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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第6章 勇者

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178/217

178.最後の決着に向けて

「やはりそうか。あの聖剣は、作ったセレスティアもよくわかっていないものなのだ。この世界に本来あるべきではないものが紛れ込み、それを材料とした故にな」


 エリシオンはアナスタシアの反応を見て、肯定と受け取ったようだ。


「聖剣については、後で話してやろう。その前に、そなたの話を聞きたい。おそらく、未来というか過去というか……その世界で、そなたは儂を殺したのであろう?」


 淡々と問いかけられ、アナスタシアは言葉を失う。

 背筋にぞくりと冷たいものが走る。

 そこに気付かれたかという恐怖と、自分を殺した相手に対していったいどのような感情を抱くのかという恐れが、アナスタシアを苛む。


 今回の人生でエリシオンと初めて会ったとき、アナスタシアの持つ魔王の因子が、魔王を殺して奪ったかのように濃いと言われたことがあった。

 その時点で、真実を見抜かれていたということになる。

 普段のちょっと抜けたおじいちゃんという印象がすっかり刻み込まれていたが、エリシオンは魔王という圧倒的な存在であることを思い知らされたようだ。


「……そう怯えるな。儂が殺されたというのなら、それは魔王として不適格だったということだ。儂が悪いのであって、そなたに対して思うところはないから安心せよ。ただ、どのような状況でそうなったのかを知りたいのだ」


 苦笑しながら、エリシオンはアナスタシアに話を促す。

 深呼吸をして気を取り直すと、アナスタシアはブラントに語った前回の人生のことを、エリシオンにも語る。

 ダンジョンコアを砕いたことや、フォスター研究員ことブラントが魔物化して勇者シンに殺されたことを、エリシオンは眉根を寄せながら黙って聞いていた。

 そして最後は勇者たちが虚無となった魔王エリシオンと戦ったが、魔王エリシオンは翼を出すことなく倒されたのだと聞くと、目の前のエリシオンはため息を吐き出す。


「その世界の儂は、魔王としての務めを放棄したということか。何と愚かなことだ。それは死んでも仕方がなかろう」


 どこかで聞いたような辛辣な言葉を、エリシオンも呟く。

 ブラントとの血の繋がりを感じて、アナスタシアはつい苦い笑みが浮かんできそうになってしまう。


「もっとも、そなたも知らないところで何かあったのかもしれぬがな。そして話を聞く限りでは、ある程度は起こる出来事が決まっているようだ。だが、その結果までは確定しているわけではないのだろう」


 考え込みながら呟くエリシオンに、アナスタシアも頷く。

 ブラントが魔力回路の損傷を起こすことは、おそらく決まっていたのだろう。

 今回はアナスタシアを助けるためで、前回は不明と、理由は違うものの、同じことが起こっている。

 ただ、今回はアナスタシアが治療し、前回はそのままと、結果は異なる。


 他に思い当たることとしては、ジグヴァルド帝国第三皇子エドヴィンのことだ。

 前回は魔物の大発生により、エドヴィンは戦死してしまった。

 今回は魔物が大発生して致命傷を負ったものの、アナスタシアの治癒術で命を取り留めている。

 時期は異なるが、出来事は大体似通っているだろう。


「そなたはこれまで、良い方向に物事を変えていると思われる。他にも大きな転機となるような出来事はなかったか?」


「ええと……勇者シンが聖剣を手に入れることと、勇者のパーティーが魔王と戦うことくらいでしょうか……」


 おそらくもっと色々な出来事が積み重なっているのだろうが、大きな転機と聞いてアナスタシアがすぐに思いつくのは、これくらいだった。


「勇者シンとやらに関する出来事か。ダンジョンコアを破壊し、魔王を殺すなど、そやつは混沌をもたらす者にしか思えぬな。いっそ、今のうちに儂が始末してやろうか。それが可能かはわからぬが……」


 苦い表情でエリシオンはため息を漏らす。

 もし、勇者シンが聖剣を手に入れることや、勇者のパーティーと魔王が戦うことが決まった出来事ならば、それを阻止しようとしても不可能なのかもしれない。


「ただ……勇者シンは、今回は前回とは違うようなことを言っていました。今回は、彼がどう動くかがわかりません。もしかしたら、今回こそは本当の平和に向けて動く可能性も……」


 言いながら、アナスタシアはそれはないだろうと何故か確信していた。

 今にして思えば、勇者シンはかなり自分本位な人物だ。

 他人のことなど物くらいにしか思っておらず、アナスタシアのことも使い終わって壊れた道具のように、微笑みながら捨てた。

 仮に平和に向けて動くとしたら、それは単に自分の目的と合致しただけで、平和を願ってのことではないだろう。


「……おそらく、聖剣が披露される半年後の建国祭に彼は来るでしょう。前回も、聖剣を手に入れたのはそれくらいの時期でした。そのとき、彼に直接目的を問いただしてみようと思います」


 アナスタシアは、決意をこめて静かに語る。

 港町モナラートで勇者シンを見たとき、彼がアナスタシアの知っている勇者シンそのものであると気付いて、怯えて何もできなくなってしまった。

 しかし、これを乗り越えなくては前に進むことはできないだろう。


「そして、区切りをつけたいのです。もし彼の目的が混沌をもたらすものであれば……私の手で終わらせたいと思います」


 戦うにせよ、そうでないにせよ、前回の人生から引きずっている思いを全て取り払い、今回の人生を歩いて行きたい。

 おそらく、それが最後の決着になるだろう。

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