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【書籍化】死に戻り魔術姫は勇者より先に魔王を倒します ~前世から引き継いだチート魔術で未来を変え、新しい恋に生きる~  作者: 葵 すみれ
第6章 勇者

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171.港町モナラートの祭り

「セレスティア聖王国内にあるモナラートっていう港町で、祭りがあって大規模な市も開かれるって聞いたんだ。近くの転移箇所もおじいさまに教えてもらったから、簡単に行き来できるよ」


 ところが、ブラントからの誘いはごく普通に観光しようということらしい。

 しかも簡単に行き来できるということは、その日のうちに帰ってくることができるということだ。

 覚悟を決めかけていたアナスタシアは、ほっとしたような、がっかりしたような、複雑な気持ちになる。


「……忙しいかな?」


 自分の気持ちに戸惑うアナスタシアの表情を見て、乗り気ではないと思ったらしいブラントは、少し困ったように首を傾げる。


「あ……いえ、大丈夫です。行きましょう」


 アナスタシアは慌てて自らの思いを振り払い、頷く。

 ブラントと一緒に出掛けるのは、嬉しいことなのだ。余計なことは考えずに楽しもうと、アナスタシアは気持ちを切り替える。


 そして数日後、祭りが開かれる日に合わせて、アナスタシアとブラントは港町モナラートに向かった。

 近場の転移箇所にブラントの【転移】で移動してから、歩いて行く。

 祭りの日だけあって、たくさんの人々が集まっているようだ。

 町中にはたくさんの露店が立ち並び、ところどころで大道芸人が芸を披露している。

 楽器を演奏する音や歌声も聞こえてきて、とても賑やかで楽しげな雰囲気だ。


「何から見ていこうか。市には掘り出し物が見つかることもあるみたいだし、屋台で何か食べ物を買って食べながら歩くのもいいし、迷うね」


 ブラントも浮き立ったような様子で、町中を眺める。


「向こうでは手品をやっていますね。本当に色々ありますね」


 祭り見物など初めてであるアナスタシアは、周囲の全てが物珍しい。

 前回の人生で祭りに遭遇したことはあったが、見物しているような余裕はなかったのだ。


「じゃあ、まずはその辺りを歩いてみようか」


 そう言って、ブラントは手を差し出す。

 アナスタシアは微笑みながらその手を取り、二人で歩き出した。


「何だか、ラッセルの町を歩いたときのことを思い出すね。そういえば、あのときの竜の牙を売ったときにできた共有財産、まだ残っているよ」


「そんなこともありましたね。半年くらい前のことなのに、随分と昔のことに感じられます」


 感慨深く、アナスタシアは呟く。

 前期休暇にブラントと二人で行ったラッセルの町は、色々な思い出ができた場所となった。

 近場にあった吸血の塔では、ブラントの両親の仇であるヨザルードと遭遇した。

 竜の牙を売却した代金が思いの外高額だったことから、報酬をなすりつけ合う争いも起こったものだ。

 そして何より、ブラントから告白されたという、忘れられない思い出がある。


 それからまだ半年程度しか経っていないのに、随分と状況は変わったものだ。

 名ばかりの王女だったアナスタシアは正当な第一王女として認められ、ブラントも魔王エリシオンの孫であることがわかった。

 マルガリテスを取り戻して結界も完成させ、今やアナスタシアとブラントは婚約者同士だ。

 今の幸せを、アナスタシアはしみじみと噛みしめる。


「あれ……あの露店で売ってるのって、もしかして黒い魔石かな?」


 訝しそうなブラントの声で、物思いに浸っていたアナスタシアは引き戻される。

 アナスタシアも露店を見てみれば、確かに黒い魔石らしきものが店先に並んでいた。

 二人はその露店に近づき、黒い魔石を見て確かめてみるが、やはり本物の魔石のようだ。


「……今まで、魔物化した相手には黒い魔石が埋め込まれていたよね。もしかしたら、これも危険なんじゃないかな」


「魔物化には特殊な魔石が必要だとは聞きましたけれど、その詳細までは聞いていませんでしたね。黒い魔石自体が珍しいですし、それっぽいですけれど……」


 アナスタシアとブラントは、二人して眉根を寄せながら黒い魔石を眺める。

 吸血の塔で竜を倒したときの魔石よりは、色が薄いようだ。

 ディッカー伯爵が魔物化したときに残した魔石と同等か、それよりも少し薄いくらいかもしれない。

 どことなく禍々しさも漂っているが、さほど強くもなく、ぼんやりとしている。


「うーん……よくわからないけれど、念のために買っておくか。後でおじいさまに聞いてみればいいだろう」


 ブラントはそう言って、黒い魔石を買い上げる。

 その際、陰気な店主に魔石の出どころを尋ねてみるが、流れのハンターが持ち込んだものだそうで、詳細はわからないとのことだった。

 ブラントは黒い魔石を懐にしまうと、二人は露店を離れて再び散策に戻る。


 しばらく露店を眺めたり、立ち止まって大道芸を見たりしていると、だんだん空腹を覚えてきた。

 二人は大階段のある広場で、いったん休憩することにする。

 周辺では階段に腰掛けて休憩している人々がいて、二人もそれに倣う。

 中には野菜や肉を挟んだパンや、湯気の漂う飲み物といったものを飲み食いしている人もいて、良い香りが漂ってくる。


「ああ……食べ物や飲み物も、すぐそこで売っているね。ちょっと買いに行ってくるよ。アナスタシアさんはここで座って待っていて」


 広場内にも出店がいくつか並んでいて、そこで食べ物や飲み物も売られているようだ。

 ブラントはアナスタシアを残し、そちらに向かっていった。

 それを見送りながら、アナスタシアはぼんやりと広場を見回す。


 様々な人々が楽しそうに歩いているが、足取りがふらついている姿も見受けられる。どうやら、酔っ払っているらしい。

 祭りだけあって、昼間から酒を飲んでいる者もいるようだと、アナスタシアはさほど気に留めることなく、他のものに視線を移す。

 すると、アナスタシアの視線を遮るように、目の前に誰かが立ちはだかった。


「お嬢ちゃん、一人ぼっちで寂しそうだな。一緒に遊んでやるよ」


 ニヤニヤとした若い男が、酒臭い息と共に声をかけてきた。

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