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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第6章 勇者

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177.戻ってきた要因

「ようやくか」


 翼が邪魔で部屋から出られず、立ち尽くすブラントを見るなり、エリシオンはただそれだけを呟いた。

 驚いた様子もなく平然としているので、翼のことはエリシオンにとっては予想済みだったらしい。


「意気地無しがようやく勇気を出したか。何も知らぬわけではなかろうに、随分とかかったな」


 だが、続く言葉は何かが違う。

 翼のことではなく、二人の関係について言及しているのだと気付いたアナスタシアは、顔に血を上らせて俯く。


「……それよりも、突然こんな翼が生えてきて困惑しているんですが」


 ブラントは一瞬顔を引きつらせたものの、エリシオンの言葉を受け流して、現状を述べる。


「魔王の因子が濃い者同士で交われば、何らかの変化が起きても不思議ではなかろう。覚醒のきっかけになるやもしれぬとは、儂も思っておった」


「覚醒?」


 ブラントは首を傾げる。

 そういえば、吸血の塔でヨザルードがブラントのことを、覚醒前の小僧と言っていたことがあったような気がすると、アナスタシアはふと思い出す。


「魔族としての覚醒だな。翼が生えて、それまで以上の力を扱えるようになる。大抵は幼少期に起こるが、個人差があって青年期にようやくという者もおるな。そなたは人間の血が混ざっているが故、覚醒が起こるかどうかは不明だった」


 そう言って、エリシオンはブラントの翼をじっと眺める。


「まだ動かせぬようだな。突然増えたことにより戸惑っておるだろうが、手や足を動かすのとそう変わらぬ。儂が手伝ってやるから、動かしてみろ」


 エリシオンはブラントの翼の付け根に手を触れると、魔力を流す。

 それでブラントは何かをつかんだらしく、少しずつ翼を動かせるようになっていった。

 翼を出し入れする方法も教わり、ブラントは無事に翼を体内に収める。

 ようやく普通に動けるようになったブラントは、安心したように息を吐き出していた。


「後で飛び方も教えてやろう。空中戦ができるようになるまでには、慣れが必要だ。普段から練習しておくがよい」


「……空中で誰と戦うんですか。それに普段練習したら、絶対大騒ぎになると思うんですけれど」


 苦笑するブラントだが、エリシオンは取り合おうとしない。


「して、そなたたちの問題は解決したのか?」


 真剣な声でエリシオンは問いかけてくる。

 二人の仲が進展したのかといったような浮かれた内容ではなく、緊迫感のある問いかけだった。

 それまで苦い顔になっていたブラントも表情を引き締め、アナスタシアと顔を見合わせる。


「解決したのなら、儂からは何も言わぬ。だが、儂の助けが必要だと少しでも思うのならば、申してみよ」


 エリシオンは主に、アナスタシアに向けて言っているようだ。

 魔王城に転移してきたときのアナスタシアの様子は、明らかにおかしかっただろう。そのときもエリシオンは気遣ってくれたが、まずはブラントと二人で話すようにと機会を作ってくれた。

 いらぬ詮索はしないが、必要ならば手を貸すと言ってくれているのだろう。


 アナスタシアは、いっそエリシオンにも話してしまおうかと悩む。

 魔王であるエリシオンは、おそらくアナスタシアの知らないような知識を色々と持っているだろう。

 もしかしたら、アナスタシアが過去に戻ってきた要因もわかるかもしれない。

 それでも本当に話してしまってよいだろうかと葛藤しながら、アナスタシアがブラントを見つめると、彼は真面目な顔で頷いた。

 その顔を見て、アナスタシアも覚悟を決める。


「……一度死んでから、記憶を持ったまま過去の自分に戻るということは、あり得ますか?」


 しかし、いきなり自分の前回の人生について語るのは気後れして、アナスタシアは自分に起こった出来事を質問という形で投げかけてみる。

 エリシオンは一瞬、驚いたような顔をしたが、神妙な顔で考え込む。


「……あり得ない、とは言わぬ。通常、この世界の理にはあり得ぬことではあるが、そこからはずれた現象を起こすものは存在している。実際、そなたに起こったことなのであろう?」


 ややあって、エリシオンは静かに口を開いた。

 その察しの良さに、アナスタシアは息をのむ。


「はい……」


 アナスタシアが肯定を呟くと、エリシオンは表情を変えずに頷く。

 そこには疑ったような様子はなく、アナスタシアの言うことを、ただそのまま受け止めているようだ。


「実は、時空に干渉する物に心当たりがある。仮説ではあるが……そなたが死んだというとき、側にセレスティアが作った聖剣があったのではないか?」


 思いもかけないことを問われ、アナスタシアは絶句する。

 確かに、前回の人生で最期に見たのは、勇者シンの腰に下げられた聖剣だった。


「そして、己の無力さを痛感し、強い願いを抱きはしなかったか?」


 続く言葉にも、心当たりがある。

 全て奪い取られ、利用され尽くして人生を終えようとしたとき、アナスタシアは己の無力さに情けなさと悔しさを覚えた。

 そして、もし叶うならば、勇者シンと出会う前に戻りたいと願った。

 そのまま意識が途切れ、死んだはずだったが、気が付くと勇者シンと出会う前の魔術学院一年生に戻っていたのだ。


 何故アナスタシアが過去に戻ってきたかは不明で、どうせわからないだろうと、その要因を深く探ろうとはしなかった。

 だが、過去に戻ってきたのは突発的な奇跡ではなく、聖剣が引き起こした事象だったらしい。

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