したわ。私が学院を卒業したら結婚式の予定ね」
「まあ、それはおめでとうございます! ……というか、今の呼び方……」
とても嬉しそうに祝福してくれるレジーナだが、アナスタシアがブラントのことを呼び捨てにしていることに気付いたようだ。
探るような眼差しをアナスタシアに向けてくる。
「ええ……その……婚約したんだし、普通に話してお互い呼び捨てにしようってなって……」
照れくさくなり、もじもじしながらアナスタシアは答える。
「まあ……それは、関係が一歩進んだということですわね」
「う……うん……」
実際には一歩どころか、何歩か飛び越してしまったような気がするが、アナスタシアは曖昧に頷く。
だが、レジーナはアナスタシアの様子をじっと窺い、何かを考え込むような様子を見せる。
「もしかして、他にも何かありましたの?」
追及されてしまい、アナスタシアはびくりとする。
アナスタシアの態度から見抜かれてしまったようだ。
「ええと……あ、もう行かないと授業が始まっちゃう! 急ごう!」
慌ててごまかしながら、アナスタシアは教室に向かおうとする。
レジーナは不審そうな眼差しをアナスタシアに向けながらも、仕方が無さそうにため息をひとつ漏らすと、ついてきた。
「……放課後に、ゆっくり聞かせてもらうことにしますわね」
にこやかに笑うレジーナだが、目が笑っていない。
アナスタシアは恐ろしくなりながら、視線を背けた。






