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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第6章 勇者

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182.半年後に思いを馳せ

 閉じた扉を眺めながら、アナスタシアは呆然とする。

 ジェイミーからの言葉には、心当たりがあった。

 結婚前に関係を持ったのは事実なので、言われても仕方が無いところはある。

 ただ、そのことをどうやって知ったのだろうか。


 ブラントと一緒にいるところだったのなら、それまでとは何らかの変化を感じ取ることがあるかもしれない。

 だが、アナスタシアは一人だった。

 それにブラントと一緒だったところで、それまでとの違いがわかるほど、ジェイミーとは顔を合わせてはいないはずだ。

 どうやって嗅ぎつけたのかと、アナスタシアは恐ろしくなってくる。


 とはいえ、秘密を握られているかといえば、そうではない。

 あまり好ましくないこととはいえ、仮に大勢に知られたところで、大きな問題となるようなことではないはずだ。

 もしかしたら、ジェイミーも単に鎌をかけただけかもしれない。

 再び扉を開けて尋ねてみる気にはなれず、アナスタシアはどうせ問題となるようなことではないのだから、放っておくことにする。


「……こういうことがあったの。変化はあったみたいだけれど、それがどこまで本当なのかと思って」


 夕食後、談話室でアナスタシアはブラントに、ジェイミーと会ったときのことを話す。

 じっと聞いていたブラントは、アナスタシアが話し終えても考え込んでいる。


「うーん……こんなことを言うと申し訳ないんだけれど……俺の感覚では、本質はまったく変わっていないと思うよ。隠すのがうまくなったっていう意味では変化だと思うけれど」


「ううん、申し訳ないなんてことはないから、率直に言ってもらいたいわ。それはどういうところが?」


「話すとき、【嘘感知】を使って嘘は検出できなかったんだよね。どうも、それを見越して言葉を選んでいるような気がするんだよね。『ありがとう』と『ごめんなさい』に類する言葉はなかっただろう?」


「あ……」


 言われて、アナスタシアは納得する。

 アナスタシアに短剣を向けてきたことを、恐ろしいことをしでかした、もう二度と殺そうとはしないとは言いつつ、明確な謝罪は無かった。

 助けが必要になれば言ってという言葉に対しても、ただ返事をしただけだ。

 そういうときはたとえ大してありがたくなかったとしても、社交辞令として礼くらい述べるものだろう。


「多分、ありがとうやごめんなさいに類する言葉を使ったら、嘘だと感知されるとわかって避けたような気がする。【嘘感知】自体は別に珍しくもない魔術だし、王族なら対策くらい教わっていて不思議ではないけれど……」


「これまでの何も考えていなかったジェイミーからすると、そんな対策ができるようになったということが、大きな変化ね……しかも、本質は変わらないままで、小賢しくなったというか……」


「うん、油断できなくなったっていう印象だね。アナスタシアのことを良く思っていないのは確実だろうし、気を付けないと。それで、ちょっと気になることがあるんだけれど、建国祭って武術大会があったよね」


 ブラントから問いかけられ、アナスタシアは最近教師から学んでいることを思い出しながら、頷く。

 建国祭では騎士たちの武術大会とは別に、一般参加の武術大会もあるという。

 優勝者は、国王に直接願いを叶えてもらう機会を得られるそうだ。

 もっとも、自分が王になりたいとか王女と結婚したいといった、大きすぎる願いは却下となるため、大抵は金品か仕官が願いとなるらしい。


「勇者シンが建国祭に現れるとしたら、武術大会じゃないかなって思うんだ。勇者というくらいなんだから、武術には長けているよね。優勝して、聖剣に触れてみたいとでも言えば、その場で聖剣を扱える勇者として認められることになるんじゃないかな」


「なるほど……普通の人だと、聖剣を鞘から抜いて振りかざすこともできないみたいだから、それができただけでも勇者だってことになるわね」


 前回の人生では、勇者シンが武術大会に出たというような話は聞かなかった。

 しかし、今回はおそらく出現時期が違う。

 呼び出したのも前回はメレディスの可能性が高いので、もしかしたら出現場所も違ったのかもしれない。

 今回の状況で、勇者と認められて聖剣を手に入れようとするのなら、武術大会に優勝して願いを言うというのは、手っ取り早い方法だと思えた。


「過去の武術大会は王妃とジェイミー王女も観覧していて、場合によっては優勝者が彼女らから直接お声を賜ることもあったって聞いたんだ。もしかしたら、ジェイミー王女はこのときに勇者シンと会うため、建国祭に出席できるように立ち回っているのかと思って」


「ああ……なるほど」


 アナスタシアはブラントの予想に頷く。

 ジェイミーがどこまで勇者シンのことを知っているのかはわからないが、彼を呼び出したのはおそらくジェイミーなので、何か繋がっているところがあるのかもしれない。

 建国祭にいつも通り出席したければ、今から態度を改めて、反省したことをアピールすれば十分間に合うだろう。


「できればジェイミーと勇者シンを引き合わせたくないけれど……確証があるわけじゃないから、難しそうね。私も武術大会を観覧して、ジェイミーより先に動くことくらいかしら」


「武術大会で打ちのめすことができれば良いんだろうけれど……魔術禁止で武器は剣だからなあ……普通の相手ならまだしも、勇者相手は厳しいな……」


 アナスタシアとブラントは、そろってため息を漏らす。

 勇者シンは前回の経験を引き継いでいるはずだ。

 いくら聖剣がないとはいえ、簡単に勝てるような甘い相手ではない。


「もし、勇者シンが聖剣を手に入れることが起こるべき出来事だったとしたら、どうしたって止められないでしょうしね。すぐに動けるよう、心の準備をしておくのがせいぜいかもしれないわね」


 結局、実際にそのときになるまで、できることは少ないのかもしれない。

 それでも、できる限り準備はしておこうと、アナスタシアは半年後の建国祭に思いを馳せた。

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